男性不妊専門医による生殖医療で日本社会の活性化を目指す!

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政府が打ち出した体外受精の保険適応 その真意とは?

2020-10-04 18:27:51 | 日記
先日、菅総理大臣が体外受精を保険適応とするとの政策を表明しました。この表明に賛否両論とともに業界に激震が走りました。テレビに出演した都内の男性不妊が専門で体外受精施設を運営する医師は、体外受精を保険適応で行った場合は自院のレベルを維持できなくなると発言し、巷では金持ち優遇の発言と非難が渦巻いた模様です。NHKのニュースでは都内の大手体外受精施設の理事長が政府から専門医ヒアリングを受けた際の内容について記者に問われると、困っている患者さんたちの現状をお伝えしましたと答えていましたが、その理事長の顔が一番困っているように見えました。何故ならばこの政府の方針に困っているのは都心や一等地で体外受精をしているクリニックの経営者だからです。保険診療で地方でも都心でも体外受精が同じ料金となると、集患のため一等商業地で馬鹿高い不動産価格を診療費用に転嫁させた自費診療ができなくなり、その結果売上に対する利益は大幅に減少し、高い固定費を賄うために同水準の利益を上げようとするならば、今までの何倍も働かなくてはいけなくなります。
 今年2月に小生が衆議院議員会館で開催された医療講演と専門医ヒアリングに呼ばれた際、体外受精の保険適応の是非についても意見を求められました。男性不妊を専門とする立場からは賛成とも反対とも言えないのですが、一つ言えることは体外受精の保険適応で患者さんたちの経済的負担が減るのは間違いありませんが、生産率が向上するわけではないということです。すなわち小生が心配していることは、体外受精前に必要な男性側の治療がこれまで以上にされないままに結果が出ない体外受精がより繰り返されるようになるのではないかということです。
 体外受精採卵周期あたりの生産率は日本産婦人科学会の集計によれば2017年には6%を割り込むほど低迷しており、2011年の国別の体外受精採卵周期あたりの生産率は日本はなんと世界でダントツ最下位で8%を下回っています。
 実はこのデータは政府も把握しておりますが、なぜあえてこのタイミングで保険適応と打ち出したのか?それは総理大臣が交代し、もはや5組に一つと言われる不妊患者からの自民党支持を得るのにわかりやすいスローガンであったということと、助成金に支えられた自費診療で利益を上げて肥大化した体外受精施設に歯止めをかけさせたいとする思惑でしょう。日本は世界の中でも人口あたりの体外受精の件数と体外受精を行う施設数はずば抜けて多いのです。しかしそれだけ出産に結びつかない体外受精を数多く繰り返して利益を上げてきたということに他なりません。
 昨日ある国会議員から困ったと連絡がありました。それは政府に対して体外受精を保険適応とする前に男性不妊に対する国の支援がもっと必要なのではないかと説いたら、男性不妊はほとんどの体外受精施設と連携しているから心配ないと言われたというのです。なんとも政府は現場の実態を全くわかっていないようです。体外受精施設のほとんどは男性不妊抜きに体外受精を繰り返しており、一方で大手の体外受精施設では競合する他院に対して差別化を図るために男性不妊外来を設置したり泌尿器科医師を雇ったりしています。しかし男性不妊診療は自然妊娠を目指す、体外受精をする場合でもできるだけ少ない回数で妊娠そして流産を防いで健常児出産させることを目的としており、当然ながら治療周期数を稼ぎたい体外受精施設でそのような診療がのびのびとできるわけがありません。したがって体外受精の利益のおこぼれなしに自立して運営できる男性不妊診療の普及が望まれるのです。実力がある男性不妊専門医師は体外受精施設に雇われて仕事をすることは通常あり得ません。リプロダクションセンターのようなところでは泌尿器科と産婦人科が対等であるようで、実は利益が少ない男性不妊部門は婦人科に対して肩身狭い思いをしているところがほとんどです。
 今後体外受精が保険適応となることで、さらに苦労を重ねてから男性不妊外来を訪れる方が増えてくることでしょう。大手の体外受精施設の思惑で医療政策が操作されるのではなく、正しい男性不妊治療を受けた方々が生き証人となって、SNSで拡散して社会を動かしていくことを期待したいと思います。