〇 押さえておくべきサービスはこれだ。
AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)、Google Cloud、Microsoft Azureはサービスのラインアップが似ているが、用語やサービスの構造、利用できる機能などに差異がある。本連載ではテーマ別に各クラウドの特徴を取り上げ、違いを浮き彫りにしていく。第13回から第15回は、最近注目されている技術である人工知能(AI)をテーマに解説する。第14回はGoogle Cloudを取り上げる。
人工知能(AI)はここ10年ほどITシステムの最重要トピックであり、AI分野への早急な参入を検討している企業も多いことでしょう。しかし、その一方で、人材をどのようにして確保するかが、大きな課題となっています。
ここで注目したいのがクラウドです。クラウドでは、AIに関わる技術の習熟度に関わらず、AIの開発を支援するサービスが、広いユースケースに対して用意されています。AIの構築からデプロイ、保守運用までを円滑にするサービスや、AI開発に必要となる高性能なコンピューティングリソースも提供されているため、企業は導入コストを抑えて、AIサービスをスモールスタートできます。
3大クラウドはどれもAI関連サービスを多数取りそろえています。前回記事でも記載した通り、クラウドでのAI開発は大きく、
- クラウド側が提供する事前学習済みモデルを利用する方法
- ユーザーが自らモデルを構築する方法
の2つの選択肢があります。
今回解説するGoogle Cloudも、両方を支援するサービスを提供しています。(1)に該当するのが「デベロッパー向けAI」、(2)に該当するのが「データサイエンティスト向けAI」です Google Cloudのサービス紹介ページ 。
デベロッパー向けAI:専門知識不要で迅速なAI活用を可能に。
まず、Google Cloudの「デベロッパー向けAI」サービスについて解説します。デベロッパー向けAIは、事前学習済みのモデルを、GoogleがAPIとして提供するサービスです。利用者は機械学習の知識や学習データがなくても、APIを利用すれば機械学習機能を実装したアプリケーションを構築できます。
デベロッパー向けAIでは、視覚、音声、言語、意思決定の4つの分野向けにそれぞれ、ユースケースに応じて細分化したサービスを用意しています。
Google Cloudのデベロッパー向けAIの主なサービス
要素 |
サービス名 |
機能内容 |
視覚 |
Vision AI |
画像から感情やテキストなどを検出するための事前トレーニング済みモデルを提供する。画像を分析し、物体や人物、テキストを認識できる |
Video AI |
保存済み動画およびストリーミング動画に含まれる膨大な数のオブジェクト、場所、アクションを自動的に認識するための事前トレーニング済みモデルを提供する。動画を分析し、物体や人物、動物、ランドマークなどを認識できる |
音声 |
Speech-to-Text |
125以上におよぶ言語/言語変種に対応した音声認識と音声文字変換の事前トレーニング済みモデルを提供する。音声を正確にテキストに変換できる |
Text-to-Speech |
220以上の音声と40以上の言語を利用して、テキストを自然な音声に変換できる |
Dialogflow |
自然言語で対話可能なチャットボットを作成できる |
言語 |
Translation AI |
テキストを100以上の言語に瞬時に翻訳できる |
Natural Language AI |
非構造化テキストから感情分析や分類ができる |
意思決定 |
Recommendations AI |
データに基づいて、個人に最適化されたレコメンド機能を構築できる |
こうしたモデルを構築するには、一般にデータの収集、データの前処理、高精度の分類・回帰を実現できる学習、パラメーターのチューニングを実施する必要があります。この工程はAIの専門家でも試行錯誤が必要で、かなりの手間と時間を要します。
事前学習済みモデルを利用すれば、こうした工程を省けます。データ収集やモデル学習に要する時間を大幅に削減できるうえ、モデル構築に関する高い専門性も不要です。ユーザーはAIに関する技術を習得していなくても、検証用のデータを用意するだけでAIを活用したアプリケーションの開発に取りかかれます。
事前学習済みモデルの使い方もシンプルです。利用者は、GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)やREST API、SDKを通じてデータを送信すればAIによる解析結果を受け取れるため、容易かつ迅速に開発システム内にAIを組み込めます。
目的と合致したモデルがない場合は「Cloud AutoML」。
自社の目的にぴったりと合った事前学習済みモデルが提供されていないという企業に対しては、最小限の労力と機械学習の専門知識で、独自の機械学習モデルのトレーニングが可能な「Cloud AutoML」が用意されています。Cloud AutoMLを使用すると、学習データは必要となりますが、コードを記述することなく、画像、表形式、テキスト、動画のデータセットに対してモデルをトレーニングして、カスタマイズできます。
画像を例にすると、Vision APIではGoogle Cloudが事前にトレーニング済みのものしか検出できませんが、Cloud AutoMLを利用することで独自の画像検出が可能になります。独自の画像と正解ラベルを与えて、画像分析の挙動をカスタマイズできます。分析に手を加える必要がある場合は、Cloud AutoMLの利用を検討するとよいでしょう。なお、Cloud AutoMLは、次に紹介するVertex AI Platform上で使用します。