営業四課のドアを開けると、川村静世が鼻の下と上唇の間にシャープペンを挟みながら、お菓子を並べたデスクにむっちりとした両腕で頬杖をついてボーッとしている姿が飛び込んで来た。川村静世は別にあわてた様子もなくこちらを見返した。
「あ、おかえりなさ~い……」
少々太めの川村静世は、声を出すのも面倒くさそうに言った。
「川村君」西川が優しい口調で言った。「あの吉田課長が部長に昇進した。いま資料保管室を片付けている。手伝いに行ってくれないか?」
「はぁ…… 分かりましたぁ……」
川村静世は返事をしたものの立ち上がろうとしない。いや、立ち上がるのも面倒なのかもしれない。相変わらず鼻の下と上唇の間にシャープペンを挟んだままだ。
「静世ちゃん」林谷がニコニコしながら言った。「今夜八時から無国籍レストラン『ドレ・ドル』でパーティがあるんだけど、お友達誘って来てちょうだい。無料御招待だから」
「ええええっ!」
川村静世はガバッと立ち上がった。シャープペンがコンカラカランと床に落ちた。目がギラギラと輝き出した。
「あの超高級レストランの、あの『ドレ・ドル』?」
「超高級かどうかは知らないけど、ま、よろしく」林谷がウインクをして続けた。「その前に吉田部長の手伝いをちゃちゃちゃっとしてくれるかな?」
川村静世はもの凄い勢いで営業四課から飛び出して行った。ドアが乱暴に開けられて閉められた。
「静世ちゃん、この分だと良き働き手となるでしょうねぇ、新課長」
林谷が言った。
「仮課長だ!」すかさず西川が言った。それからコーイチの方に顔を向けた。「コーイチは吉田元課長の机の整理をしてもらおうか。元課長は資料保管室を片付けていて、こちらには手が回らないだろうからな。他のみんなはお得意様への連絡だ」
印旛沼が手を叩いた。すると大きな空の段ボール箱が二つポンと現われた。
「コーイチ君、机の中の色々なガラクタはこの中に放り込んでおくと良いよ」
「はぁ、どうも……」
印旛沼さん、やっぱい凄いなぁ……
清水がバッグから黒い手袋を取り出してコーイチに渡した。手の平側に変わった模様が赤い糸で縫われていた。
「コーイチ君、これを嵌めて仕事をなさいな。あの課長の私物のほとんどに私が呪いをかけておいたから、それがコーイチ君にうつらないための結界入りの手袋よ。うふふふふ……」
清水さん、やっぱり凄いなぁ……
「それじゃ、始めよう」
西川が宣言した。
つづく
「あ、おかえりなさ~い……」
少々太めの川村静世は、声を出すのも面倒くさそうに言った。
「川村君」西川が優しい口調で言った。「あの吉田課長が部長に昇進した。いま資料保管室を片付けている。手伝いに行ってくれないか?」
「はぁ…… 分かりましたぁ……」
川村静世は返事をしたものの立ち上がろうとしない。いや、立ち上がるのも面倒なのかもしれない。相変わらず鼻の下と上唇の間にシャープペンを挟んだままだ。
「静世ちゃん」林谷がニコニコしながら言った。「今夜八時から無国籍レストラン『ドレ・ドル』でパーティがあるんだけど、お友達誘って来てちょうだい。無料御招待だから」
「ええええっ!」
川村静世はガバッと立ち上がった。シャープペンがコンカラカランと床に落ちた。目がギラギラと輝き出した。
「あの超高級レストランの、あの『ドレ・ドル』?」
「超高級かどうかは知らないけど、ま、よろしく」林谷がウインクをして続けた。「その前に吉田部長の手伝いをちゃちゃちゃっとしてくれるかな?」
川村静世はもの凄い勢いで営業四課から飛び出して行った。ドアが乱暴に開けられて閉められた。
「静世ちゃん、この分だと良き働き手となるでしょうねぇ、新課長」
林谷が言った。
「仮課長だ!」すかさず西川が言った。それからコーイチの方に顔を向けた。「コーイチは吉田元課長の机の整理をしてもらおうか。元課長は資料保管室を片付けていて、こちらには手が回らないだろうからな。他のみんなはお得意様への連絡だ」
印旛沼が手を叩いた。すると大きな空の段ボール箱が二つポンと現われた。
「コーイチ君、机の中の色々なガラクタはこの中に放り込んでおくと良いよ」
「はぁ、どうも……」
印旛沼さん、やっぱい凄いなぁ……
清水がバッグから黒い手袋を取り出してコーイチに渡した。手の平側に変わった模様が赤い糸で縫われていた。
「コーイチ君、これを嵌めて仕事をなさいな。あの課長の私物のほとんどに私が呪いをかけておいたから、それがコーイチ君にうつらないための結界入りの手袋よ。うふふふふ……」
清水さん、やっぱり凄いなぁ……
「それじゃ、始めよう」
西川が宣言した。
つづく
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