「おはよう!」
後ろから元気に声をかけてきたのは麗子だった。さとみはぽうっとした顔で振り返る。
「……あ、おはよう……」
「……」麗子はからだをやや折り曲げ、不満そうな表情でさとみの顔を覗き込む。「さとみ、今日は『新しいわたしデビュー』の日じゃなかったの?」
「うん……」ぽうっとしたままさとみは答える。「ちょっと事情があって……」
「はあ?」麗子は呆れた声を出す。「事情だってえ? 偉そうねえ」
「……百合恵さんが、わたしの霊能力はとても強いから、普通の娘みたいにしてたら、それが消えちゃうかもって言うの。それに、亡くなったおばあちゃんのために……」
「もういい!」麗子はからだを伸ばし、ぷっと横を向いた。「どうせ、そんな事だと思ったわ! 期待してたのにさ!」
麗子は言うと大股で歩き出した。さとみはちょこちょこと急ぎ足で並ぶ。強がって見せてるけど、本当は怖いんだ、弱虫麗子だもんね、さとみは思った。でも、今日はそれで終わらせるわけにはいかない…… 速力を上げる。
「ねえ、ねえ、麗子…… ちょ、っと、話、が、あるん……だけ、ど……」
さとみは麗子と並んで歩くが、息が切れ切れになった。麗子は知らん顔で歩いている。さとみは麗子のブレザーの端をぎゅっとつかんだ。
「なによ?」強くつかまれたせいで歩けなくなった麗子は立ち止まり、むっとした顔でさとみを見下ろす。「遅刻しちゃうじゃない!」
「話があるの……」さとみは平然とした顔で麗子を見上げて言った。しかし、息は上がっている。「今晩、暇?」
「はあ?」
「だから、今晩、空いてる?」
「……」麗子はじっとさとみの顔を覗き込む。むっとしていた表情に変化が生じた。したり顔で何度もうなずく。「はは~ん……」
「な、なによ?」ぐいっと寄せられた麗子の顔に圧倒されながら、さとみが戸惑い気味に言う。「なんなのよ、その表情」
「いいのよ、いいの」麗子は言いながら、さとみの肩をぱんぱんと叩く。「学校ではいつものさとみ、しかし、放課後には新しいさとみって事でしょ?」
「はあ?」
「百合恵さんがどうしたとか、おばあちゃんがどうしたとか、訳の分かんない言い訳して、わたしを煙に巻こうったって、そうは行かないわ」麗子はくすくす笑い出した。「しっかし、さとみも大胆ね。新しいわたしになった途端、夜遊びなんだもん。『大胆少女 さとみ』ってところね」
麗子は大きな勘違いをしているようだ、さとみは思った。しかし、その方が都合がいい。麗子の勘違いに合わせてしまおう。
「そうなのよう……」さとみはとろんとした目付きで言った。「お願い……」
「まっ! 悪い娘ねえ」
麗子は笑い出した。さとみも調子を合わせて笑った。
つづく
後ろから元気に声をかけてきたのは麗子だった。さとみはぽうっとした顔で振り返る。
「……あ、おはよう……」
「……」麗子はからだをやや折り曲げ、不満そうな表情でさとみの顔を覗き込む。「さとみ、今日は『新しいわたしデビュー』の日じゃなかったの?」
「うん……」ぽうっとしたままさとみは答える。「ちょっと事情があって……」
「はあ?」麗子は呆れた声を出す。「事情だってえ? 偉そうねえ」
「……百合恵さんが、わたしの霊能力はとても強いから、普通の娘みたいにしてたら、それが消えちゃうかもって言うの。それに、亡くなったおばあちゃんのために……」
「もういい!」麗子はからだを伸ばし、ぷっと横を向いた。「どうせ、そんな事だと思ったわ! 期待してたのにさ!」
麗子は言うと大股で歩き出した。さとみはちょこちょこと急ぎ足で並ぶ。強がって見せてるけど、本当は怖いんだ、弱虫麗子だもんね、さとみは思った。でも、今日はそれで終わらせるわけにはいかない…… 速力を上げる。
「ねえ、ねえ、麗子…… ちょ、っと、話、が、あるん……だけ、ど……」
さとみは麗子と並んで歩くが、息が切れ切れになった。麗子は知らん顔で歩いている。さとみは麗子のブレザーの端をぎゅっとつかんだ。
「なによ?」強くつかまれたせいで歩けなくなった麗子は立ち止まり、むっとした顔でさとみを見下ろす。「遅刻しちゃうじゃない!」
「話があるの……」さとみは平然とした顔で麗子を見上げて言った。しかし、息は上がっている。「今晩、暇?」
「はあ?」
「だから、今晩、空いてる?」
「……」麗子はじっとさとみの顔を覗き込む。むっとしていた表情に変化が生じた。したり顔で何度もうなずく。「はは~ん……」
「な、なによ?」ぐいっと寄せられた麗子の顔に圧倒されながら、さとみが戸惑い気味に言う。「なんなのよ、その表情」
「いいのよ、いいの」麗子は言いながら、さとみの肩をぱんぱんと叩く。「学校ではいつものさとみ、しかし、放課後には新しいさとみって事でしょ?」
「はあ?」
「百合恵さんがどうしたとか、おばあちゃんがどうしたとか、訳の分かんない言い訳して、わたしを煙に巻こうったって、そうは行かないわ」麗子はくすくす笑い出した。「しっかし、さとみも大胆ね。新しいわたしになった途端、夜遊びなんだもん。『大胆少女 さとみ』ってところね」
麗子は大きな勘違いをしているようだ、さとみは思った。しかし、その方が都合がいい。麗子の勘違いに合わせてしまおう。
「そうなのよう……」さとみはとろんとした目付きで言った。「お願い……」
「まっ! 悪い娘ねえ」
麗子は笑い出した。さとみも調子を合わせて笑った。
つづく
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