吹く風ネット

脚立

 若い頃、よく脚立に乗って作業をやらされていた。部署の中で一番背が高かったので、こういう役回りはいつもぼくだった。

 ある日のこと、前日の酒が若干残った状態で仕事をしていた。そういう時に限って、脚立作業が発生する。そしていつものようにその作業がぼくに回ってきた。

 その作業をやっている最中、
『ここから落ちたらどうなるんだろうか。少なくとも捻挫はするだろうな』
 そんな考えがぼくの頭の中をよぎった。するとなぜかそこに立っているのが怖くなった。そのうち怖さが怖さを呼んで、急性の高所恐怖症になってしまった。足が震えて仕事が手につかない。

 その時だった。数十年前の記憶が蘇った。
 中学生の頃、ぼくは友だちとよく学校を抜け出していた。抜け出すには、2メートルちょっとの高さがある石垣を飛び降りなければならなかった。足は底の薄い上履き、もしくは裸足だ。だけどその時は、
『ここから飛び降りたら・・』なんて考えなかった。ただ早くそこから抜け出したかったんだ。
 それがよかったんだと思う。早く抜け出したいという強い気持ちが、恐怖心を吹き飛ばしてしまい、飛び降りる時に無心でいられたわけだ。そのおかげで、『少なくとも捻挫』すらしなかった。

『そうだ。ここから落ちそうになった時は、落ちまいと無理に力まないようにしよう。「学校を抜け出したい」という気持ちを蘇らせて、思い切って飛び降りてみることにしよう。「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」という言葉もあるくらいだ。よしそうしよう』

 そんなことを考えていたら上司から、
「いつまでやっているんだ」
 と怒鳴られ、その声に押されて、ぼくは脚立から落ちた。
 しかし、その時無心だったのだろう、みごと足から着地し、『少なくとも捻挫』すらしなかった。

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コメント一覧

shinta1488
おはようございます。
いつもコメントありがとうございます。
数年前、長崎平戸の生月島に行ったんですが、そこにすごい絶壁があって、そこから下を眺めているうちに、「ここから落ちたら、確実に死ぬ」などと思っていたら、急に怖くなって、その場に座り込んだことがあります。
その後、福岡タワーや下関の海峡タワーに行ったときには、なんともなかった。
平戸の時は急性だったんでしょうね。

しかし、お役に立ててよかった。
ありがとうございました。
西風
眼から鱗です・・
おはようございます~^^
いつもありがとうございます。
今朝は一段と寒い朝を向かえましたね~((+_+))
さて、為になるお話に感謝です。
実は私、40歳を過ぎたあたりから突然「高所恐怖症」に見舞iわれて、現在も正直、高い所は苦手なんです。
映画のスクリーンに映し出される高所のシーンはお恥かしい話、恐怖で眼を閉じてしまいます。
読んでて初めて知ったのですが、「急性の高所恐怖症」ってことなんですね。これ大変勉強になりました。

そうなんですよ。今まで自身、煙と一緒でどんなに高所に行っても怖いと感じた事は一度も無かったのですが、ある日、40歳前後を境に高い所は全くダメになりました。
そうだったんだぁ~急性・・かぁ~・・いや、ありがとうございます。
これを知った事で何とか克服できそうです~^^再びスパイダーマンに復帰できる自信が出来ました~(´艸`*)
あっははは~感謝です~♪

それでは!本日もよろしくです~(@^^)/~~~
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