つらつら日暮らし

今日は「獅子の日」らしい

今日4月4日は、語呂合わせで「獅子の日」らしい。ところで、仏教用語で「獅子」というと、仏陀の説法のことを獅子吼ということになっている。よって、典拠を調べてみた。そういえば、用例は以下のような感じである。

伝に曰く、釈迦牟尼仏誕生の時、乾坤六動し、五浄華を雨し、神瑞嘉祥畢く臻り、自ら方行七歩して、天上天下唯我独尊を獅子吼し給へりと、
    『米国仏教 3(4)』1902年


このように、釈尊降誕の時の「天上天下唯我独尊」についても既に、「獅子吼」と表現されている。それで、釈尊の説法を「獅子吼」と表現するのは、何なのかを調べてみたのである。

 云何が迦葉よ、汝、「如来、師子吼の時、勇捍ならざるや」と謂う。
 斯の観を造ること勿れ、如来の師子吼、勇捍にして畏れ無し。
    『長阿含経』巻16「第三分倮形梵志経第六」


以上のようにあって、如来自ら、獅子吼について解説されている。気にせず引用しているが、漢訳仏典だと、いわゆる「獅子」と「師子」は同じ意味で使われているので、「獅子吼」と「師子吼」も同じ意味だとご理解いただきたい。つまり、如来の師子吼は、勇捍(勇敢に同じ。勇ましく荒々しいさま)だというのである。

あれ?いや、上記の一節だと、「師子吼」と「説法」の繋がりが分かりにくいが、同じ箇所では以下の一節もある。

 云何が迦葉よ、汝、「如来、大衆中にて勇捍にして畏れ無く、師子吼を為して、善能く説法す、衆会して聴く者、一心ならざるや」と謂う。
 斯の観を造ること勿れ。所以は何となれば、如来、大衆中にて勇捍にして畏れ無く、師子吼を為して、善能く説法す、諸もろの来会者、皆な一心にして聴く。
    同上


こちらでは、師子吼と説法とが同じこととして使われていることが理解出来ると思うが、厳密に言えば、如来の説法の様子が、師子吼のようだと形容されていると理解すべきであろう。そして、それを聴く者は、みな一心に集中して聴いていると表現されているのである。師子吼とは、本来、そのような意義がある。

ところで、こういう時、様々な法話などでも、「師子は百獣の王にして」という表現を見ることがあるが、仏教的にはそれを共有しているのだろうか?すると、どうも、「百獣の王」の典拠の1つは、仏教の典籍だったらしい。

譬えば師子の百獣の王の如し、
小虫の吼えると為すは、衆の為に笑われる所なり。
若しくは虎狼、猛獣の中にても、
奮迅大吼す、智人、可なる所なり。
    『大智度論』巻3「初品中住王舍城釈論第五」


このように、明確に師子を「百獣の王(漢文表記上は「百獣之王」)」であるとしている。また、他にも、以下のような文献を見出した。

又、解脱者、是れ畏るる所無きは、師子王の如し、諸もろの百獣に於いて、怖畏を生ぜず。
    大乗『大般涅槃経』巻5「如来性品第四之二」


以上の通りなのだが、こちらは、仏陀のような解脱者が何も恐れない様子を、「師子王」とし、百獣に対しても恐れない様子だという。これも、「百獣の王」と読めなくも無いが、『大智度論』の表現はかなり直接的だと思われる。

さて、以上のような様子が理解出来た上で、そういえば、『大般涅槃経』の中には、「師子吼菩薩」が出て来る。それで語られた、或る有名な一節は、以下の通りである。

師子吼とは、決定説と名づく、一切衆生悉有仏性、如来常住無有変易(一切衆生、悉く仏性有り、如来は常住にして変易有ること無し)。
    同上巻27「師子吼菩薩品第十一之一」


「師子吼」の意義について、「決定説」という定義が新たに与えられている。「決定説」とは、「了義」ともいわれ、いわば仏説の中でも、確定的内容を指すものだと理解出来る。そして説かれた内容が、「一切衆生悉有仏性、如来常住無有変易」という仏性思想なのである。そして、この仏性思想を師子吼だと評した一節もある。

 釈迦牟尼仏言、一切衆生、悉有仏性。如来常住、無有変易。
 これ、われらが大師釈尊の師子吼の転法輪なりといへども、一切諸仏、一切祖師の頂𩕳眼睛なり。
    道元禅師『正法眼蔵』「仏性」巻


道元禅師の『正法眼蔵』「仏性」巻の冒頭の教えである。ここで、仏性思想に対し、「われらが大師釈尊の師子吼の転法輪なり」と評されたのは、典拠が「師子吼菩薩品」から引用されたこともそうだが、先の通り「師子吼とは、決定説と名づく」と経文に見られることも考えるべきなのである。

今日は「獅子の日」、是非、如来の師子吼を聞いておきたいところである。

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