大阪商業大学高等学校サッカー部

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人間性を高める FW三浦知良選手(横浜FC)

2017年09月12日 01時01分45秒 | 心・技・体
 プロの“新人”として学び始めたころ、待っていても何も教えてくれないのがブラジルの現場だった。

 日本なら、18歳のルーキーが試合に出られなければコーチが手を差し伸べる。居残り練習もしてくれる。僕にそんな助けはこない。自分で何かを起こさなければ、すべてが進まない。だからベンチを外れた日は、自分で公園へ行って8キロ走をした。不満や不安をぶつける先も、自分で探してね。

 僕の体をみてくれるマッサージの専門家も「見習いの頃、師匠は何も教えてくれなくて」という。そばで見て、まね、盗んだと。「ああしろ、こうしろと言われたのは修行の3年間で10分間くらい」だって。懇切な言葉より、行動から僕らは学び取っていく。

 もともと飛び抜けて優秀な人が集まるのがプロの世界だ。どこで差がついていくのか、日本代表をみても察しは付く。必ずしもすごい俊足や肉体の持ち主じゃない人が代表の主将や軸になる。人間的に成長したときに、サッカーでも成長しているんだよね、これは。人の痛みが分かる、あいさつ、片付け、日常の心がけ。選手として抜け出したければ、自分の人間性を高めることだ。

 僕も自問する日があるよ。「なぜ自分はダメなのか」。それは精神的なもろさが出たからだな、例えば嫌なことがあると愚痴を言っているよな。「であれば、我慢し、違う形で発散して集中できれば、もっとサッカーも上向くのでは?」。

 ある練習試合、新人GKがミスをして負けた。「何だよ、あいつ。勝てたよな」と僕がぼやく。ところが味方DFは「勝たせてやりたかったです。僕自身のプレーが乱れなければ」と嘆く。つい、ふと、人のせいにしていたなと学ばされます。

 目線を自分の足りなさに転じること。そういう気づきを人生でいつ、感じられるかなんだろう。でも選手はたいてい、気がつくのが遅い。だからなのか、監督になると正反対になる人も多いんだ。「俺は天才肌だからさ」と練習に熱を上げなかった人は、引退後は反面教師を演じている。「自分のようにはなってほしくないから」だそう。「練習でこんなに走ってどうするんだよ」と文句ばかり言っていたのに、監督になると「サッカーは走らないとダメだぞ」と尻をたたく知人もいるけどね。

 監督になっても選手のころの心のまま、というのはラモス瑠偉さんとマラドーナくらいでしょうか。まあ、若くしてあまりに分かりすぎているのも気持ち悪いけど。人間、成長するには時間が必要です。


「日本経済新聞コラム ”サッカー人として” 2017年4月14日掲載」

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