046 凍 （文月万里）

易々と「凍るような夜」と言う勿れ
真に凍てつくことなき街で

045 コピー （文月万里）

ドラえもん、コピーロボットことごとく
他人任せに過ごせたならば

044 飛 （文月万里）

もう一度お願い母さんのおまじない
イタイノイタイノスグ飛ンデユケ

043 曲線 （文月万里）

ゆたかなる曲線を描き
氷上に荒川静香の華ひらきゆく

042 豆 （文月万里）

豆のスープ煮込んで飲み干すセレモニー
恋失う度に味が良くなる

041 こだま （文月万里）

聞いた事と同じ事しかしゃべれないこだまよ
エコーよさみしきニンフ

040 道 （文月万里）

道すがら辛子菜手折り訪いゆけば
放哉の墓に銘酒梅錦あり

039 乙女 （文月万里）

乙女座と照れたように言う青年の
やわらかき髪星よりの風

038 灯 （文月万里）

フェリーの灯がぬっとあらわれて
そこに島あることに気付きぬ

037 花びら （文月万里）

春風に舞う花びらをひざの上で
開げたノートに閉じ込めて立つ

036 組 （文月万里）

胸の上で祈りの形に指を組めば
このまま命絶えてもいいと思う夜

035 株 （文月万里）

木の株の年輪の向きで
方角が分かる男と林に入りぬ

034 シャンプー （文月万里）

見も知らぬ男に咽喉をさらしおり
シャンプー台に無防備に寝て

033 鍵 （文月万里）

合鍵はひとつしかない
誰に預けても預けなくても生きてはいける

032 上海 （文月万里）

人の名は日本語読みで街の名は
シャンハイ(上海)と読む我等の矛盾