つらつら日暮らし

10月15日 冬安居

10月15日は冬安居の開始であるともされる(現代は、旧暦・新暦のズレの関係で11月が主流)が、この辺は色々と議論もある。例えば、経緯の説明という観点では、以下の一節が参照されるべきかと思う。

和漢の禅林、夏安居の外、冬安居に坐す。即ち十月十六日を以て結し、明年の正月十五日に至る。以て謂らく其れ便ち禅坐なり。夏安居に勝れり。既に古と為り。行事鈔に云く、律は通じて三時を制す〈前に夏安居の処に引く〉。故に仏制を知れば、亦た冬安居有るなり。
    「冬安居」項、無著道忠禅師『禅林象器箋』巻4「第四類節時門」


江戸時代の臨済宗妙心寺派の学僧である無著禅師は、以上のように指摘される。気になるのは、冬安居の開始を「十月十六日」にしていることだが、これについての詳細は後述する。のだが、典拠については複数挙げておられるものの、一番分かりやすいのは、以下の一節であろうか。

 栄西和尚興禅護国論に云く、夏冬安居、謂わく四月十五日に結夏し、七月十五日に解夏す。又た十月十五日に受歳し、正月十五日に解歳す。二時の安居、并びに是れ聖制なり。信行せずんばあるべからず。我が国、此儀、絶えて久しきなり。大宋国の比丘は、二時の安居するに闕怠無し。安居せずんば、夏臘の二名を称すれども、仏法中に笑うべきなり。
 忠曰く、十月十五日の受歳とは、恐らくは未だ増一の七月十五日の受歳の説を暁らめざるや。
    同上


これは、栄西禅師『興禅護国論』に於ける「第八禅宗支目門」から引用したものである。それで、四月十五日からの夏安居についてはこの通りだが、十月十五日からは「安居」とは表現されずに、「受歳」となっている。或いは、それを無著禅師は「臘」とも表現している。そこで、問題はこの「受歳」なのだが、無著禅師は『増一阿含経』を典拠としているが、同経巻24に「仏、阿難に告げて曰く、「汝、今、露地に於いて速やかに揵椎を撃て。所以は然らば、今、七月十五日、是れ受歳の日なり」」という表現が見えるので、これを指しているのだろう(他にも、「受歳」を扱う経典は存在する)。

つまり、一夏の安居が終わり、「受歳」したということは、比丘としての年齢に相当する「法臘」を1歳重ねたことを意味するわけである。そして、無著禅師はこれを、栄西禅師は冬安居に適用させ(或いは、そのような見聞をしてきた)たのかもしれないとしているが、疑ってもいる。確かに、古い文献にはこれを明らかにする文脈を見出すことは難しい。

それどころか、冬安居自体それほど多くの典拠があるわけでは無い。そこで、中国以東で冬安居の典拠にされたと思われる文献として、『梵網経』があるのだが、その原文は以下の通りである。

 なんじ仏子、常に二時に頭陀し、冬夏に坐禅し、結夏安居して、常に楊枝・澡豆・三衣・瓶・鉢・坐具・錫杖・香炉・漉水嚢・手巾・刀子・火燧・鑷子・縄床・経・律・仏像・菩薩形像を用うべし。而も菩薩、頭陀を行ずる時、及び遊方の時に、百里・千里を行来するには、此の十八種物、常に其の身に随えよ。
 頭陀は、正月十五日より三月十五日に至り、八月十五日より十月十五日に至る。是の二時中、此の十八種物、常に其の身に随うは、鳥の二翼の如し。
    『梵網経』「第三十七故入難処戒」


以上の通りなのだが、冷静に文章を見ていくと、「冬安居」とはなっていないわけである。あくまでも「冬夏に坐禅し」とはあるが、安居については「結夏安居して」とあるので、「夏安居」のみを指している。ただ、「冬坐禅」という形での、実質的な安居があったことは理解出来よう。

この場合、安居の対義語は頭陀(行脚に相当)になるが、その期間として、「頭陀は、正月十五日より三月十五日に至り、八月十五日より十月十五日に至る」とある。よって、三月中には行脚を終えて、四月十五日から「夏安居」を始めるが、秋の頭陀は「十月十五日」に終えるという。そのため、先に挙げた通り、無著禅師は「十月十六日」から「冬安居」とはしているが、表現として「冬安居に坐す」とし、『梵網経』の説である「冬坐禅」を十二分に採り入れつつ、自説を述べていることが分かる。

以上の通り、「冬安居」というのは、典拠などに乏しく、むしろ栄西禅師などが、どの辺を典拠にその実施を示しているのかも分からないのだが、近世以降は、無著禅師の言説のような影響もあったとは思うのだが、無著禅師ご自身が編集した『小叢林略清規』では、冬安居は見えない。一応、「月分清規第三」には「○十一月冬夜 冬夜諷経、結制の前晩の如し」とはあって、一定の儀礼が行われてはいるが、どこまでのものであったかは不明である。

どちらにしても、雪の多い地域では、冬安居はせざるを得ない。そういう気候的な対応として行われたものと理解すべきであろう。

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