醸楽庵だより

芭蕉の紀行文・俳句、その他文学、社会問題についての評論

醸楽庵だより  679号  将棋観戦記   白井一道

2018-03-23 14:35:58 | 日記


   将棋王座戦二次予選、糸谷八段戦対藤井六段戦のテレビ観戦記

 藤井聡汰六段は2五桂と歩をとり、桂馬を差し出した。勿論、将棋界の怪物との異名を持つ、糸谷八段は桂馬で桂馬を取り返した。解説をしていたプロ棋士四段は全く別の手を予想し、我々将棋ファンを納得させていた。
 王座戦二次予選は糸谷八段対中学三年生プロ棋士の藤井聡汰六段との戦いであった。糸谷哲郎八段は将棋界トップのA級に今年度昇段を決めた強い棋士である。18世永世名人の資格を持つ竜王位にあった森内九段を破り、糸谷八段は竜王位に就いたことのあるトッププロの一人である。大方の将棋ファンはいくら何でもまだ15歳の少年が糸谷八段と戦い、勝つとは思いもしなかった。嫌、将棋ファンだけでなく、プロ棋士たちでさえ、藤井六段の勝利を予想した人は少なかったようだ。
 藤井六段は2五桂の手に一時間二十五分の時間をかけて指した。何をそんなに考えることがあるのか、アメーバテレビを見ている私は退屈な時間を持て余していた。十六世将棋名人の資格を持つ中原誠氏はアマチュア初段の人と駒落ち将棋を指し、アマチュアが十分考えて指したことを讃え、強いと言ったことがあった。将棋の手が読める。十分間いろいろな手が読めるということは強さの証なのだ。藤井六段は一時間二十五分間、手が読める。精神の集中力が持続できる。この将棋は互いの持ち時間五時間である。午前十時に開戦し、十時間かけて一局の将棋を戦う。藤井六段の師匠である杉本七段はテレビに出て、一局の将棋を指すと人によっては二、三キロ体重が減ると述べていた。まさにプロの将棋はマラソンと同じだ。マラソン選手も四十二キロを走ると体重が三、四キロ減ると聞いている。マラソンに匹敵するような過酷な戦い、将棋王座戦に挑んだ藤井六段は2五桂と指し、戦いの火ぶたを切った。
 藤井六段の将棋は切り合いの戦いだった。肉を切らせて骨を断つ戦いをした。桂馬を差し出すという肉を切らせた。誰だってわが肉を切らせることは痛いに違いない。肉を切られても骨を断つことができると判断した。これが勝負というものなのだろう。
 時間をかけ、手を読んでも限界がある。パソコンとは違うのだ。読みきれる手に限界があるから将棋は勝負なのだ。読んで指した手の局面についての判断を大局観というのだろう。
 藤井六段は歩を進め、桂馬を取り返した。2五歩、2四歩と一歩一歩、歩を進め、銀を取り、金を取った。攻める速度と攻められる速度の計算ができていた。藤井六段の王様を守る金が桂馬に取られる運命になっている。藤井六段の銀は歩に取られそう、飛車は角に睨まれている。銀や金、飛車にかまうことなく、肉を切らせて、骨を断つべく、と金になった歩を進め、敵玉に迫って行った。迫力満点である。
 糸谷八段は挽回すべく、角で藤井六段の飛車を奪い、藤井六段に間違った手を指したら王様を取りますよという手を指すと藤井六段は読んでいますとばかりに金を張って王様を守った。この一手で藤井六段の王様はなかなか詰まない囲いになった。糸谷八段は受けに回り、馬を自陣に引き上げ、攻める番が回って来るのを待った。
 私の王様を詰ましてみろと開き直った。藤井六段は飛車を敵陣に打ち下ろし、次の手で王様を取りますよと手は言っていた。本当に糸谷八段の王様は詰まされてしまうの。素人の将棋ファンには分からなかった。が解説者が言った。詰みです。糸谷八段は頭を下げ、参りましたと小声で言ったのが分かった。

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