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のほほん書斎(日高茂和)

吉田拓郎の「都万の秋」と志ん生の「大津絵冬の夜」

吉田拓郎のアルバム「ライブ’73」は私が十歳のころのライブ録音盤だ。
誰に録音してもらったのか覚えていないが、十代のころテープを持っていた。
いつしかそのテープもどこかへ行ってしまったが、どうしても折に触れ思い出す曲があった。「都万の秋」(岡本おさみ作詞 吉田拓郎作曲)である。
都万の秋を聴きたくて再発のCDを買った。
都万は島根県の隠岐の島の漁村のようだ。歌詞の概要は、風来坊のような旅人が隠岐の島を旅する。そこで漁師の夫婦と出会い、とくに「おかみさん」の生き様に感銘する。歌はこう締めくくられる

「海の機嫌をとってきた都万のおかみさんたち
 ひと荒れすりゃひと年も老けてきた
 明日の朝は去ってしまおう
 だって ぼくは怠け者の渡り鳥だから」

海という危険な場所での仕事はまさに命がけの仕事だ。また、個人営業の漁師はいくらか危険でも危険と闘う「賭け」が見返りにつながるという話を聞いている。「バクチ商売」と謙遜して話す漁師の言葉も聞いたことがある。
そうした命を賭け、体を張って仕事をする亭主の無事を家を守りながら祈る「おかみさん」の心情が痛いほど伝わってくる。
陸の仕事でももちろん命の危険をともなう仕事はある。昔の話だが、「火消し」などはその最たるものだろう。
古今亭志ん生の録音記録に、落語ではないが「大津絵・冬の夜」という歌が残っている。
志ん生が火消しを亭主に持つおかみさんの心の叫びを、思わず涙を催さずにはいられない情感をともなって歌っている。

冬の夜に風が吹く
知らせの半鐘がじゃんと鳴りゃ
これさ女房わらじ出せ
刺しッ子襦袢火事頭巾
四十八組 おうおうと
お掛かり衆の下知を受け
出て行きゃ女房はそのあとで
うがい手洗いにその身を清め
今宵うちの人に怪我のないよう
南無妙法蓮華経 南無妙法蓮華経

ありゃりゃんりゅうとの掛け声で勇みゆく
ほんにおまえはままならぬ
もしもこの子が男の子なら
おまえの商売させやせぬぞえ
罪じゃもの

「この子」とあるのはお腹のなかの子ではないだろうか。
惚れた亭主と、いまの自分の歳を迎える将来の幼子への思いに感動がある。



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