出会ったのは
ほんの子どもの頃で
父の持っていた
結構な美術全集の
ささやかな片隅だった
その画家の絵は
その一点しか
掲載されていない
そして、その絵は
この大作ではなくて
多分、もっと
ちっちゃな絵で
少年が、かざした
蝋燭と、その炎
少年は、その炎を
見つめていて
蝋燭をかざす、その手は
炎に、浮かび上がって
そのいのちを刻む
密やかな血流は
蝋燭の炎に
透き通されていた
その少年の掌、指先
そして、やっぱり
幼かった自分
少年の自分の
掌と指先
きっと、見比べていたと思う
そんな記憶
多分、食い入るみたいに…
随分と
年月が、経った
自分は、もう
老いていくおとなで
妻も、傍にいて
目の前にする
この絵は
少年の日に
ふと、魅入られた
あの絵ではないけど
結構な、大きさで
自分に、迫ってくる
この偉大な絵は
あの絵と同じに
深い闇、蝋燭の炎
浮かび上がる
少年の無垢
仄かな横顔
奥深い闇
ただ音もない
燃え立つ炎
かざされた掌
握られた蝋燭
その炎は
ただ、果てしない静けさに
燃え盛っている
神の子となる
その少年
その無垢、神性
血流は、やはり
透き通っていたのだ
自分には
変わらない想い
いや、違う
老いた自分は
その神の子の少年の
でも、市井のひとに過ぎない
その父親のように
蝋燭の炎が
微かにしか届かない
背後の闇の深み
その深みに
憔然としていて
ただ、佇んでいたのだ…