つらつらきもの

着物屋の日々の営業の中で、感じたことをつらつらと。

難題ほど闘志わく着物のお困りごと解決。

2017-12-19 14:19:44 | 日記


先日お客様が「これが何とかならないでしょうか」と礼装用のバッグをお持ちになった。

お話をお聞きすると、汚れてしまったバッグをご主人が見て、自分が落としてやろうと汚れた部分に漂白剤をかけられたところ、その部分が変色してしまったということだった。

そこで、何とかならないか心当たりの加工先に相談してみるために、しばらくバッグをお預かりすることになった。修復できるなら、弊店にすべてお任せしますということだった。

そこで、ちょっと筋違いとは思ったが、まずシミ落とし屋さんにバッグを見てもらうと、つぶさにいったん変色したものはシミ落としでは無理という返事。そして変色した部分に上から染料を塗ることならできるという。

しかし、もう少し他に方法がないか考えたかったので、その場では加工を依頼することはせず、バッグを持ち帰った。

この変色のあるバッグを何とか工夫して、またお客様にお使いいただくには、バッグの繊維自体を元色に回復できない以上、変色部分を何かで覆い隠す方法しかない。色々考える中で、ふと思い浮かんだのが、変色部分をバッグと同色のシルバーの糸で花柄模様か何かの刺繍をして隠すという方法だった。

次に刺繍屋さんに聞くと、バッグそのものに刺繍するのは技術的にも難しい上、仮にできたとして費用がかなり高くついてしまうということでこれも駄目。他にもあれこれ考えてみるが妙案がなく、しばらくいったん頭からリリースすることにした。

それから二週間ほどが経ち、何も状況は変わらなかったが、とうとう一番初めにシミ落とし屋さんが言った通り、自分で上から染料を塗ってみることに決めた。そこで、染料屋さんにバッグを持って行き、同じ色の染料を買い求めた。

染料屋さんがこの銀は本物でちょっと高いけれどと譲ってくれた染料を、言われた通り、アクリルの接着剤と銀粉を7対3の割合で混ぜ、変色の部分に塗ってみた。すると、さすが染料屋さん”プロフェッショナル”、何とバッグのシルバーと銀粉の色がぴったりと一致した。

これで、何とか変色部分は分からなくなったので、お客様に納得していただけるとは思ったが、修正部分の染料のべっとりした感じがどうも気に入らない。そこで、やり直そうと思い、染料が乾かない内に一度ふき取ってみる。すると、生地のくぼんだ部分はふき取れず染料が入ったまま残っていて、例えば畳に粉をこぼして拭いても畳の目にまだ粉が残っているような状態だが、これが随分いい感じでなんだかきれいになりそうな予感。

そして今度は、ふき取った部分の繊維の表面を丁寧に1本一本塗ってみた。すると、先ほどのべったり感はなくなり、何とその部分に変色があったことなど嘘のように、きれいに修復できたのだ。

お客様にお持ちすると、変色があったことなど全く分からなくなったと大変喜んでいただいた。

今回のケースのように、時々、これが何とかならないだろうかと難しい着物を持ってこられるお客様がある。お客様が直してでも着たいという想いは、それだけ自分の着物に愛着を感じておられることに他ならない。これは我々にとっても嬉しいことであり、それだけにそのお困りごとが難しいほど闘志のようなものが湧き何とかしてあげたいといつも思う。