goo blog サービス終了のお知らせ 

Tatsuya Morimoto The Innovation Finder

世の中を変えるようなイノベーションも些細な発見から始まる。だから日々発見を心掛けたい。いつか大きな成功へつなげるために。

NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」最終回の感想

2011-12-30 01:24:27 | オピニオン
 先週の日曜日(12月25日)に放映された最終回「日本海海戦」で足かけ3年に渡ったNHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」がフィナーレを迎えました。このテレビドラマ、原作にかなり忠実だったため特にオリジナリティーやサプライズがあったわけでもなく、原作を読んでいる人にとってはまさに想定の範囲内で淡々と進んだわけですが出演していた役者陣の豪華さとリアルな明治時代の風景や日露戦争での戦闘の模様などの迫力ある映像のおかげで個人的には非常に良かったと思っています。

 特にシーズン3はこの作品の日露戦争描写の二つの山場と言える乃木第三軍による旅順要塞攻撃戦と連合艦隊が対馬沖でバルチック艦隊を迎え撃った日本海海戦に多くの時間が割かれていたわけですが、私が想像していたよりはるかにレベルの高い、迫力のある映像になっていたことに驚きました。日本海海戦でT字戦法が始まる時の艦隊のターンのシーンや主砲が次々と咆哮するシーンなど本当にリアルでした。日本のCG技術の進歩もさることながら恐らく相当な制作費がかかったのではないかと推測します。このドラマはNHKが制作、放送してくれて本当に良かったと思います。愚直すぎるほどに原作に忠実で地味ではあったけれど非常にクオリティーの高い仕上がりだったと思います。これがフジとかだと面白いけれどもたぶん本来の「坂の上の雲」とは別物のなにやら「大げさな」仕立てになっていたのではないかなどと想像してしまいます。

 このドラマ、いろいろな面で非常に良かったのですが、最も際立っていた要素をひとつ挙げろと言われれば月並みながら渡辺謙のナレーションでしょう。原作の言葉、つまり司馬遼太郎独特のあの言い回しを朗読するようにそのままナレーションしているのが良かったですね。役者で使っても良かった渡辺謙をナレーションに起用したのはまさにNHKの英断だと思いますし、本当に贅沢な話です。謙さんは結局役者としての出演はありませんでしたがもし出るとしたら児玉源太郎あたりでしょうか。彼の帝国軍人の役はどうも硫黄島の栗林中将の印象が強すぎるのですが、きっとどんな役をやっていたとしてもすごい存在感を出したと思います。

 ちなみに僕が一番好きなシーンは最終回の秋山真之が友正岡子規の墓参りを済ませた後、坂道を下るシーン。原作でもまさに最後に出てくるシーンで何気ないシーンにも関わらずなぜかジーンと来たことを覚えていてそれが忠実にかつ美しい映像として再現されていたのでとても嬉しかった次第です。ちなみに原作は以下のとおり。

 「石碑が濡れはじめ、真之は墓前を去った。雨になった。庫裡で古笠と古蓑を借り、供養料を置いて路上へ出た。道は飛鳥山、川越へ通ずる旧街道である。雨のなかで緑がはるかに煙り、真之はふと三笠の艦橋からのぞんだあの日の日本海の海原をおもいだした。」

 その時の本木雅弘演じる真之の表情が決して晴れやかなものではなく少し浮かぬ感じなのが尚良かったです。なぜ平和そのものであるはずの東京の山の手の風景を見ている時に浪が高かったあの決死の日本海の海原を思い出したのか、なぜ自分の作戦によって完勝した戦いを思い出す時に笑顔ではなく不安な面持ちなのか、私にはそれは彼が一心不乱に登ってきた坂、一朶の雲を目指して坂を登ってきた結果、彼が想像していたような分かりやすい結末は残念ながらそこにはなかった、むしろ自分のこれから行くべき道を見失ってしまったことを暗示したシーンのような気がして強く印象に残りました。明治の日本、その国家という実態のない総体として捉まえれば戦争に勝った、良かったという話にも読めるのですが、実はその国家の成員として実際に生き、そこである種の役割を演じた各個人にとっては戦争などというものは結局何もいいことはないという強いメッセージがそこにはあるように私は感じています。

 この「坂の上の雲」という話はみんなで頑張って日露戦争に勝利した、日本はまさに神の国ですごい国なのだ、でもこの後この国は昭和に入って....みたいな国家レベルの話では終わりません。役目を終えた秋山兄弟はその後いついつ、どこどこで、こうやってひっそりと死にました、という極めて個人的な話として物語は終わりを迎えます。司馬遼太郎はこうも書いています。

 「(秋山兄弟を指して)かれらは、天才というほどの者ではなく、前述したようにこの時代のごく平均的な一員としてこの時代人らしくふるまったにすぎない。この兄弟がいなければあるいは日本列島は朝鮮半島をも含めてロシア領になっていたかもしれないという大げさな想像はできぬことはないが、かれらがいなければいないで、この時代の他の平均的時代人がその席を埋めていたにちがいない。」

 日本史や世界史といったレベルの世界ではとかくドラマチックな出来事やスーパーマンのような偉人達の活躍のみが取り扱われます。ただそれらには間違いなく多くの無名の人々が関わっているはずであり、そこには無数の個人レベルでの物語があります。司馬遼太郎さんは生前「坂の上の雲」の映像化の話があった時にこの作品が単なる戦争を主題にした作品として扱われること、視聴者にそのように受け取られることを強く危惧したと言います。そういうことをよほど考慮したのかNHKは戦闘シーンを最新技術でリアルに再現しつつも決してそこを過度に強調し過ぎず、十分に司馬さんの原作での意図を映像のなかでも再現することに成功したと思います。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿