吹く風ネット

訪問販売(後編)

2002年05月23日
 そんなことがあってから、午前中はその喫茶店に集合するのだが、モーニングを食べ終わってからは、場所を変えるようにした。制服を着ているため、集団だと目立つので、ばらばらに散らばったのだ。

 ぼくがよく行ったのは、隣の区にある本格的なマンガ喫茶だった。
 コミックの数は、前の喫茶店と比べものにならないほど多く、これらの本を全部読むのは、2ヶ月という限られた時間では無理だった。
 そこで、ぼくが読んだのは、昔読んだことはあるが、最終回まで読まなかった本だった。これなら所々のストーリーは知っているので、読むペースが速くなる。ということで、その2ヶ月間でけっこうな量のマンガを読破したのだった。

 さて、その訪販期間中、ぼくはかなりの売上げを上げた。しかし、それはお客さんのところに足を運んで、売ったのではなかった。なぜなら、ぼくはずっとマンガを読んでいたのだからだ。
 どうやって売ったのかというと、いろんな所にアンテナを張り巡らしていたのだ。
 訪販組に抜擢された時に、ぼくは友人知人や顧客に電話をかけまくった。そして、
「誰か買う人がおったら紹介して」と言っておいた。

 さすがに、買う人はすぐには見つからなかった。しかし、1ヶ月が過ぎた頃から、だんだん当たりが出てきた。マンガ喫茶にいる時、ポケベルは鳴りっぱなしだった。
 終わってみると、ぼくは売り上げ2位になっていた。

 後日全体朝礼の時に表彰式があった。売上げ3位までの人間は、全員の前で成功談を言わなければならない。ぼくは、
「慣れない仕事だったので、きつかったです」と語った。すると進行係が、
「どういう時が、一番きつかったですか?」と聞いてきた。
 マンガばかり読んでいたので、こういう質問は困る。しかたないので、こう答えておいた。
「はい。午後が一番きつかったです」
「えっ、それはどうしてですか?」
「首が痛くなったからです」
 皆神妙に聞いていた。しかし、訪販組はその理由がわかっていたので、ニヤニヤしてた。

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