吹く風ネット

おじちゃん(後)

 昨日の続きです。

2005年5月21日
 姪にとってぼくの存在は、物心ついた時から『にいちゃん』だったのだ。さすがに意地の悪い友人も、ぼくと姪の鉄壁な『にいちゃん』関係にあてられたことだろう。
 ところで、姪がその友人のことを何と呼んでいたかというと、「おじちゃん」だった。
「へえ、おじちゃんは、うちのパパと同い年なんですか?へえ…」といった具合だ。
 その都度友人は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。「ザマーミロ」である。

 ところで、高校1年時の夏休み以外にも、ぼくはショックを受けたことがある。それは、再び「おじちゃん」と呼ばれたことではない。もっと先を行っていたのだ。

 5年ほど前だったろうか。仕事中にそれは起こった。
 いつものように、ぼくは暇をもてあまして売場でテレビを見ていた。すると、2,3歳くらい男の子が、ぼくの方にトコトコと歩いてきた。そしてぼくの前で立ち止まった。
 ここまでは横須賀事件と同じである。しかし、横須賀事件と違ったのは、その男の子がぼくに対して発した言葉だった。
 先に言ったように、「おじちゃん」ではない。当時ぼくは、すでに40歳を超えていたので、仮に「おじちゃん」と呼ばれても、もう驚きはしない。「まあ、そんな言い方をするガキもいるだろう」と思って、軽く受け流すだろう。そういうわけだから、もちろんショックなんて受けない。

 では、何という言葉でショックを受けたのかというと、それは、
「パパ」
 それを耳にした瞬間、ぼくの中で時間が止まった。呆然としたぼくは、自然とこの言葉が口をついて出た。
「あんた、誰…?」

 そのやりとりを聞いていたのか、その子の母親が慌てて飛んできて、
「○ちゃん、はい、よーく見て。ね、パパじゃないでしょ」と子供を諭し、ぼくの方を向いて、
「どうもすいません。すいません」と平謝りに謝った。そして子供を向こうに連れて行こうとした。
 ところが、子供はそこから動こうとしない。相変わらず「パパ、パパ」と言っているのだ。
 結局、母親はその子を抱きかかえて、連れて行った。その時も母親は、
「パパは家にいるでしょ。あの人はね、ここの店の人よ」と言っていた。
 しかし、その子はそれを面白がっているかのように、相変わらず「パパ、パパ」を連発していたのだった。

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