つらつら日暮らし

『観音授記経』という経典について

阿弥陀仏の般涅槃について調べていた時、『観音授記経』という経典に注目した。すると、同経は『大正蔵』巻12に『観世音菩薩授記経』として入っているとのこと。大きな興味が湧いたので、早速見たいと思ったのだが、全部読むと、それなりの分量になってしまう。よって、浄土教系で引かれる箇所をまず確認してみた。

 問ひていはく、如来の報身は常住なり。いかんぞ『観音授記経』(意)に、「阿弥陀仏入涅槃の後、観世音菩薩次いで仏処を補す」とのたまふや。
 答へていはく、これはこれ報身、隠没の相を示現す。滅度にはあらず。かの『経』(同・意)にのたまはく、「阿弥陀仏入涅槃の後、また深厚善根の衆生ありて、還りて見ること故のごとし」と。すなはちその証なり。
    道綽和尚『安楽集』


この文脈は、先に挙げた「阿弥陀仏は入滅するのか?」の記事で申し上げた通りである。本経は、説くのは釈迦牟尼仏で、聞いているのは華徳蔵菩薩である。そして、経の内容は観世音菩薩に関する話だが、観世音菩薩は阿弥陀仏の下にいる。しかし、阿弥陀仏から釈迦牟尼仏のことを聞いて、そしてこの娑婆世界に会いに来て、供養するという話なのであった。その話の最後に、釈迦牟尼仏が華徳蔵菩薩に対し、「阿弥陀仏入滅後」の話をするのである。それが、上記引用文である。

いまこの無量寿国は、すなはちこれ真より報を垂るる国なり。なにをもつてか知ることを得る。『観音授記経』(意)によるにのたまはく、「未来に観音成仏して阿弥陀仏の処に替りたまふ」と。ゆゑに知りぬ、これ報なり。
    同上


また、こちらの引用文も同様である。こちらも、観世音菩薩が後に成仏し、阿弥陀仏の場所に入られることを示している。

終益といふは、『観音授記経』(意)によるにのたまはく、「阿弥陀仏、世に住したまふこと長久にして兆載永劫なるも、また滅度したまふことあり。般涅槃の時、ただ観音・勢至のみありて、安楽を住持して十方を接引したまふ。その仏の滅度また住世の時節と等同なり。しかるにかの国の衆生は一切、仏を覩見したてまつるものあることなし。ただ一向にもつぱら阿弥陀仏を念じて往生するもののみありて、つねに弥陀現にましまして滅したまはざるを見る」と。これすなはちこれその終時の益なり。
    同上


それから、この引用文は、阿弥陀仏の仏徳が、いつから始まり、いつ終わるかという話である。その功徳利益の終わりのことを、「終益」という。元々、阿弥陀仏は報身として無限の時間に功徳が及ぶと考えられることもあったが、本経をベースにすると、阿弥陀仏も入滅するという話となり、「終益」に及ぶのである。同じ浄土教系であれば、『安楽集』以外で引用される場合も、大概はここに近い部分であり、その意味では、本経の一番最後の章のみを引いていることが分かる。関心が、阿弥陀仏入滅に寄せられたためであろう。

さて、実際の本経では、前半部分に「如幻三昧」が説かれる。端的に「一切諸法が幻の如くなることを知る」という三昧で、究竟悉空の奥義なのである。華徳蔵菩薩は「何故、諸衆生が大悲心を発すのか?」という話を世尊に尋ね、世尊はその回答として、「如幻三昧」を説いた。更に華徳蔵菩薩は、「如幻三昧を得るのは、この世界では誰か?」と尋ね、回答として、世尊は諸菩薩の名前を挙げる。そして、華徳蔵菩薩は、「この世界以外でも、この三昧を得た者はいるのか?」と聞き、その回答こそが、観世音菩薩など、西方浄土にいる諸菩薩の紹介なのであった。よって、その本論からすれば、随分と関係無いところで「阿弥陀仏入滅」が説かれていることが分かる。しかし、浄土論師達は、そこに関心を集めたのである。

ただし、本経を学んでも、空観と慈悲心とがどう関わるのかを、部分的に知ることが可能である程度である。それ以外の特記事項は先に挙げた阿弥陀仏入滅くらいなので、なるほど、ここが採り上げられるのも無理ないか、と妙に納得したのであった。しかも、観音がいつ授記されたか良く分からないんだけど・・・釈尊の名号を聞いたときに、四十億の菩薩が発願して、善根功徳を回向したときの「仏、即ち授記したもう」の所に入っていないだろうしなぁ。

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