56.タオル（文月万里）

空色のタオルで拭けば涙など乾くさとっとと流してしまえ

55.労（文月万里）

労終えし囚の心地は如くならん冷たき夜の褥に入る時

54.電車（文月万里）

満ち足りて夜の電車に揺られおり祭の微熱まだ醒めやらず

53.爪（文月万里）

深爪の過ぎたる男の指先の盛り上がりたれば覆いやりたし

52.あこがれ（文月万里）

今もなおあこがれ仰ぐ新月は銀河をわたる舟と知りせば

51.宙（文月万里）

月から土、日本の曜日は天体の名と宙を差し教える異国

50.仮面（文月万里）

御気楽でいいから着けておく仮面明朗快活元気貪欲

49.約（文月万里）

みつ編みに束ねた髪をほどきゆく君の指先約束の朝

48.毛糸（文月万里）

もこもこでふわふわ毛糸のぬくもりがはじかいくらいだ母さん母さん

47.没（文月万里）

あっけなく沈没していくニッポンに呑まれ地球のマグマとならん