ナラティブエシックス普及委員会

ナラティブエシックス(物語の倫理)の研究日誌。毎日の研究の中から「なるほど!」と思ったことを紹介します。

学ぶために書く

2006-07-31 01:13:57 | ナラティブエシックス
"It is true that I still find myself learning from the writing of these stories far more and far deeper than I would have ever thought possible before."

Richard Zaner
Conversations on the Edge: Narratives of Ethics and Illness.

「これらの物語を書くことによって、私が決して考えつくことがないような、より深くより多くのことを学んでいる自分が依然としてここにいるとう事実がある。」

Dr. Zanerはとても人間味あふれる非常に優秀な倫理コンサルタントである(と思う)。彼の経歴を1回ウェブ上で見たことがあるのだが、多くの論文や講演からなる長いリストでとてもびっくりした。が、そのような40年以上もの著作活動を経てきたDr. Zanerが、依然として「患者との出会いの物語を書くこと」によって、彼自身が想像することすら出来ないほど多くのことを深く学んでいる自分を発見しているというのである。それほど彼にとって「患者の出会いの物語を書くこと」は意味のあることなのである。

そういえば、僕がアメリカで臨床倫理のクラスの課題の一環として医学生のラウンド(回診)に参加したとき、医学生が担当研修医や教授らの(厳しい)質問に準備するために患者の情報がびっしり書かれたノートを見て、「すごいなあ・・・」と思ったのを思い出す。

医学生は患者を「報告」するために、ケースを詳細に「書く」。
それに対してナラティブエシックスでは、我々は「患者の物語」から何かを学ぶために「書く」のであると(事後的に)言えるのかもしれない。

Dr. Zanerの言葉はこのことを教えてくれたような気がした。

(注:事後的にというのは、書き始めた時は必ずしも何かを学ぶということを期待してはいなかったにもかかわらず、書いた経験から多くのことを学んだということを「後から」理解するということ)


PS:無論、Dr. Zanerは最初から学ぶために書いた訳ではなくて、結果的に学ばせられたというのが彼のここでの意図だと思います。でも私たちは自分が大して期待していなかった場面や機会から学ぶことが多々あることではないでしょうか? 
Dr. Zanerの著作はとにかくお薦めです! 読みやすいのは上記に挙げたので、それぞれの章が物語形式になっています。少々理論的なことも知りたいと思われる方には"Ethics and the Clinical Encounter" がオススメです。特に「倫理コンサルテーション」に関心がある方にとってはとても貴重な本(両方とも)になるでしょう。この本はいわゆる「倫理コンサルタントのHOW-TO本」みたいなタイプではなくて、彼の考え方や語り方の中から倫理コンサルテーションを行うということがどういうことなのかを直に学ぶような、、つまり彼と共に臨床研修に従事して彼自身から学ぶような感じの経験を与えてくれる本です。

最新の画像もっと見る