「ねえ、何の話をしているの?」ジェシルが、にこにこしながらジャンセンに話しかける。「ジャン、あなた暗い顔しているわね。トラン君まで……」
「トラン、どうしたのよ?」マーベラもにこにこしている。にこにこしながらトランを叱っている。「わたしとジェシルは仲良くなったのよ? もう争う事はないわ。それなのに、どうしたって言うのよ?」
「姉さん……」トランはため息をつきながらマーベラを見る。「あのさ、この状況をどうとも思わないのかい? ぼくたちは古代に飛ばされたんだよ。それも赤いドア枠でさ」
「え?」ジェシルは驚いた顔でマーベラを見る。「あなたたちも、あの赤いドア枠、って言うか、ゲートを通ってここに来たの?」
「ジェシルたちもそうなの?」マーベラも驚く。「……わたしたちって、すっかりそっくりなのね!」
「そうね、すっかりそっくりだわあ!」
ジェシルとマーベラはまた手を取り合ってきゃあきゃあと飛び跳ねている。
「……ありゃ、ダメだ……」ジャンセンはつぶやく。「ぼくたちで何とか考えよう……」
「そうですね……」トランは呆れた顔だ。「姉さんのあんなにはしゃぐ様子は初めて見ましたよ。まだ衣装の神性が残っているんでしょうか……?」
「かもしれないね」ジャンセンがうなずく。「二人が正気に戻るとまた面倒くさくなりそうだ……」
「ジャンセンさん、ドア枠、じゃなかったゲートに付いて分かる事って材質以外に何かありますか?」
「ぼくは、このゲートは空間移動用のゲートだと確信している」ジャンセンはトランを見て言う。「普通は出口と入口の双方向性を持っていると思うんだけど、ぼくたちが出てきたゲートはぼくたちが戻る事が出来なかった。つまりは出口専用って事だね。ジェシルは、誰かが機能を止めたんだって言っているけどね」
「誰か、ですか……」トランは思案気な表情をし、きゃあきゃあ跳ねているマーベラを見る。「……まさか、それがマスケード博士とか……」
「それを断じる証拠はない。だから、滅多な事は思わない事だね」ジャンセンは言うと、トランの肩をぽんと叩く。「思い込みは判断を迷わせるからね。もっと調べてみなければならない」
「そうですね」トランはうなずく。「ぼくたちが出てきたゲートも調べてみた方が良いですね」
「……それはそうと、ちょっと疑問があるんだけど」ジャンセンが真剣な表情で訊く。「ぼくは専門だから問題はなかったけど、マーベラも君も、この時代の言葉には詳しくはないと思うんだが、どうやって克服したんだい?」
「ゲートから放り出された時なんですが、ごつごつした白い木製の仮面が姉さんの近くに転がっていたんです」
「両目と口元が細く横長に切り抜かれた、デスゴンの仮面だね?」
「そうです。姉さんは何のためらいもなくその仮面を手に取って顔に付けたんです。括り紐もないのに、仮面は姐さんの顔に付いたんです。途端に知らない言葉を話し始めました。しばらくするとダームフェリアの民が狩猟かなんかの途中だったのでしょう、出くわしてしまいました」
「そうしたら、民たちが『デスゴン』って言いだしたってわけだね」
「そうです。姉さんはそれに応対していました。ぼくは訳が分からず只おろおろしていました」トランはまだ跳ねているマーベラを見る。「でも、仮面は外す事は出来たんです。外した時はいつもの姉さんだったんです。今こんな事をダームフェリアの民に語ったと解説をしてくれるんですけど、すぐに仮面を付けちゃって、すっかり邪神デスゴンでした……」
「あの仮面がデスゴンの一部だったんだ。いや、仮面が本体だったかもしれないぞ。衣装はそれを補うためのものだったのか……」ジャンセンは忌々しそうな顔をきゃあきゃあ跳ねているジェシルに向ける。「でも、仮面はジェシルが壊しちゃったからなぁ…… 勿体無い事だったなぁ……」
「ジャン!」ジェシルがジャンセンに振り返る。その顔は怒っている。「こそこそ話ならもっと小さい声でするべきね。段々と大きくなってきちゃって、丸聞こえよ!」
「トランも好い加減にしなさいよ!」マーベラも怒っている。「すっかり邪神デスゴンってどう言う事よ? わたしは操られていただけよ!」
「やっと仲良しタイムが終わってようだね」ジャンセンは何食わぬ顔で立ち上がる。トランもそれに倣う。ジェシルとマーベラはむっとした顔でジャンセンを見つめている。「これから調査をしなくちゃならない事があるんだ」
「ジャン、調査って、何をするの……?」
「そりゃあ、元の時代に戻るための調査だよ、他にあるのかい?」ジャンセンは呆れた顔でジェシルを見る。「……二人とも、神性の影響で、ここの居心地が良くなっちゃったんじゃないのかい?」
ジェシルとマーベラはむっとした顔をジャンセンに向ける。全力で反抗しているようだ。
「そうですよ、いつまでもこの時代に居続けるわけには行きませんよ」トランは真剣な顔で言う。「是が非でもぼくたちの時代に戻らなければなりません」
トランの真剣な眼差しに、むっとしていた二人は顔を見合わせる。
「そうね、トラン君の言う通りだわ」ジェシルは言う。「神としての役目は終わったんだから、いつまでも居ちゃおかしいわ」
「それは言えるわ」マーベラもうなずく。「とにかく、あのドア枠(「姉さん、あれは空間移動用のゲートだとジャンセンさんが言ってるよ」とトランが口を挟む。マーベラは不承不承と言った態でうなずく)……ゲートの所まで行きましょう。何か分かるかもしれないわ」
「……なんだ、トラン君には従うんだな……」ジャンセンは、にこにこしながらトランを囲むジェシルとマーベラを見ながら小言をつぶやく。「ぼくには文句を言うくせに……」
つづく
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