バルカン半島に嫁いだ女の日記

「幸せ」という字には「辛い」という字が隠れている。
 バルカン半島より喜怒哀楽の心模様を伝えたい。

「環境がわかる50話」を読んで

2009年10月14日 | 読書感想
「環境がわかる50話」を読んで


 この本は、岩波ジュニア新書で大阪大学理学部卒業、リサイクル工学が専門の森住明弘氏によるものです。

 前回に引き続き、環境関連の本ですが、これは誰もが生活の中で出会うもの、空き缶、ゴミ、家庭排水、てんぷら油、エイズ、トイレットペーパーなどなど、家庭の主婦にぴったりの話題と、迷わず手にとり、図書館からの帰りの電車でかなり読みました。

 まず、一番感動したのは、牛乳パック回収運動をした故平井初美さんを訪ね、考え方を改めたところをまっすぐにお話している点でした。

 「“牛乳パックを回収して森林を守ろう”という主張を聞いたとき、学者は、いっている人の思いやおかれている状況を捨象して、理屈上成り立つか、効果があるかという観点で評価します。それで私は最初つまらなく思ったのです。しかし、彼女はそのことだけを訴えているのではなく、牛乳パックを教材にしながら、出会った様々な人を紹介し、その人との思いを共有できた喜びを語っていたのです。コンパネでは、市民の生活と離れたところで使われているので、共有できる経験をあまり語れません。紙をすく道具をともに探し、つくる、できたはがきを人に出す、使用した後のの排水のゆくえに関心をもつ、それを手がかりに家の排水のゆくえをふりかえる、そんなことを語り合う世界では、コンパネよりも量的効果が少ないという矛盾は、大きく映らないのです。
 学者は、生活のごく一部しか見ていないのに、全体を見ていると錯覚しやすいのです。」

 ここで、私はほぼ自分自身が学者だろうに、自己の非を認めて、その効果、運動を認めるというところがいいなあと。
 これが冒頭で言っている「こだわるものと上流・下流に旅しよう」というフィールドワークを重要視する著者の言葉です。

 もう一つは、「15.ラップ」のところで、いたく感動した一言がありました。主婦にラップの材質をたずねると、まずわからないそうです。残念ながら私の場合は、そのとおり。私もわかりません。
 科学物質は理科の知識を使わないとわからないこと、商品名は知っていても、その正体(材料)は知らない人が多いこと、これが多少わからないと、環境汚染物質が何であるかわかりようがないこと、生物に何が悪影響を及ぼすかわからないことが語られていて、ジーーンときました。深い反省。

 「これらのこわさを、膚で感じられるようになるには、ものを、分子、原子レベルでとらえようとする姿勢が必要です。」と、エチレンの化学式、ポリエチレン、そして塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデンで説明してくれています。使い捨てられて、焼却炉で燃やされるとどのように塩化水素などの有毒ガス、ごく微量でもダイオキシンなどの猛毒物質が発生するかを教えてくれています。今ではポリエチレン製のラップは買う人が少ないので、置いていない店も多いということでした。

 この章での駄目押しの感動は次の言葉:
 「習った知識は日常生活で使って、記憶に残り、知恵に転化します。そうしない人が多いので、環境に悪い製品が売れてしまうのです。しかし、知ったからすぐにポリエチレン製に切り替える気になるかというと、そう単純ではないようで‥‥便利さは悪魔的な魅力をもち、知恵への転化をはばんでしまいます。」

 そして、「23.飲み水」についての章も面白い。
 「浄水器の値段が高いとよい水が出ると錯覚するのは、電気分解の知識が眠ったままになっているからです。水道水を電気分解すると、酸性の水とアルカリ性の水に分かれます。前者は美容によい、後者はからだによいと宣伝すると、それにひかれて買う人がけっこういるので、‥‥市民は酸性・アルカリ性の定義をよく知らぬまま、酸性に対しては否定的、アルカリ性には肯定的な評価をする場合が多いのです。」 と続き、この本を図書館に返さなくてはいけないのが、残念。この二つの部分は、コピーをして、勉強しなおそうと思います。思うだけはいつもいいことを思うが。。。

 最後の感動は、“見る”学問から、“する”学問へと、若者達にメッセージを送っています。
 「“見る”学問で身につけた知識を、地域でどう使えば矛盾を解消できるかという知恵は、参加する中で体得できるもので、外から見て矛盾を指摘するだけでえられるものではありません。」と。

 著者は、東京大学の村上陽一郎先生は主体と対象が分離しない“一人称で語る科学”をつくろうとしていることや、竜谷大学、中村尚司先生の「地域自立の経済学」の紹介をしていた。倫理、社会、経済、エコロジーの四点を頂点とする四面体の一点に地域で生活する自分をおいて、“みる”学問を活かし、それを実際に地域に還元させていく“する”学問をしていくということ。そして、自分自身を是正していく能力をもつことと、感動の連続でした。

 1941年生まれの先生だ。頑張れ森住先生という気分と、やっぱり、ありがとうございました。
 


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