苦しいけど、離れられない共依存 からめとる愛
※書評は~だ、~である調で書きます。
内容紹介
韓流ドラマの男女、引きこもりの息子と母、アルコール依存症の夫婦、ダメ男を選ぶ女……「私が見捨てればあなたは生きていけない」というかけがえなさ幻想の背後に張り付いた共依存という罠。長年、カウンセリングの現場に立ち会った著者が、臨床例と映画・小説に題材をとりながら「べったり愛」を逃れて「生きやすい愛」へと向かうための処方箋。
内容(「BOOK」データベースより)
依存は悪ではない。鍵を握るのは依存させる人なのだ。「愛だったはずなのに、なぜ苦しいのか」への明快な答えがここにある。長年、家族援助をしてきたベテランカウンセラーである著者が、愛という名のもとに隠れた支配・共依存を解明する。
人は、愛情が足りずに親密ではないから暴力を振るうのではなく、逆に親密だからこそ暴力を振るう。
親密さゆえの暴力、愛情という美名に隠された支配関係を暴くことを、本書はテーマにしており、興味深かったのはいわゆるキッチンドリンカーである女性アルコール依存症者の夫についての考察だった。
女性アルコール依存症者の配偶者を分類してみると、下記の3つのタイプになる。
1、暴力的支配タイプ
2、ネグレクトタイプ
3、ケアタイプ
女性アルコール依存者である妻達は、夫の関心を得ようとして飲んでいるわけではなく、人間として扱われなかったことへの怒り、そのような状況を変更する力の無い自分への無力感が、飲酒に駆り立てている。彼女達の冷徹な状況判断力、傷つきやすいプライドが皮肉にも自らの現実を耐えがたくしているのである。
3のタイプが、本書のメインテーマであり、「いわゆる妻の事を考えており、献身的で優しい夫だと評価される人」である。それに対して妻は「私たちは夫のアルコールで苦労して来たのに、あなたは女のくせにアルコールを飲んで夫に迷惑をかけている、育児まで放棄して夫におしつけている」と同性からも嫌悪の対象として見られてしまう。
それは著名な男が、親や妻の介護をする事で、体験を出版する事でなおさら評価される一方で、「だから男性も介護するべきだ」とはならず、「むしろ女の貴方が介護せんでどうする」と言われる事に酷似している。
信田さよ子は、この3ケアタイプの夫と会った瞬間に感じたものとして、「ある種のいかがわしさだった。そこに漂うむっとするような湿度とおしつけがましさ、それでいて軟体動物のようにとらえどころのない彼ら。反射的に引いてしまう自分をなんとかなだめすかして話を聞くのが常だった」と述べている。
そして「彼らは酔った妻に手を焼いているかに見えて、どこかでそんな妻の醜態を冷静に観察している。まるで昆虫の生態を見つめるようにだ。『妻が自分に何をもとめているか』という疑問がそもそも彼らには成立しない。」と長年のカウンセリングから得た直感をもとに、
「彼らは家族以外の人たちに対し、ケアする夫ぶりを積極的に公開し、さらし、ジェンダー規範(介護は女がするもの)を逆手にとることで夫である自分への評価を高めたのである。そして妻には環境整備型権力を巧妙に行使し、妻がすすんで無力化し自信を喪失していくように関係を仕組んでいく。それに抗って妻はアルコールに耽溺するのだが、皮肉にも妻はさらに弱体化し、夫はそんな妻をケアすることでさらに権力とパワーを獲得していく。(中略)力を持たない側がケアさせられることを強制と感じないほどに馴致され、拒否したいと感じる自分が間違っているとまでケアの正当化が内面化された時、時としてケアは人を殺すこともある。」と分析している。
DVを振るう男性が社会的に良くない事とされるのに対して、ケアタイプの男性が、ジェンダー規範を逆手に取って狡猾に、妻を弱体化させて、代わりに力を得ていく様は、ゾッとしてしまう。
本書は、その他にも『冬ソナ』『嫌われ松子の一生』『ジョゼと虎と魚たち』などの映画作品なども合せて、親密さと支配関係の危険性を分析しており、作品ファンの人は、その部分だけでも読んでみると、また新しい発見があって面白いと思われる。(私は『ジョゼ』ファンなのですが、してやられました)
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