鈴木一敏の「実践」広報論

広報マン歴40年の筆者が、ミズノ広報室での経験などを具体的に紹介します。現役広報マンの参考になれば幸いです。

30 広報ネタを“創る”

2005-06-30 10:06:17 | Weblog
<自分の仕事づくりが発端>
 誰もが親しみを持つスポーツに関わるミズノでも、広報ネタ(材料、素材)の不足に悩んでいました。私は、解決策としてネタを“創る”ことをやっていました。実態がないのに作文してマスコミにリリースしていた、ということではありません。

「こんなことをやれば成果があがる」というようなことを広報室が立案し、それを関連部門に提案、その部門が業務として実行し成果があがれば、ネタとして使いました。今回は広報ネタをどのように創ったかの紹介です。

「ネタを創る」ことになったのは慢性的なネタ不足ということのほか、もうひとつ理由がありました。私は50歳で大阪広報室のリーダーから外れ専任職になりました。新聞社の組織で言えば編集委員のような立場です。

若手広報マンは野球とかゴルフとか商品別・種目別に守備範囲が決まっていました。私はそれら「もの広報」の担当はなく、経営全般の「こと広報」が担当でした。しかしこと広報の材料は決算、人事、機構改革、トップ広報ぐらいで、私がいつも忙しくしていられるほどの仕事量はありません。

その頃、CREW21という名称の全社的な委員会がありました。地球環境保全活動の推進を目的とした組織で、私もメンバーでした。私が思いついたのは、環境保全活動から広報材料を掘り起こすことでした。

環境ネタを積極的に使い始めて数年はうまくいきました。ミズノは以前から現社長の正人氏が環境活動に積極的で全社をあげて取り込んでいました。社会的な関心事でもあり、ミズノの環境活動は話題にしやすい材料でした。

<環境広報を積極化させようと>
 環境をテーマとした広報をさらに積極化させようと考えたのが「ネタを創る」ことでした。自分の仕事をつくりたいという個人的な欲もあってけっこう力を入れて取り組みました。

私が退職する直前に手掛けたのはミズノクラシックというゴルフトーナメントでの環境配慮化です。宣伝や広報のゴルフ担当ら数人でプロジェクトを組み考えました。

既にゴルフトーナメントでの環境対策はいろいろと行われていました。場内で大量に発生するゴミの分別回収、スタッフが着用するユニホームをペットボトル再生素材で製作する、ギャラリーにケナフの種を配るなどです。手元に資料がないので具体的に思い出せませんが、もう一段進めた対策を広報室から、トーナメントを運営する部門の担当者に提案しました。

その前に環境対策室の専門家にアドバイスを受けました。専門家からは「大会会場の瀬田ゴルフコースがある滋賀県は環境保全に熱心だ。県の環境部門を巻き込んではどうか」という提案がありました。

大会を運営する部門の担当者は「それはいいことだ」と賛成してくれたものの、県との折衝は「環境対策室と広報で」ということになりました。事前に趣旨を説明しておいて、環境対策室のHさんと二人で大津の県庁まで出かけました。

その結果、会場のギャラリーが集まる場所に県の環境対策事業をPRするコーナーの設置が実現しました。またその頃、滋賀県はアイドリングストップ運動を展開していましたので、「アイドリングストップ」と書いた横断幕やのぼりをギャラリー駐車場に掲出することも実行しました。他にも提案しましたが残念ながら思い出せません。

さて、広報室が創ったことが実行に移されたら、あとは本番の広報の出番です。「スポーツイベントで環境配慮」的な見出しでプレスリリースを作成し、ゴルフを取材する記者に送ったのと合わせて、県政記者クラブで資料を配ってもらいました。以前から親しくしていた毎日新聞の大津支局長には資料を持って説明に行きました。

以上「ネタを創る」の事例を紹介しましたが、残念ながら大きな広報成果は挙げられませんでした。しかし、広報材料がなければ自ら創ることも可能だということは参考にしていただけたと思います。 

29 広報に向く人、向かない人(女性編)

2005-06-30 09:54:37 | Weblog
<物おじしない女性が最適>
テーマは前回の続きで、今回は女性編です。ミズノは20年以上前から女性広報を活用してきました。いっぱいエピソードがありますが、Hさん、Yさん、Cさん、Uさんのことは既に書いてしまいました。今回は他社の女性広報の紹介です。

「まめ」なことは広報マン、広報ウーマンの条件だと思います。異業種交流の会で親しくしていたあるアパレルメーカーのベテラン広報ウーマンの事例です。

初対面の数日後、その人から1枚のハガキをもらいました。「先日はお疲れさまでした。お会いして楽しいひと時を過ごすことができました・・・」などと書いてありました。

なんとまめな、と感心したものです。ご同業の私に対してさえハガキをくれるほどですから、きっと記者に対しては会った記者全員に丁重な封書を送っているに違いありません。当然、記者の受けは良くなります。

「物おじしない」も広報にうってつけです。ミズノと同じ業界のある会社で、出産するまでバリバリの広報ウーマンだったIさん。物おじしない女性でした。竹を割ったような性格で、何事にも対処が早かったのが印象的でした。

ミズノの女性広報、Cさんとは性格も似て馬が合っていました。もうひとり、同い年の仲間がこの2人にはいました。ある産業紙の女性記者です。

広報の交流会などで3人そろった場に私も同席したことが何度もありました。いつもひやひやでした。広報として記者に配慮するなどという姿勢がまるでありません。完全に友達同士です。ぎゃあぎゃあといつも大騒ぎしていました。

最近の若手広報はそうでもないかもしれませんが、私は記者とどんなに親しくなっても、ある一線を守りました。それは常に記者を敬う態度でいることでした。

彼女らのように記者を呼び捨てにするようなことはしません。私の子どものような年代の記者にも、元気な記者にも丁寧語で接しました。私の考えですが、相手は大事なお客さまですから当然のことです。

JR西日本の脱線事故。記者会見の席で何度も頭を下げる会社幹部や広報担当者をTV画面で見ました。会見中に罵声を浴びせるように質問する記者がいました。憤懣やるかたない遺族の気持ちを代弁したのだろうとそのときは見ていました。

この原稿を書きながらふと考えました。会見では広報部門の責任者のような男性が進行をしていましたが、これを「物おじしない」女性広報が司会をしていたらどのようなことになったか。

会社の重大な責任は深く認識したうえで、しかし暴言にも等しい発言はたとえ記者といえども許しませんという態度で臨んだかもしれません。「ここは糾弾の場ではありません。記者会見ですから冷静なやり取りをお願いします」。

<内勤で活躍する女性広報も>
 「一歩下がって」とか「裏方に徹する」とかの性格の女性は広報には向かないと思います。とくにマスコミと関わる社外広報には適しません。男性でも同じことですが。

私の現役時代のミズノでも内気でおとなしい女性社員が広報室に配属されてきたことが何度かありました。社外広報を増やしたいといつも考えていましたから、人事部はなにを考えているのかとあきれたものです。

そのような女性には内勤の仕事をしてもらいました。クリッピングや、プレスリリースなど資料類の管理、パソコン入力など、正確さと確実さを求められる業務です。ビデオ社内報の制作を担当した女性もいました。みんな仕事熱心な女性たちでした。 

28 広報に向く人、ダメな人(男性編)

2005-06-30 09:50:24 | Weblog
<笑顔・素直・明るい>
 ご存知のように広報の仕事は人付き合いが大きな要素を占めます。だから仕事の引継ぎが大変難しい。人には合う・合わないや好き嫌いがありますから、自分によくしてくれた記者を後任に紹介しても、友好関係がうまく継承されるとは限りません。

私の経験で言えば、素直な性格の人間、明るい人間は先任から紹介された記者ともうまくやれます。記者から「あればダメだよ」などと苦情を言われることはまずありません。

どんな人が広報マン向きなのか事例をあげて紹介しましょう。ミズノの現役広報のA君。広報暦10数年。大学時代はピッチャーで完全に体育会系の性格です。根っからの広報マンだと思うのは彼の「笑顔」です。

怖い記者クラブには満面の笑顔と、大きな声の「失礼します!」で入っていきます。初対面の記者と会うときは緊張するのに、笑顔と大きな声の「初めまして!」です。つくり笑顔ではなく本物です。広報担当者には「いつも笑顔」の社員をぜひ選抜してください。

「素直」という点では同じミズノのB君をあげます。広報は兼務で期間も短かったのですが、彼を信用できるとしていた記者が何人もいました。私も彼の報告を疑ったことはありませんでした。

記者にとって最も困るのはうそをつかれることだと思います。“ミスリード”や“針小棒大”も記者にとってはうそをつかれたことと同じです。このB君は性格自体が素直で、経験も浅かったので広報テクニックを使うこともなく、記者にとって安心できる広報マンだったと思います。

「明るい性格」も広報マンの必須条件かも知れません。異業種交流の会で親しくしていたあるアパレルメーカーの広報部は底抜けに明るい人たちの集団でした。その伝統は今も受け継がれていると思います。

その明るさを目の当たりにしたのは会で志摩スペイン村へ旅行したときです。入場するなりパレードが始まったのですが、歓声をあげ口笛をならし、大きな拍手で出演者たちに声援を送ったのがこの一団です。周りが何事かとこちらに視線を向けます。内気な私は恥ずかしくてなりませんでした。

夜の宴会ではさらにヒートアップしました。全員が持ち寄ったプレゼントを配るときなどは、広報部長が率先してパンティを頭にかぶって大騒ぎでした。

この明るさは会社の中でも変わりませんでした。何回か広報部へ訪問しましたが、広報マンひとりひとりに礼儀正さが加わって実に見事でした。
このような会社は業績も優秀です。つい最近発表した前期の連結純利益は二八%増の九十二億円と過去最高を更新しています。

<礼儀知らずの人はダメ>
 逆に広報に向かない人について。礼儀を知らないひとはダメです。私の最近の経験です。ある人を経由して、某繊維メーカーの広報マンから「○○○について教えて」と頼まれたことがありました。

私はそのことについて最新の情報を持ち合わせていなかったので、古巣のミズノ広報のベテランに調べてもらい、その結果を依頼者の広報マンに直接、メールで報告しました。

なんと礼儀を知らない人だと思ったのは、何の返信もなかったからです。頼んだことをしてもらったら「ありがとう」ぐらい言うのが普通です。広報という同じ釜で飯を食う人間として悲しくもありました。

いい記事を書いてもらっても記者にお礼の電話1本もかけることが出来ない広報マンなのでしょう。会社名を忘れてしまったので調べていませんが、きっと減収減益を重ねているに違いありません。