つらつら日暮らし

篤胤が理解している仏教の礼拝について(拝啓 平田篤胤先生36)

前回までの記事などを受けつつ、江戸時代末期の国学者・平田篤胤(1776~1843)の『出定笑語』を読んでいたら、我々仏教徒の礼拝についての見解を述べていたので、確認しておきたい。まず、そもそもは『分別功徳経』を典拠にしつつ、釈尊が地元であるカピラ国に帰った時に、父親である浄飯王が平伏していたところ、釈尊が空から降りてきたので、その足元に礼拝している格好になったことを論じた際に、仏教の礼拝へ言及したのである。この辺は、儒学的な親子観念を用いて、仏教がそうではないと批判したいのであろう。

ただ、今回はその辺はどうでも良くて、むしろ、篤胤が礼拝をどう把握していたかを見ておきたい。以下の通りである。

一体天竺の礼といふものは、合掌じや、偏袒右肩じや、結跏趺座じやといふ類が都て九通りある。其中にこの足お頂くの礼はいつち尊ぶのかたちで、まづ貴人に出逢た時稽首と云て、地べたへ首おつけ、さて其間が近ければ其貴人の踵おなで又足をねぶるでござる。すると其貴人が手を出して其あしおねぶる者のつむりをなでさすりて、どうだかわる事もないかといふやうに辞をかける。是が則其礼拝お受たるのかたちで、諸の経に仏足頂礼又頭面礼足など有は此ことでござる。なんと是も国がら相応の礼なら、しかたはなけれども、さてさて親たるものに足を頂かせねぶらすと云は人たる者の忍びがたく出来る事じやが、釈迦も真にこゝらは豪傑でござる。
    『平田先生講説 出定笑語(外三篇)』71頁


まず、礼法が9種類あるというのは、何を参照したのだろうか?

 礼則の品、九等を列す。旋、乃ち左右に分かつ。右旋を吉と名づけ、左繞を凶と為す。匝数、則ち一二三より、乃至、百千なり。各おの表する所に随う。且く常の如く三匝を行ずるは、三尊を供し、三毒を止め、三業を浄め、三悪道を滅し、三宝に値うことを得ることを表す。余、意思すべし。此れ不繁の論なり。
 九等と言うは、
 一は発言慰問、
 二は俯首示敬、
 三は挙手高揖、
 四は合掌平拱、
 五は屈膝、
 六は長跪、
 七は手膝踞地、
 八は五輪倶屈、
 九は五体投地なり。
 凡そ斯の九等、惟だ一拝に極む。跪して讃徳し、之を尽敬と謂う。遠くは則ち稽顙拝手し、近ちは則ち舐足摩踵なり。
    弘賛『四分戒本如釈』巻11


・・・合わないな。ただ、篤胤の見解はともかく、先に挙げたような批判を行うことだから、何でも良いといえば良い。ただ、篤胤が指摘している「まづ貴人に出逢た時稽首と云て、地べたへ首おつけ、さて其間が近ければ其貴人の踵おなで又足をねぶるでござる」は、上記の文章の末尾に見えることであり、そこから調べ直したら、弘賛法師の見解は玄奘三蔵『大唐西域記』だったことが分かった。

 致敬の式、其の儀九等なり。
 一は発言慰問、
 二は俯首示敬、
 三は挙手高揖、
 四は合掌平拱、
 五は屈膝、
 六は長跪、
 七は手膝踞地、
 八は五輪倶屈、
 九は五体投地なり。
 凡そ斯の九等、惟だ一拝に極む。跪して讃徳し、之を尽敬と謂う。遠くは則ち稽顙拝手し、近ちは則ち舐足摩踵なり。
 凡そ其れに辞を致して命を受け、褰裳長跪す。尊賢、拝を受ければ、必ず慰辞有り、或いは其の頂を摩し、或いは其の背を拊し、善言もて誨導し、以て親厚を示す。
    『大唐西域記』巻2「致敬」項


そして、この末尾の部分を篤胤が参照している可能性が高いことも分かった。ただ、やはり九等の分類は合わない。それから、篤胤は諸々の経典に「仏足頂礼又頭面礼足」などが見えるというが、例えば「仏足頂礼」を四字熟語のようにして出ている経典はほとんど無い。まぁ、「頭面礼足」はかなりの仏典に出るので、そっちを指していると思えば良いのかな。

そういえば、篤胤がいう「なんと是も国がら相応の礼なら、しかたはなけれども、さてさて親たるものに足を頂かせねぶらすと云は人たる者の忍びがたく出来る事じやが、釈迦も真にこゝらは豪傑でござる」について、釈尊はそれは豪傑だと思う。そうでなくては、新しい教えをしっかりと見出して、それで多くの人を救うなんて出来ないからな。だいたい、真実の救済は智慧でもって、如実知見したところを、まずは自分で信じるところから始まるが、それは従来の常識にとらわれないことを意味してもいるのである。まさに豪傑そのものだ。

【参考文献】
・鷲尾順敬編『平田先生講説 出定笑語(外三篇)』(東方書院・日本思想闘諍史料、昭和5[1930]年)
・宝松岩雄編『平田翁講演集』(法文館書店、大正2[1913]年)
・平田篤胤講演『出定笑語(本編4冊・附録3冊)』版本・刊記無し

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