昔東京で暮らしていたころ好きだったひとは、とある地方の海べりで生まれ育ったひとであった。
お互い東京で生活していての出会いだった。
聡明さと、はじめはなかなか気付かなかったのだけど、彼女のもつゆたかな感受性におれはだんだん惹かれていった。
「わたしは田舎者だから」と、いつも自嘲していた。
だけど彼女は、都会の女には負けない美しさを持っていた。
その美しさのなかに、海べりの風や光を感じさせるような野性的な部分があって、彼女を輝かせていた。そしておれはそこにつよい憧れをいだいていた。
彼女が東京を離れ、田舎へ帰ることになって、結局そのあたりがきっかけと限界で、おれたちは別れてしまったのだけど、しばらくは、彼女がもうこの町にはいない、という事実が、どうにもさびしくてしかたなかった。
青空でつながっているのだ、なんて必死に思い込ませようとした時期もあったけれど、なかなかうまくいかなくて、なんだか情けないなあ、なんてそのころは、ため息ばかりついていた。
ああした恋愛の傷がどういやされていったのかはよく覚えていない。
だけど、別れて何年もたってみて、ふと気づいたとき、彼女のコトバで話していたり、彼女のような感受性でものごとを受け止めたりして、あのころ好きだったひとの、おれが好きだった部分が、おれのなかに息づいている、と感じられることが、ものすごく嬉しくなるときがあった。
そんなとき、ようやくあの恋愛も昇華されて、すこしゆたかになったような気分で、青い空を眺めることができるのかもしれない、なんて思ったりするのだ。
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