詩を書きたい

どうすれば、人に共感してもらえる詩、が書けるのか――そのヒントと詩作方法を探します。

子どもたちの言葉は、発見と驚き

2014-04-30 | 詩について
「星の王子様」の言葉───「おとなは、だれも、はじめは子どもだった。(しかし、そのことを忘れずにいる大人は、いくらもいない。)

 子どものための詩の本を読むからといって、それを教科書のように読むのじゃない。子どもへの詩への考え方を通して、詩を書くときのヒントになるものを得るために批評的に読んでいきたいのです。



「基礎理論編」の――

(一 読者としての「子ども」)の章は、子供の発達段階に応じて、言葉がどのように深化していくか、が書いてあります。
 P9 ケン・ウィルバーの自我の発生
 P11 ジャン・ピアジュの精神発達の4つの主要な段階

 よくいわれているように、3歳までに、幼児は自我の基礎的な部分を獲得するようです。
 ここで、ますだきみとし君という幼児の詩が紹介されています。

 あかとんぼがねえ
 おじいちゃんのうちの
 はなのところで

    ――(略)――

 
「三歳になると子どもたちが、これだけの言葉を用い、(いつ)どこで、誰が、何をして、それについてこう思った、という論理的な思考ができるということだけをいっておきます」

 文章の基本的な5H1Wができあがってくる時期ということです。


子どもの認識過程
1 外界を知る
2 心的イメージ、シンボルを用いることができるようになる
3 対象物がどのように見えるかなど――他人の立場からも理解できるようになる
4 形式的操作期は青年期に始まり、身体的独自性やシンボルに基づく精神的行動ができるようになる


 という、外界への認識が発達すると、それによって自己が打ち立てられるのです。


 それで、ぼくたちが詩を書くときにヒントになるものを、ここでの説明から探すと――P15にかかれているように、

1 自分の中の「幼児性」に気づく
2 子ども時代を「追体験」する
3 子どもの心的世界を「再現」する
4 「遺伝子レベルの記憶」を引っぱり出す(無意識・前意識)


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 4項に書かれている「『子どもの コトバで』とはどういうことか?」のところで――
 多くの童謡を書いた北原白秋の弟子の、与田準一の、「子どもの詩の理解」の要約が、よくわかります。

1 子どもの言葉は抽象的でない。具体的だ。
2 語彙が少ない。それで、おもしろい結合、が生まれる。
3 自他未分。汎神論的。
4 嘘と空想が区別しにくい。
5 空想家、ロマンチストだが、現実的でもある。



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 5項にある「『子どもの リズムで』とはどういうことか?

 P22に書かれている白秋の言葉。
「童謡の表現には歌うべきものとしての調律を要し、童謡の表現には寧ろ極めて幽かな感情の流動を心に響かせ、サウして、さながら、自由律をも認容する」

「詩とは感情と生理だ」といったのは萩原朔太郎ということです。


 子どもたちに見いだされる言葉たち。
 リズム。驚きと発見。
 世界――

 まだ自我が確立する前だからこそ、常識的なものを打ち破り、言葉が活き活きとしていると思われます。時々、子どもたちの詩を読んで、固まった大人の脳を吹き飛ばすのも、いいかもしれません。





「子どもに向けての詩のつくりかた入門」

2014-04-29 | 詩について
 この本のあとがきに、「『子ども』は、『胎児』から『中学生』までとしました。子どもに向けての詩の呼称として、『幼年詩』というグレード名があって──(略)――新生児以前、また以後の発語(有意味語)に到るまでの『乳児』をも、ここでの対象にしたのです」とあります。普通は昨日紹介した「作文児童詩教育」のように、幼年・児童を対象にしそうですが。
 これまでの児童詩指導とは違ったアプローチなのでしょう。発語の起源からに遡るというのは。

 ぼくは「児童詩教育どのようにすすめるか」(ページにリンクを貼ってごめんなさい)に書かれている流れに全面的に賛成なんです。大人でも、こういう発想、構成の仕方で詩を作っている、と思うからです。

 詩は難しいものじゃありません。
 構えるものでもない。
 書きたい時に書けばいい。そう思うんです。

 でも、「他人に伝える」、という「表現」としての芸事としては、難しいかも知れません。

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 目次を書いておきます。

基礎理論編

一 読者としての「子ども」

  1 「子ども」に基準を合わせる
  2 「三つ子の魂百まで」
  3 「子どもの ココロを」とはどういうことか?
  4 「子どもの コトバで」とはどういうことか?
  5 「子どもの リズムで」とはどういうことか?

二 「少年詩」の歴史

  1 「少年詩」の流れ
  2 「少年詩」という呼称(呼び名)
  3 あるまじきこと・すまじきこと・(こころすべきこと)として
    ●子どもに向けての詩を甘くみてはいけない
    ●「読者」を忘れてはいけない

三 子どもに向けての詩の基本

  1 詩とは何か? (詩の定義)
  2 詩の言葉とは何か?
  3 想像力とは何か?

創作技法編

一 乳児に向けての詩の捉え方と作り方――胎児を含めて0歳から1歳まで
  1 ひたすらなる(愛)をこめて
  2 子守唄ないし歌としての言葉を――
  3 二歳に到るまでの八~九か月以降の子どもに向けての詩的な言葉として

    ■詩のつくりかたのポイント
     1 驚きは将に驚こうとしている心の状態だけに訪れる(吉本隆明)

二 幼児に向けての詩の捉え方と作り方――二歳から五歳まで
  1 二歳から五歳までは「創造性の黄金期」
  2 メタファを中心にした幼年詩
  3 その他の幼年詩の特徴
  4 次章の小学生期に入るまえの最後の確認

    ■詩のつくりかたのポイント
     2 モチーフからテーマまで

三 低学年生に向けての詩の捉え方と作り方――六歳から七歳まで
  1 「創造性の黄金期」の次期への移行期間の詩として
  2 教育は知的な教育ばかりではない
  3 子どもの(魂)に沿った詩を創る

    ■詩のつくりかたのポイント
     3 なぜ比喩を使って詩を書くのか

四 中・高学年生に向けての詩の捉え方と作り方
  1 中・高学年生とはどんな時期か
  2 「リアリズム詩時代」の性質
  3 どんな詩を作り、読ませればいいか

    ■詩のつくりかたのポイント
     4 リズムとヒビキについて

五 中学生に向けての詩の捉え方と作り方
  1 年齢段階期の定めかたについて
  2 ヴィゴツキーの「成熟とかあたためる時期」説についての補説
  3 ある一つのモデルとして
 
    ■詩のつくりかたのポイント
     5 子どものいのちに迫る言葉で書く



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が、目次です。

 目次を見ているだけで内容が想像できて、わくわくしませんか?
 明日から詳しく読んでいきます。

    
 
  

  









  

これから読む本

2014-04-28 | 詩について
 少し間が空きました。これからどんなことを書いていこうか、と考えていたら、ずるずると日がたってしまった。一周間を一区切りとして、休みとか挟んで、書くペースでやろうかと思っています。

 それで、これから読む本なのですが……「子どもに向けての詩のつくりかた入門」という本を図書館から借りてきたので、これを読みます。詩を書くヒントが書かれてある、と思います。


 なんでそんな低学年に向けに書かれた本を読むんだ、という批判もあると思いますが、この本は、「子どもに詩の書き方を教える先生に向けて書かれた」本なんです。どう書けば詩になるか、ということが内容になっています。それで、おもしろいと思ったのです。
 ぼくらが詩を書きたいとおもった時に、昔、先生から習った「こうなんだよ」ということを思い出さないでしょうか?
 そこから始まったんじゃないでしょうか。詩を書くことがおもしろいと思ったにしろ、難しいと思ったにしろ。だから最初を見なおしてみよう、と思ったんです。


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 詩の世界には───児童詩というジャンルがあります。


 この検索でのサイト「作文児童詩教育」は、この本とかぶるかも知れません。
 読むと、先生たちの、教える苦労がわかります。

 わかりやすいし、共感できます。

 それに検索で出てくる様々なサイトの「子どもたちの詩
 じつにいい。
 素直だし、大人とは違った視点で。いいなあ。
 こころが洗われます。




今朝、思ったこと

2014-04-23 | 詩について
 お早うございます。
 じつは、昨日までの文章は、前もって予約配信していたものです。それで、風邪で寝ていた時も、めまいで横になっていた時も、配信することができていました。
「本を読んで」書いてあることを学んでいくという形でやると、配信する記事を準備しておく、ということが出来ます。
 それで、これからどうしていくか、考えています。方針を。

 同じように、本を読むことで学んだことを、載せる形でやっていくか───
 その時々に思ったことをテーマにして、エッセイ的にやっていくか───

 ふたつ道がありますが、根底は───「どうすれば(うまい)詩が書けるのか」という疑問を解き明かすことです。
 まあ、詩を書きたいなあ、というところで、ぐだぐだしているのがぼくなので……一向に歩き出さないわけですが、なんか、定義とか準備とか道具とか整えないと、踏み出せない、というのは、性格的なものなのでしょうか。計画したり、夢想したりしているのが好きなのか……

 でも、詩を書きます。
 人生も残り少ないので、自分なりの詩を。「これが書けてよかった。もう思い残すことはない」という詩を。

 しばらくは、本を読む形でやっていくのが、無難な気がします。学ぶ段階です、ぼくは。明日までに、どの本を読むか、考えます。

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 4月4日に「杉山平一さんがいわれた【詩は非日常なもの】という指摘は、とても重要に思う、と書きました。

───普通に一般に生活している人にとって、日常の悲しみとか苦痛とか、やるせなさとかが……詩を書く動機になるだろう。それを乗り越えるために、気持ちを吐き出させるために、心を落ち着つかせるために……詩が、必要になるだろう───と書きました。
 今朝、ラジオ体操をしているときに……
 そうなんだよな、毎日の暮らしの中で、口に出して言えないこと、腹の立つこと、怒りや屈辱や、悔しさなど、いろいろあるだろう、それなんだよな、その鬱屈した気持を開放したくって書くんだ、と思いました。
 口に出せないことの代わりに詩を書く。

 詩のなかではなんでもできます。自分の世界です。自分の世界を作れる。自分が登場人物の視点になって、他人を批判することもできるし、世界を作り変えることも出来る。
 その自由さ。
 開放感のために、詩を作るんだ、と思ったのです。
 自分の希みや願いを描くことが出来る、と。
 それは快感なんです。


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 自分のペースで、のんびり、寄り道しながら、詩を学んでいきます。また、明日。














 



「現代詩入門」のまとめ

2014-04-22 | 詩について
 杉山平一さんの詩学について山田兼士さんが書かれた文章です。

「モンタージュの詩学 杉山平一の映像論より」「現代詩手帖」2012年9月号

 すごく克明に分析されておられます。

……………     ……………     ……………     ……………


杉山平一さんの「現代詩入門」を読んできました。自分なりにまとめてみようと思いました。



【詩とはなにか】
  1 詩とは、非日常気分になったり、現実や常識から離れた気持にさせるもの。
  2 常識を覆す言葉の使い方をする。メタファーなど。
  3 新しい発見、新しい見方、意外な意見。


【詩が表現するもの】
  1 見逃される小さきものへの視線
  2 限りなきもの
  3 異端・怪奇



【技巧】
  1 テーマを具体的な動作や物にいい替える
  2 対比する
  3 「詩はモンタージュ」
    言葉(対比・比喩)による流れ。シーンのカット

  4 誇張せよ
  5 リズム
  6 感覚による物への没入体験
  7 詩は謎かけ
  8 ユーモア
  9 スローモーションやハイスピード
    日常(動作・見えるもの)を分解、分析、解体する

  10 夢はそのまま詩





 なんか詩を書く勇気というか、気持が湧いてきました。おおげさに考えなくてもいい。自分の楽しみで書いてもいいのです。構えないで普通の気持で、少し違う世界に行けたらいいのです。そう思わせてくれた本でした。


















杉山平一『現代詩入門』を読む──「詩の在り場所」の章

2014-04-21 | 詩について
【詩は異端である】


P272
「詩は、日常を離れるものとして夢を描くが、夢のように楽しい、夢のように美しい、という詩にすぐれたものがあまりない」と杉山さんは書きます。

 そして、天国と地獄、極楽と地獄……どちらが人間に親しいか、と問いを投げかけて、地獄の呪われた存在こそが人間の本質でないか、といわれるのです。



 吉岡実「僧侶」


   

 四人の僧侶
 庭園をそぞろ歩き
 ときに黒い布を巻きあげる
 棒の形

      ──(略)──


 詩はまだまだ続くのですが……杉山さんはこういいます。
P279
「異端の奇怪を、言葉を結ぶ視点にまで及ばせて、この世ならぬ世界をつくり上げている。ふしぎな、ぞくぞくするような毒の魅力に充ちている。
 フランスの文芸批評家サント・ブーフが『毒は薄めねばならぬ、批評文とは薄めた毒だ』といったそうだが、詩はエキスである意味で、薄めれば役に立つかもしれない毒でなければならない。
 味も素気もないことや味も素気もないものの反対の極点に詩は成り立つ。毒に近い味があり、つねに危険である」

P280
「危険だから冒険は人を惹く。危険だから人は命をかけてエベレストに登る。平和な日常から、危険へ出てゆくことを夢みる人のこころが詩をつくる」


 茨木のり子「詩集と刺繍」を紹介されて──
P282
「この天下に隠れもなき無用の長物という、詩人の誇りが、すばらしい」という。


生命の原理は新陳代謝であるが、その証しである言葉も新陳代謝によって生きてゆく、詩は絶えずその言葉が腐らないように血をふき込み、甦らせるのである。詩が失われたときおそらく世界は硬直化し死滅するだろう




……………     ……………     ……………     ……………


 これで「詩の在り場所」の章は終わりです。杉山平一さんの「現代詩入門」を読み終えました。


 詩というものの核心がわかった気がします。
 次回からも、読んでいる本の要約や感想を書いていきたいと思っています。
 











杉山平一『現代詩入門』を読む──「詩の在り場所」の章

2014-04-20 | 詩について
【詩は嘘をつく】


 詩を読むとき、作者の体験と思ってしまうことが多い。読者にそのように思わせるように書かれるからです。でも、詩はもともと現実を誇張したものであり、夢や願望を表現したものです。読者に共感してもらうために嘘を並べることもあります。

 P271で、杉山さんがいわれているように──
「詩からあまり事実を掘り出すことは誤ることが多い。詩は、もともと事実からの異化によって成り立っているからである」

 詩にとって大事なのは、作者の体験とか事実ではなく、虚構によってどれだけ現実を異化できたか(批判的視点を持ち得たか)にあると思えます。


 ここでも杉山さんは多くの詩を紹介されています。

P262
「夢や幻想は、本人のこころの真実であったとしても、事実から離れた大法螺である。ホラ男爵の冒険ではないが、ホラは、せせこましい日常や、退屈な平凡に飽きた心を弾ませてくれる」

     大儀      山之口貘

 躓いたら転んでいたいのである
 する話も咽喉の都合で話してゐたいのである
 また、
 久し振りの友人でも短か振りの友人でも誰とでも
 逢えば直ぐに、

        ──(略)──



   ラッシュ・アワー   北川冬彦

 改札口で
 指が 切符と一緒に切られた




P264
「嘘をつくことによって、日常を離脱して詩になっているのだから、ことごとくの詩が、嘘を描いているといっていい」


P266
「坂本遼の知られた詩に『お鶴の死と俺』がある」

 「おとつっあんが死んでから
 十二年たった
 鶴が十二になったんやもん」
 と云うて慰められておったお鶴が
 死んでしもうた

          ──(略)──

P268
「この哀切の詩は、多くの人のこころをうち、坂本遼の名を高からしめた。坂本遼には、兵庫の方言を生かした農村のすぐれた詩が多い。
 ところが、読者は『お鶴の死と俺』の俺は、作者坂本遼自身のことと思ってしまう。作者は、大学出の大新聞社の社員で、神戸へ行くのに牛を売らねばならぬ小作人の子ではない。その違和感を論じた人があったが、これも、作者即ち『俺』と見ることの誤りである」

「妹との別れの水を氷を割って与えるところは、時期を同じくした宮沢賢治の妹の臨終を描く『永訣の朝』に似ている」


 宮沢賢治「永訣の朝」


P270
「高村光太郎の『レモン哀歌』は、これを下敷きにして書かれた、という説もある」


 そんなにもあなたはレモンを待っていた
 かなしく白くあかるい死の床で
 わたしの手からとった一つのレモンを
 あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ

       ──(略)──

P271
「これは、高村光太郎が、ながく精神分裂症で入院していた夫人智恵子の臨終に立合った事実にもとづいた詩で、病院の院長も、このとおりでした、と述べている。ただ、亡くなったのは十月五日の夜で、桜の花は、この季節のものではないから、事実の記録としてつじつまを合わせると、詩の書かれたのは、翌年の春ということになる」




 詩は幻想や願望を描くものなのです。事実と異なるからといって価値が下がるものではない。それで、そういう見方をしないように、杉山さんはこの項を設けたのではないでしょうか。












杉山平一『現代詩入門』を読む──「詩の在り場所」の章

2014-04-19 | 詩について
【詩は幻想、夢の世界である】

 そのまんま、です。
 ここでは幻想的な散文、夢を描いた詩を取り上げておられます。

 イナガキ・タルホ(稲垣足穂)「一千一秒物語」

   黒猫のしっぽを切った話

 ある晩 黒猫をつかまえて鋏でしっぽを切るとパチン! と黄色い煙になってしまった 頭の上でキャッ! という声がした 窓をあけると 尾のないホーキ星が逃げて行くのが見えた



                    (略)




P257
「尾形亀之助の詩の味わいは、夢とも現実ともつかない、微妙なあわいを描きながら、妙に実感がある」

   顔がない

 なでてみたときはたしかに無かった。というようなことが不意にありそうな気がする。
 夜、部屋を出るときなど電燈をパチンと消したときに、瞬間自分に顔の無くなっている感じをうける。

          ──(略)──


P258
「夢はそのまま詩であるから、夢を素材にした詩はすくなくない」

   姫鏡台     山本沖子

  机の上に、私は赤い姫鏡台をおいていた。おとといの夜、私はその姫鏡台が、みどり色の炎をふき出しながら、空をとんでゆく夢を見た。




P258
「小野十三郎の後期の詩には、夢のかたちをとった作品が多いが、夢によって、自在に時間空間を往き来して、思想をいきいきさせる」


 小野十三郎「崖」「拒絶の木」「さしかえ幻燈」









「夢はそのまま詩」という言葉にヒントを得て、詩を書く動機にする方も多いのではないかと思います。













杉山平一『現代詩入門』を読む──「詩の在り場所」の章

2014-04-18 | 詩について
【詩は日常を分解し分析する】


P238
「──現実日常では見ることのできない大スローモーションやハイスピードで物を見るとき、日常見ることのできないヒダや裂け目が見えてくる。
 日常現実は時間に縛られ、これを脱けることはできないが、その非日常へ詩は誘うことができる」

P239
「さきに詩は、言葉の意外な結合、映画モンタージュに似ていると述べたが、分解・分析・解体によって、非日常を垣間見せるのが詩の世界である」

 竹中郁「廃屋」「大掃除の日」

P241
「ジャック・プレヴェールの『夜のパリ』もマッチの棒一本一本で情景と気持を分解した面白い作品である」

 暗闇のなかで擦る三本のマッチ
 一本は、お前の顔をそっくり見るため
 二本目は お前の眼を見るため

       ──(略)──

「私も、情景を分解して浮び上らせたことがある」

    下降    杉山平一

 仲好しと、いま別れたらしい
 娘さんが笑みを頬にのこしたまま
 六階からエレベーターに入ってきた
 四階で頬笑んだ口がしまり

     ──(略)──

P242
「もちろん、つぎのようなものは、音や泣き声や灯で分解していった」

    訪問

 門のボタンを押すと
 ベルが鳴ったらしい
 玄関の電気がついて
 どなたですか、と声がした

     ──(略)──

P243
「このように分解して詩にするのが私は好きで、分解すると詩ができたりした」

P244
「この移りゆきを、会話で試みたこともある」


P246
「分解がリズムを呼ぶのかリズムが分解させるのか、分解は詩と共にある」

    ふと    藤富保男

 ぼくは その時いつも
 ぼ と く になってしまうのである

         ──(略)──


P247
「一方、おおまかに時間の移り行きを分解してつないで行くと、必然的に、あるいはおのずからひとつのストーリーを展開、物語ることにもなる」

 中原中也「冬の日の記憶」

P248
「今次大戦後シベリヤで抑留され、その俘虜収容所での体験を多く詩にした石原吉郎は、映画モンタージュのように分割分解して、忘れ難いその日を語っている」

 石原吉郎「一九五〇年十月十五日」

P250
「私もむかし、帽子を主題にして、私の生い立ちを物語ったことがある」

 杉山平一「帽子」

「怖ろしい伝説を物語るものとしては会田綱雄の作品が知られている」

 会田綱雄「伝説」












杉山平一『現代詩入門』を読む──「詩の在り場所」の章

2014-04-17 | 詩について
【限りなく遠いところに詩はある】

P224
「──『極小は極大に通ず』という言葉を思わせるからである。仏教や哲学で、時間の円環をいったりする。事実、地球の外の無重力の世界へ出ると、上か下という概念すらなくなってしまう」

 三好達治「乳母車」
 カール・ブッセ「山のあなた」
 三井葉子「あいびき」

P228
「限りなく遠く、限りなく広く、限りなく大きく、限りなく危険であるもの、それら日常卑俗を超えたものは詩である」

 丸山薫「海という女」
 犬塚尭「河との婚姻」


P229
「おそろしい、人力を以て及ぶことのできない、超自然の世界が、小さな我々を感動させる。数限りない星の輝く夜空、底知れぬ深い闇、それらは荘厳の詩である」

 三好達治「水光微茫」「月半輪」

P230
「──永遠をはらんだ神秘の世界……」

 ジュール・シュペルビエール「動作」
 竹中郁「断片」
 リルケ「少女愛慕調」

P235
「この見えない世界へ、日常から踏み込んで行く物語を……」

 萩原朔太郎「死なない蛸」


P236
「このかたちなき、見えないものへの、幼きものの呼びかけを……」

    不在    杉山平一

 お隣りは 遠くへ
 引越して行ったのに

 シーンとした空家にむかって
 幼ない女の子がよびかけている

         ──(略)──      


P237
「なにもないゼロはまた、一杯つまっているということである。寂漠、空白、沈黙、空虚はまた、とてつもない充実である」

 三好達治「見る」