○ DX(デジタルトランスフォーメーション)推進企業はDX人材の育成に重点を置いている。担い手がいなければDXを推進できないからだ。ただ、DX人材育成には「学びが進まない」「学んでも生かせない」との懸念がある。
デジタル以外のスキルも重視。
デジタルの知識だけでなく「変革に不可欠なスキルや知識」なども身に付けられるよう研修を実施していくことだ。
日本ガイシではDXを推進する「DXリーダー」向けの研修でロジカルシンキングを重視している。その背景を、斉藤隆雄DX推進統括部製造DX推進部長は、「ものづくりのDXでは最終的に工場にいる現場の人たちを動かして、成果を出してもらわなければいけない。現場の人たちが動くには、説得力のある説明が欠かせない」と説明する。
業務でデータ分析ができる「DXビギナー」の研修でも、ロジカルシンキングに近い内容を教えている。社内には分析対象にできるデータが豊富にあり、社員はExcelで手軽に分析できるという。しかし「Excelできれいなグラフができた、で終わってしまうことが多い」と榎島徹人材統括部ダイバーシティ推進部専門部長は指摘する。
そこでロジカルシンキングに関する内容を研修に含めて「何が課題なのか、それを解決するにはどんなデータをどう分析すればよいのかなど基礎を学んでもらうようにしている」と続ける。
さらにデータ分析でリーダーを支援する「DXサポーター」向けの研修では、IE(インダストリアルエンジニアリング)やTPS(トヨタ生産方式)といった社内で採用している業務変革手法も研修項目に加えた。「IEとTPSを理解していなければ、データ分析をしても、ものづくりでは意味がない」(斉藤部長)ほど、変革の「原理原則」といえる知識だからだ。
PythonのプログラミングやPM、業務プロセスも。
DX推進に不可欠な「エンジニアとのコミュニケーションを取りやすくするスキル」の習得を重視している1社が味の素だ。同社は、「ビジネスDX人財」の上級の講座で、Pythonのプログラミングとプロジェクトマネジメント(PM)を研修項目に組み込んでいる。
プログラミングを学ぶことで、「プロジェクトでどんなプログラムを開発してほしいのか、より具体的に指示できるようになる」と永島グループ長は説明する。PMについても、「AIプロジェクトでマネジャーと同等の会話ができて、考えていることが分かってくる」(永島グループ長)。
「担当業務以外のことも考えられるスキル」の習得を進めるのが、アフラック生命保険だ。マーケティング担当者向けのDX研修では、業務プロセスをつくったり見直したりしていくビジネスプロセスデザインを教えている。
保険業における業務プロセスの設計スキルは、保険契約を管理するような業務部門の担当者に必要なスキルとのイメージが強い。だが同社の清水課長は「マーケティング担当者も後続の業務フローを理解する必要があるため、ビジネスプロセスデザインを学ぶようにしている」と説明する。「DXでは、社内の業務プロセス全体を対象にすることで、初めてプロセスを効率的にできる」(同)ためだ。