星の四葉の黒騎士団

主にヲタク的ダメ日常や心の病気とかユルユルと。
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メタルサーガSS

2010年09月29日 22時51分14秒 | 二次創作小説
第15話・そして、この大地の果てで(後編)

面接室に、奇妙な緊張感が満ちる。
何か言おう、挨拶しなければ、と思うけれど場の空気におしつぶされてとても何も言えない。
しかたなく、誰かが何か言ってくれるのを待ち続ける。

「ポルナレフ」
個性的すぎるヘアスタイルの白人男性から、そう切り出し始めた。

「ジャン・ピエール・ポルナレフ。
 戦車乗りだ・・・そっちにいるミサトに請われて、こうしてやって来た。
 あまり戦車乗りには関係ないが、特技と趣味はフェンシングだ。
 ま、初めまして。オレ的にはここですんなり雇ってもらえると非常に助かるぜ」
ポルナレフさんは、わざわざホッパーのほうを向いて、人懐っこくウインクしてきた。

「次は俺だな・・・俺は、二ゴー。2号の二ゴーだ、そう覚えてくれて構わないさ。
 こう見えて、空手5段と柔道6段・・・もちろんソルジャーさ。
 銃火器よりも、拳と蹴りでの肉弾戦が得手だな・・・ってね。
 人一倍身体が無駄に頑丈なんで、危ない時にかばったりするのとかは得意中の得意さ」
二ゴーさんは、私のほうをじっと見てきて、いたずらっぽい表情で自信ありげにそうアピールしてきた。

「はい、はじめまして。ギンヌンガガップ女子寮長にしてソルジャー部隊長のヒメコ・チャリオッツです」
頭をふかぶかと下げて、そう二人に挨拶を返す。

「・・・はじめまして。男子寮長にして、戦車部隊長のホッパー・チャリオッツだ」
仏頂面で腕組みしたまま、ホッパーが二人を軽くにらみながら挨拶を返す。
ミサトさんの紹介なんだし、初対面の相手に対してそう警戒心を露わにしなくてもいいと思うのだけれど。

「はいはい、生活班長にしてトレーダー部隊長のオルファリル・チャリオッツでーす!
 みんなを朝起こしたりとか、ご飯作ったりとか普段の生活の面倒見るのはわたしの役目だよ!
 はじめまして、見るからに頼もしそうなオジサンたち!これからよろしくね!」
オルファリルの元気いっぱい満面の笑顔の挨拶に、二人の男はプッ、と吹き出してクスリと優しい眼差しを向ける。

「おいおい、オルファリルちゃん。俺たち、まだハタチ過ぎた程度しか年取ってないぜ?
 オジサンじゃなくて、ハンサムなお兄さんって呼んでほしいな?」
ポルナレフさんが、わざと困った表情をして見せて、眼は優しく笑いながらも肩をすくめて見せる。

「俺、オジサンでもいいぜ!この可愛いお嬢ちゃんが飯作ったりとか世話焼いてくれるんならなんでもいいってね!」
二ゴーさんが楽しそうにけらけら笑いながら、ポルナレフさんの背中を手のひらで軽くばんばんと叩く。

「ハンサムなお兄さんたち、ご飯ちゃんと残さずに食べてくれる?好き嫌いとかある?」
「ハンサムなポルナレフはむしろ腹いっぱいおかわりするし、好き嫌いも全くない」
「なーにキリッとしょーない事でかっこつけてんだよ、オメ―は!まぁ、俺も飯残した試しねーし好き嫌いもないけどな!」
「おっけー!合格!わたしのご飯食べていいよ!おかわりもしていいよ!」
どうやら、オルファリルと二人の男性は期せずして意気投合したようだ。
みんなの暮らしを見る生活班長が気に入ったのなら、みんなとの共同生活は多分大丈夫だろうと安心した。

「オルファリル・・・まだ、二人を雇うと決まったわけじゃない」
ホッパーのツッコミに、オルファリルはつまんなそうに頬をふくらましてそっぽを向いてしまう。
 
さて、二人の履歴書をちらりと流し読みする。
まさにベテランの戦士だ。戦歴、習得スキルの熟練度ともに申し分ない。
個人的には、特に二ゴーと名乗ったソルジャーが気になっている。
ソルジャー部隊は現時点で3人、あと一人足りない・・・しかも、女ばかりだ。
一人、屈強な男性が新たに加わってくれると非常に助かる。
ちらり、と二ゴーさんのほうに視線を向けると、こちらに気がついて微笑んでみせる。

「二ゴーさんは、ベテランのソルジャーだという事ですが・・・。
 協調性を要求される集団戦、もっと言えば一個小隊単位での連携戦闘の経験はどれくらいですか?」
そう、この部分は非常に重要である。
いかに個人単位での戦闘力が高くても、最低でも一個小隊単位での集団戦に対応できないと非常に困る。

「おっと、いい質問だな。
 そうだな、俺はこの稼業についてからは10年ぐらい、自分と同じタイプのソルジャーとの二人での行動が多かったぜ。
 まあ、10年だからな。一人で多数を相手に戦い続けた事もあるし、3人、7人の時もあった。一番面子が多かったのは10人だな。
 めぐりあわせなのか、どいつもこいつも似たタイプのソルジャーばかりだったが、お互いの連携行動にさほど問題はなかったぜ。
 俺たちは積極的に無線通信で連絡取り合ってたし、小人数で厳しい場合は素直に他の助けを借りたりもしてたな。
 少なくとも俺個人は、俺が、俺がと無意味に出しゃばったりは決してしないぜ」
ぐい、と身を乗り出して私の目を真っ直ぐ見て真面目な顔で噛みしめるように二ゴーさんは聞かれた事に答えていく。
多分、この人は大丈夫だ。まだ実戦でどうかはわからないけれど、それは採用して部隊に組み込んでからの話だろう。

「わかりました、二ゴーさん。ソルジャー部隊長としては、あなたを是非とも採用したいと思います」
そう言って、もう一度ふかぶかと頭を下げる。

「おっ、どうやら気に入ってもらえたみたいだな?こちらこそよろしく頼むぜ、先輩!」
二ゴーさんの先輩、という単語にこの人は体育会系なのかなぁと心の中でクスリと笑いながら頷いた。

「・・・で、戦車部隊長殿はさっきから不機嫌そうに無言なんだが、オレに対して何かないのかい?
 オレ、確かにこんなチャラい態度だけどさぁー、素行不良で不合格とかになったら泣いちゃうぜぇー?」
さっきからずっと、腕組みしたまま仏頂面のホッパーにポルナレフさんがそう問いかける。
ホッパーは多分、二人の態度に不穏なものがないか、慎重に観察してるんだと思うのだけれど。

「ハンターオフィスに頼んで、戦車模擬戦闘シミュレーターを二人分用意してもらってある。
 そこで、あんたの腕前を見たい。人格は今ので大体わかったが、俺個人は実際に腕前を見てから決めたい」
こちらに来る前、受付で何やら手続きしていると思ったら、そんな事をしてたんだ・・・。

「手厳しいねえ・・・ま、こちとら歓迎だけどな。性格良くても腕前がお話しにならないんじゃ戦力として論外だもんな」
そう言って、すっ、とポルナレフさんは椅子から立つ。

「俺は、俺の大事な兄弟姉妹たちが無惨にも戦場で死ぬのを見たくないだけだ」
ホッパーも、そう言いながら席から立って、ポルナレフさんをともなって部屋から出ていく。
二人で、戦車シミュレーターのある部屋に行ったのだろう。

「じゃ、二人が戻るのを待ちましょうか。ホッパー君には是非ともポルナレフを認めて欲しいものね」
ミサトさんがそう言って、ふう、と背もたれに深くよりかかる。

「なあ、ミサト。確かにお前から話を聞いてはいたが・・・なんであの少年はあんなに警戒心が強いんだ?
 ずーっと、頭のてっぺんからつま先までレントゲン撮影みたいな視線でじろじろ見られていたんだが・・・ね?」
二ゴーさんが、もっともな事を聞いてくる。

「守りたいのよ」
二ゴーさんの問いかけに、ミサトさんがぽつりとこぼれるように答える。

「みんなを守る事、一番大切な誰かを守る事に必死になりすぎて・・・自分と兄弟姉妹たち以外の人間、それも大人が信じられないのよ」
ミサトさんの言葉に、わたしもオルファリルも無言でうつむいてしまう。

多分、以前私がインペイラ―に殺されて死んだのが一つの引き金になってしまってるのだとは思う。
あの時の傷は、今もお腹に残っている。刺し貫かれた角のあとは、まるでアザのように私の褐色の肌と色違いで鮮やかに残っている。
本当はDr・ミンチの腕前なら、傷痕なんて一切残さずに消してもらえるのだが、私は戒めとしてあえて、後から傷痕だけ再現してもらった。

「なるほど、ね・・・ま、俺にも覚えがあるからわからないでもないんだがな」
パイプ椅子で足を組んで、二ゴーさんは軽く、ふぅっと何かを思い出すような表情でため息をつく。

「わたし、信じるから」
唐突に、オルファリルの台詞が響く。

「わたし、わかるんだ。
 信じられる大人と、信じられない大人と、信じちゃいけない大人。・・・それも、男性」
オルファリルは、二ゴーさんを真っ直ぐ見つめて、真面目な表情でそう言う。

「不幸自慢なんてしたくないけれど・・・孤児院に来るまで、オルファ、色々あったから」
オルファリルが、自分の事をオルファ、と言うのなんて実に何年ぶりなのだろう。

ずっと遠い昔に聞いた話なのだけれど。
かつて、オルファリルは孤児院に保護してもらう前まで、街頭で幼娼として身をひさいでいた過去があるらしい。
詳しい事は、私にも何もわからない。
けれど、昔の彼女は大人の男性相手にその幼い春を売る事でわずかな食事にありつく以外、本当に何も知らなかったらしい。
私が孤児院に来たばかりの頃に、同時期に引き取られてきたオルファリルから、不思議そうな、本当に何も知らないといったあまりにも幼い顔で彼女自身からそんな事をたどたどしく聞かされた。
今は、彼女は変わった。
あまりにも幼い身をひさぐ以外に何も知らなかった頃とは、何もかも。
この事について、誰も彼女に対して決して何も言わない、もちろん私も何も言わない。
だって、私たちは程度の差こそあれ、みな似たもの同士の兄弟姉妹なのだから。
オルファリルと一緒に風呂に入ると、彼女の身体にはいくつものアザがある。
それは、長年の性的虐待によるものだ。アザは、背中と太ももに特に酷く集中している。
普段は身体に出てこないけれども、こうして風呂やシャワーで身体を暖めると、うっすらと浮かび上がってくる。
それを見るたび、とても痛々しくてたまらない気持になる。
かつて、誰にでも媚びるようにオルファと自分の事を言っていた彼女が、それまで自分の知らなかった世界を知って変わってゆくようになるまでは、一年前後かかったと思う。
だけど、今、彼女は無意識に自分の事をオルファ、と呼んだ。
それはきっと、あの頃のようにわずかな食事代のために媚びるためではなく、本心で助けて欲しいから思わずその言葉がもれたのだろう。

だから、彼女が、信じられる大人と信じられない大人と信じちゃいけない大人、それも男性を見分けられるのは彼女の忘れたい過去の経験によるものなのであって、少なくともその事を知る私には重いまでに説得力があった。

「二ゴーさんと、ポルナレフさんは信じられる大人の男性。きっと、みんなを守って助けてくれるよ」
儚げに、どこかすがるように、でも満面の笑顔を二ゴーさんに向けるオルファの横顔は不思議に大人びて見えた。

「・・・オレさ、子供が好きでさ。子供が可愛くて仕方ないんだ。
 ずーっと昔から、それこそソルジャーやる前から、子供が傷ついて辛い目にあうのがどうしようもなくたまらなかったよ。
 俺が戦う理由は、俺がソルジャーとして強ければ、泣いてる子供を背中にかばって自分が盾になってあらゆる理不尽から守って戦えるからなんだ。
 だからさ・・・守るよ」
二ゴーさんの、真っ直ぐオルファリルを見つめる瞳にウソ偽りはない。

「だから、オルファ。お前はもう泣かなくていい、傷つかなくていい、辛い思いをしなくていいんだ」
二ゴーさんの言葉がよほど染み渡るのか、オルファはぽろぽろと大粒の涙を流し始める。
それを見て、二ゴーさんは椅子から立ち上がり、ゆっくりとオルファに近づいていく。
泣いてるオルファの涙を、その手でぬぐってやると包み込むように抱きしめて、背中を軽く優しくポンポンと叩いてくれる。

「二ゴーさん・・・ありがとう、二ゴーさん」
オルファリルが、こんなにか弱い姿なのを、私は初めて見た。
いつも気張ってるオルファリルが、こんなにか弱く誰かの胸にすがるように顔をうずめているのは初めて見た。

「ハヤトだ」
胸で泣きじゃくるオルファリルに、二ゴーさんが優しい声でぽつりと言う。

「二ゴーってのは、コードネームだ。
 ハヤト・イチモンジ・・・一文字隼人。それが、俺の人間としての本当の名前だ」
本当は今ここで明かすつもりはなかったのであろう、二ゴーさんの本当の名前に、オルファリルは胸の中でこくりと頷いた。

うちのソルジャーチームにはノノミという、オルファリルと同年代の小柄で非力な少女もいるが、きっと彼女に対しても同じように守ってくれるだろう。
なんだろう、二ゴーさんがオルファをかばうように抱きしめるその姿に、ホッパーがダブって見えたような気がした。

その時、ガチャリと面接室の扉が開いて、ポルナレフさんが入って来た。
やや遅れて、後ろからホッパーが続けて入ってくる。
なんだろう、ホッパーの顔がいつもと違う。いつもと同じ仏頂面なんだけれど、どこかいつもと違う。

「よ、終わったぜ。
 ・・・って、二ゴーお前、また泣いてる子供を慰めてんのな。ほんと子供をほっとけないんだな、お前」
ポルナレフさんはそう言いながら、二ゴーさんとオルファリルが抱き合ってるそばに近寄っていく。

「よ、オルファリルちゃん。大丈夫かー?ま、何があったか知らねーけど、二ゴーがいれば何でも助けてくれっからよ」
優しい声でそう言いながら、オルファリルの髪をぐしぐしと撫でてくれる。

「ポルナレフも守ってくれるぜ・・・なんせこいつ、このご時世に騎士道なんてもんを本気で信じてるからな」
両腕で抱き抱えたままで、す、と身体を離してオルファリルと同じ目線で真っ直ぐそう言ってくる二ゴーさんに、オルファリルは泣きながら笑顔で頷く。
そんな3人を、ホッパーはじっと無言で見つめていた。

「女子寮長、生活班長、作戦部長。男子寮長から通達だ。
 男子寮長として、ジャン・ピエール・ポルナレフを戦車部隊隊員として採用したいと思う」
二人の間に何があったかは推し量るすべもないけれど、私はとりあえずそれで安心した。

「孤児院で戦車乗りの役についてからというもの、ずっと対人シミュレーションでは無敗だったが・・・。
 今日、初めて敗北した。それも、全ての戦術戦略戦法をことごとく打ち破られた上での完敗だった」
この言葉には、正直驚いた。
完璧超人、とあだ名されるホッパーが敗北を喫したのもそうだが、ホッパー自身が自分の口から敗北を認めているのに何よりも驚いた。

「ジャン・ピエール・ポルナレフの戦車乗りとしての技量にも、本人の人格にも何ら問題はないと判断する。
 改めて、男子寮長にして戦車部隊長より、彼の採用を申し入れたい」
眼鏡をついと直しながら、相変わらず淡々とした言動でそういうホッパーの表情からはいつもと違う何かを感じた。

「じゃあ、二人とも晴れてギンヌンガガップの新入社員ってわけね。
 それじゃ、少々めんどうくさいけれどこの書類に必要事項を記入してちょうだいな」
そう言って、ミサトさんが2枚の紙切れを二ゴーさんとポルナレフさんに手渡す。

そうして、無事に補充戦力を迎え入れる事が出来て。

ハンターオフィスの待ち合わせ室を通り過ぎるところで、私たちは突然の依頼を受けた。

「お願いします、お願いします!
 父の・・・父の仇を討って下さい!どうか、お願いします!」

相手は、私やオルファリルよりやや年上の十代後半に思える女性だった。
何でも、父の仇であるごろチーフを討ち果たして欲しいという。
依頼を聞き届けてくれれば、父の使っていた戦車を報酬として譲ってくれるという。
あそこのごろ程度なら、問題なく相手できるだろう。
どんなタイプであれ、今の私たちには戦車が必要だから、こういう依頼はむしろ望むところである。
それに、復讐が絡む依頼ならば、私にはとても無視できない。
その女の人の依頼を引き受け、私たちはハンターオフィスの入り口に出る。

建物から外に出ると、そこは砂の匂いが鼻をつき、砂風の音がザーザーと猫耳型超高性能補聴器に入ってくる。
今、私たちが立っている場所から改めて目の前の光景を眺める。
街の風景が流れていく向こうで、砂の道が小川のように、あの向こうへ流れていく。
オルファリルの、哀しい優しさと涙。二ゴーさんの力強い優しさと信念。ポルナレフさんとホッパーのなんだか不思議な関係。
人間が生きている限り、生き続けている限り、今日も明日も無限の色どりに満ちて慌ただしく去ってはまた何かを連れて流れ込んでくる。

この大地の果てで。

街の向こう、道の向こう、砂風の向こうで私たちは、人間たちはこの滅びゆく時代と世界でしぶとく生き続けていく。

そして、この大地の果てで。



続く。




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