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日記、日々の想い 

しろ、しんみり、しみじみ

 まあ、毎日、ラブラブ。ひぃ〜っ、ひぃ〜っ。忙しく、散歩をしていた。しろ。大農家の家の玄関辺りになると、一応、セントバーナードの呪縛からは、逃れられる。アルプスでは、お利口で、優しい救助犬かも、知れないけど。しろにとっては、ただただ怖しい恐怖の対象でしか、なかったのだろう。
 雑種と言っても、血統書が無いだけで、犬種のはっきり分かる犬は、同様なサイズになるが、しろは、母親が、小型の部類。だから、大型犬の部類には入るが、大抵の純血種の大型犬には、サイズで、太刀打ち出来ない。それで、その頃、この田舎町を跋扈していた大型犬とすれ違う時などは、対シェパードのように、結構、卑屈になってしまっていた。
 しかし、この大農家の飼う二頭のセントバーナードは、それどころではない。大きさも、大きい方に見えて、あの野太い地を揺するような吠え声と言い、しろにとっては、同じ動物とは、思えなかっただろう。
 ただ、その二頭の気配が、母屋の向こうに隠れると、しろ復活。いきなり、大復活。この辺が、この犬は、とっても分かり易かった。強きに挫けて、弱きを痛ぶる。正義の味方と言うよりは、悪の使い走りとでも、言ったら良いのだろうか。この性格の弱さと悪さは、やがて、二匹目の犬を飼う時に、飼い主一同、まざまざと、思い知らされることになる。
 大復活したしろは、早速、あっちへ、くんくんっ。こっちへ、くんくんっ。しゃあ〜っ。時々、しみじみ。くんくんくんっ。もう、ひとのこんもりを、そんなにしみじみ嗅ぐなくても。草むらに、鼻を突っ込んだまま。
 この大農家の前の農道は、大きく左へカーブしていて、やがて、直線の農道と交差する。大農家の反対側は、ずっと水田が続くが、このカーブの内側の水田だけは、当然不整形だった。この地域の水田は、大河川T川のスーパー堤防まで、ずっと広々と続いていて、綺麗に区切られていた。水利もしっかりしていて、水は、水田に規則正しく設置された水栓を、ひねるだけで、供給される。
 ただ、里山を背負ったこの水田は、少し違う。水栓は、あったと思うが、カーブの道路沿いは、水路の様になっていて、一年中水がある。元々は、小さな池だったのかな、と言う感じだった。その水路は、初夏を迎えると、高い葭原になる。道沿いは草むら。どこから、水路になっているのか、良く分からない。
 すると、その道を、あちこち走ったり、止まったりしながら、しろは、必ず、その草むらと葭原の一番深そうなところに突っ込む。完全に身体が、隠れるからだ。そして、草むらの陰で、落ち着く。しんみり、しみじみ。
 その時代、ハスキーが、人気で、とにかく、いっぱい飼われていた。あの歌舞伎の隈取りの様な顔と、大型犬だが、小さめで、手頃だったのかも知れない。ただ、ソリ犬で、運動量も、物凄く必要で、寒冷地の犬だから、毛並みも、密生していて、日本の熱さに、向かない。あっ、一応、しろは、綺麗で艶やかな、白い毛並みだったが、すかすかで、ピンクの地肌が見えたから、日本の暑さには、向いていた思う。とにかく、ハスキーは、日本には、適した犬ではなく、あっと言う間に飽きられて、捨て犬だらけになってしまった。本当に、犬の飼い主も、無自覚な人がいる。犬は、ぬいぐるみではない。見た目が可愛い、この子にしようでも良いが。生命なんだから、飼い主には、その生命を守り切る覚悟が、なければならない。
 と、すっかり、話が逸れた。そんな風に、ハスキーなどは、ソリ犬だから、走りながら、してしまう。これは、歩きながらする馬や牛と同じ生来の習性。ソリ犬だから、走りながらするのが、都合が良い。だから、年中見掛けるハスキーが、そんなだから、しろも、動きながら、する。或いは、せいぜい、片脚を上げてするしゃあ〜っみたいに、簡単にするものだと思っていた。
 ところが、しろは、なるべく、草むらに身を隠して、人間の和式のスタイルの様に、しゃがんで、しんみりする。誰かが、近づくと出来なくなってしまったりする。神経質なのか、野生の血なのか。
 それで、身を隠し易い葦原は、しろのお気に入りになってしまった。だから、必ず、その辺りの深い草むらに、潜り込んで、しんみりしみじみ。落ち着く習慣になってしまった。ただ、葦は、水路に生えているのだ。葦の手前の水路の斜面に続く深い草むらは、良い。しかし、草むらが深過ぎて、水路との境目が、分からない。そして、草むらに脚を取られたしろが、ずるっずるっと。自分も、引っ張られてずるずるっと。やばい!
 もちろん、引っ張り戻して、余り草深そうなところには、行かせない様にするのだが。まだ、若くて、勢いの良かったしろ。中年太りで、足元の怪しくなった親父は、油断出来ない。意識して、体重を生かして抑え込んでいる時は良い。ちょっと、油断ずると、ずるずるっ!しろ、もろとも。草むらの斜面を滑る。危うく。もちろん、落っこちたことなど無いが。しろは、危うく落ちそうになって、何とか、踏ん張って引き上げる始末。これは、考えないと。
 いつもの逆に、散歩することにした。我慢出来ずに、途中で… と、こっちも、腹黒く、企んだ。すると、少しは、草むらのある畦道で、しんみり… しようとするのだが。だめ。落ち着かないらしい。やがて、いつものカーブ道との交差点へ。駄目だ!今日は、そっちは、行かせないぞ。と、思ったが。しろ、粘る。どうしても、あっちだって。諦めない。人間が、諦めるしかない。こんなつまんない記憶だけは、良いんだよな。でも、今日のカーブ道は、水路沿いには行かないぞ。あらっ、勢いを付けて。引き摺られる。因みに、こんな散歩の仕方は、だめ飼い主の典型。こう言う時は、もっと、引き綱を短く持つとか、身体を使って抑えて、上手く犬を、リードしなければいけない。
 しろに、引き摺られて。しろ、ずるずるっ。ついでに、飼い主も、ずるずるって。何とか、止まった。斜面に何とか、踏み止まった。落ち着こうとするしろ。落ち着けないだろう。でも、どうしても、何とか、落ち着く。しろ、しんみり、しみじみ。あ〜あっ、拾えないよ。もちろん、拾って、真面目に回収してますよ。地主さん。でも、ここは。無理。ちっちゃいシャベルを、斜面に伸ばして。何とか、埋める。ここ、私有地かな。公有地だと、まだ、救われるんだけど。しろっ‼︎
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