○ 「JBL TOUR PRO 2」(以下、TOUR PRO 2)は、ハーマンインターナショナルが「JBL」ブランドで展開している完全ワイヤレスイヤホンの最上位モデルだ。音質の良さに加え、ノイズと逆位相の音を発生させてノイズを打ち消すアクティブ・ノイズ・キャンセリング(ANC)機能など、完全ワイヤレスイヤホンに求められそうな機能を網羅した万能型の製品だ。
充電ケースにタッチ操作対応ディスプレーを備えるのも特徴で、スマートフォンを取り出さなくてもケースからイヤホンの設定、音楽再生の操作、通知の確認などができる。公式オンラインショップの販売価格は3万3000円(税込み)。イヤホンの音質や付加機能、操作性、そして充電ケースが備えるディスプレーの使い勝手を試してみた。
良好な装着感、聞こえ方はユーザーの耳に最適化。
イヤホンを装着してまず感じるのは装着感の良さだ。本体は厚みがあるが、耳によくフィットする。耳の穴にねじ込んだイヤーピースで固定するというよりも、穴の周囲に引っ掛けるようにして装着するため、耳への圧迫感が少ない。それでいてしっかり密閉されるので、ANC機能をオンにすると、周囲の音をシャットアウトしてくれる。
TOUR PRO 2は、スマートフォンの専用アプリ「JBL Headphones」で様々な設定が可能だ。その中に、正しく装着できているかどうかをチェックする機能がある。イヤーピースのサイズが適切か、ANC効果が十分発揮されているかどうかを確認できる。
専用アプリには、ユーザーの年齢やリスニング経験に基づいて再生音を最適化する「Personi-Fi(ペルソニファイ)」という機能もある。実際に初期状態から自分の年齢、性別、リスニング経験をいろいろ変えて聞き比べてみると、高音域が鋭くなるなど聞こえ方が微妙に変化した。こうしたカスタマイズ機能により、耳のサイズや年齢などによらず最適な音が得られるようになっている。
音は優秀、ANC性能は強すぎず弱すぎず。
スマートフォンとペアリングして音楽を聴いてみた。まず感じたのは音の良さだ。JBLはスピーカーのメーカーとして知られている。そのJBLのスピーカーを聴いたときに感じるような、立体感のある少し乾いた印象の音がする。解像度の高さも感じられ、音の細かい部分まで聴きとりやすい。低~中音域の量感も過不足がない。
専用アプリのイコライジング機能を使えば自分好みの音に調整することも可能だ。その中でも「STUDIO」に設定すると最もJBLらしさが出るように感じた。音の良い完全ワイヤレスイヤホンを選ぶなら、有力な候補になるだろう。
次にANC機能の効き具合を確かめた。TOUR PRO 2ではANCの効き目の強さを7段階で調整できる。周囲の騒音に合わせて効き目の強さを自動的に切り替える機能もある。効き目は、例えば米BOSEの「QuietComfort Earbuds II」と比べると高音域のノイズの抑え方がやや弱く感じられる。
実際に走行中の地下鉄車内で効き目を比べてみると、TOUR PRO 2は「サーッ」というノイズが大きく聞こえてきた。その半面、ANC機能を使うときに感じがちな耳への圧迫感はほぼなく、聞き疲れしにくい。快適な装着感と相まって、仕事で長時間にわたって身に着けるヘッドセットとして使いやすそうだ。
外音取り込み機能には2通りある。1つは「アンビエントアウェア」と呼ぶ一般的なタイプ。もう1つは「トークスルー」と呼ぶ人の声を大きく聞かせるタイプで、買い物をするときのレジでの会話や、仕事中に話しかけられたときなどに便利な機能だ。どちらのタイプも、いかにもマイクで拾ったような音ではなく、かなり自然な音である。
TOUR PRO 2はマイクを使った音声通話やビデオ会議にも使える。片側だけの使用に対応しているほか、マルチポイント接続に対応しており、2台のデバイスと同時接続して自動的に切り替えられる。例えばスマートフォンおよびパソコンの両方とペアリングしておき、パソコンでのビデオ会議中にスマートフォンに着信があれば自動的に接続先をスマートフォンに切り替えて通話する、といった使い方が可能だ。
仕事で役立ちそうに感じたのはSilentNow機能だ。同機能は、一定時間経過後にBluetooth接続を解除して音楽再生を止め、ANC機能をオンにして、さらに一定時間が経過するとアラームを鳴らすというもの。その経過時間を設定できる。
例えば新幹線に乗っていて少し眠りたいとき、10分間音楽を聴いてからANC機能で騒音をカットして眠りにつき、到着の20分前になったらアラームを鳴らして起こしてもらうといった使い方ができる。仮眠をとりたいときに便利だろう。そのほか、60分まで設定できるアラーム機能もある。
高い音質や豊富な付加機能は好印象だが、気になったのはヘッドホン本体の操作性だ。アプリ上で左右のタッチボタンに操作を割り振ることができるが、この操作が「アンビエントサウンドの操作」(ANC機能や外音取り込みの操作)、「音量コントロール」、「再生&音声アシスタントの操作」の3タイプに分けられていて、タイプごと入れ替える仕組みになっている。従って、左右のタッチボタンを合わせて2タイプしか設定できない。
完全ワイヤレスイヤホンの多くは、操作を柔軟にカスタマイズできるようになっている。筆者がANC機能搭載ワイヤレスイヤホンを使うときは、ANC機能や外音取り込み機能の切り替え操作、音量の操作、再生・停止や楽曲の移動を、左右それぞれの操作ボタンに割り振って使うことが多い。そうすることで、耳元だけで操作がほぼ完結するからだ。しかしこうした割り振りがTOUR PRO 2はできない。前述の3タイプの操作のうち、どれか1つはスマートフォンや充電ケースから操作することになり、そこにストレスを少々感じた。
意外と便利な充電ケースのディスプレー。
TOUR PRO 2は、充電ケースに1.45型のタッチ対応ディスプレーを搭載しており、ここでイヤホンを操作できるのが大きな特徴だ。そんなことはスマートフォンのアプリでやれば十分じゃないかと思っていたが、スマートフォンを使わずに操作できるのは意外に便利だ。
例えばヘッドホンをパソコンのビデオ会議に使っていてANCやミュートなどの操作をしたくなったとき、わざわざスマートフォンにつなぎ直さなくても充電ケースのディスプレーから操作できる。普段スマートフォンをバッグに入れている人なら、充電ケースを衣服のポケットに入れるなどして手元に持っておけば、スマートフォンをバッグから取り出さなくても音楽や設定の操作が可能だ。
充電ケースのディスプレーは、左右にスワイプすることで操作可能な機能を切り替えられる。あまりたくさん表示されるとスワイプして切り替えるのが面倒なので、よく使う機能に絞っておくと使いやすい。
充電ケースから操作できる機能は音楽再生の操作とボリューム調整のほか、ANCや外音取り込み機能の切り替え、イコライザーの設定、タイマー、スクリーンセーバーの切り替えなどだ。メッセージの着信も表示される。ディスプレーを白く点灯させてライト代わりにする機能や、ヘッドホン本体がどこにあるのか分からないときに音を鳴らして探しやすくする機能もある。
充電ケースの機能は今後のファームウエアアップデートで拡充する予定だ。筆者としては、例えばディスプレーに表示されるスクリーンセーバーの画像を好みのものに入れ替えたり、着信したメールの内容を表示したり、時刻を大きく表示して時計代わりに使えたりすると、さらに便利だと思っている。
TOUR PRO 2は非常に多機能な完全ワイヤレスイヤホンだ。他の完全ワイヤレスイヤホンにある機能はほぼ網羅していると言っていいほどだ。さらに充電ケースのディスプレーを使って、スマートフォンがすぐには使えない状態でも操作できる。通話やビデオ会議に使うヘッドセットとしても優秀で、長時間使いやすいANC機能や仮眠に便利なSilentNow機能など仕事でも便利に使えるだろう。
そして、何よりも音が優秀だ。完全ワイヤレスイヤホンとしては高額な部類に入るが、「仕事でもプライベートでも活用できる万能選手」のような製品を求めている人にお薦めだ。