つらつら日暮らし

今日は明恵上人忌(令和6年版)

1月19日という日付に因む事績を調べてみると、明恵上人忌であると示すページなどがある。よって、今日は明恵高弁上人(1173~1232)の御遷化の様子を『栂尾明恵上人伝記』巻下から見ておきたい。

 (寛喜4年正月)同十九日、今日臨終すべしとて、別の衣袈裟著替へて、又法門聊か云ひ給ふ、「我幼少の当初に、諸一切種諸冥滅、抜衆生出生死泥、敬礼如是如理師と読み始めしより、志す処、偏に聖教の深旨を得て、名利の繋縛に纏はされざらん事を思ひき。人は只、名利が知れずして、身に添ひ心を離れぬ者也。山中の衆僧、穴賢、用心すべし」なんどとて、其の期近付く程に、高声に打ち揚げて唱へ給ふ処、「於第四都率天、四十九重摩尼殿、昼夜恒説不退行、無数方便度人天」と誦し、其の後又、「稽首大悲清浄智、利益世間慈氏尊、灌頂地中仏長子、随順思惟入仏境」と誦して後、「此の五字に八万四千の修多羅蔵を摂す。五字を誦せよ」とて誦せさせて、我は理供養の作法を以て行法あり。
 行法終へて後、合掌して唱へて云はく、「我昔所造諸悪業、皆由無始貪恚癡、従身語意之所生、一切我今皆懺悔」と誦して、定印に住して坐禅す。良久しくして出定し告げて云はく、「其の期近付きたり。右脇に臥すべし」とて臥し給ふ。
 手を蓮花拳に作りて、身の上に横たへて胸の間に置く。右の足を直く伸べたり。左の足をば少し膝を屈して上に重ねたり。面貌、歓喜の粧ひ忽ちに顕れ、微咲を含み、安然として寂滅し給ふ。春秋六十歳也。
    『栂尾明恵上人伝記』巻下


明恵上人御遷化の経緯は、以上の通り書かれている。その前に、例えば何か病などはあったのか?と思うと、同じ『伝記』には「冷え性」になっていたことを示す教えはあるが、死因に繋がるかと思われるのは、寛喜3年(1231)10月に「所労の気ありて不食に成り給ふ」とあって、食事を摂らなくなり、翌年1月になると遺誡などを示し始めている。

さて、その上で寛喜4年1月19日に、上記の通り臨終となった。その詳細を書いておきたいのだが、まず着替えをされた。いわゆる涅槃衣かどうかは分からない。それで、法門を教えられたのだが、幼少の頃から「諸一切種諸冥滅……」と読み始めたとされるが、この一節は玄奘三蔵訳の『倶舎論』巻1「分別界品第一」であるが、『行状記』では『倶者頌』だと指摘されている。

明恵上人は、その教えを元に、聖教の旨を得て、名利にはとらわれないようにしたいと願っていた。他の僧侶にも、それを勧めている。やはり、仏道修行は名利心から離れることが肝心なのである。

その後、死期が近付くと、「於第四都率天……」と唱え始めたが、この典拠は『心地観経』巻3「報恩品第二之下」だとは思うが、もう一点、解脱房貞慶上人『弥勒講式』の一節とも近い。両方を合揉したような文章に見える。これは、弥勒菩薩がおられる兜率天の様子を示したものである。阿弥陀信仰ではなく、兜率信仰であることを示す。

また、「稽首大悲清浄智……」は、『華厳経(四十華厳)』巻34「入不思議解脱境界普賢行願品」の一節であるが、こちらも「慈氏尊」と出ているように、弥勒菩薩に因み、讃える内容である。

さて、ここまではまだ分かるのだが、以下が難しい。特に「此の五字に八万四千の修多羅蔵を摂す。五字を誦せよ」という「五字」は全く意味が分からない。そこで、先行研究を見てみたが、『行状記』には「文殊の五言真言」だという指摘があるそうだ。よって、いわゆる「阿、囉、跛、者、曩」(アラハシャノウ)の「五字呪」ということか。

続く「理供養」は「供養とは理事供養なり。理とは理を会して証に入る。是れを理供養と云うなり」(『大毘盧遮那経供養次第法疏』巻上)とあって、『華厳経』の偈に見える「随順思惟入仏境」に通ずるものか。

ということで、拙僧はこの辺、全くの不勉強なので、何故これらの行法が臨終儀式となるのか分からないのだが、上記内容まで終えられてから、合掌し「懺悔文」(典拠は『華厳経』「普賢行願品」)を唱えると、しばし坐禅をされた。そして、右脇を下に横たわると、手を蓮花拳にし、足を定められた形にすると、顔には歓喜の様子が顕れ、微笑したまま、安らかに亡くなられた。

60歳であった。

最期、身体を横たえたまま遷化されるというのは、釈尊がそうだったと伝わる。例えば『長阿含経』巻4「遊行経第二後」では、釈尊の入般涅槃の様子を「化自在天王」が「仏今後夜に於いて、右脇を偃して而も臥し、此の娑羅園に於いて、釈師子滅度す」と讃えられている。ここから、右脇を下にして寝たまま般涅槃されたことが分かるのである。

もちろん、後代の『大般涅槃経後分』などでも記述が一致するので、釈尊の入般涅槃はそのようなものだったと理解して良い。釈尊を追慕していた明恵上人は、当然にその様子を準えられたのである。

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