EMA【21】
「ああ...忘れたか?芽出度い。音楽プロデューサーのじじい」
「 ...。」
「ダークサイドに行くな。世間は狭いっ。ディノウヴォウが狭いん
じゃなくてそんな輩の集いには誰かがどこかで繋がるの。いずれ
端っこの方でお前んとこと繋がったら怖いな...って」
「怖かねえよ別に。そのスカウトおっさんの名前、教えろ」
玉葱の皮剥きからスライスに入っていたイーギンが包丁を振り翳してラウルの肩に回し抱き寄せるとラウルは喜んで笑う。
「あはは。そいつを避けるように動くためか?それとも遣う?」
「避けるに決まってるだろ」
ラウルは嬉しそうにイーギンに抱きついて耳元で名前を告げた。
ラウルが自分にじゃれつくのを何百年も常としてるイーギンは
厭わない、寧ろイーギンもラウルの頬にキスして脅して戯れる。
相手の嫌がることをして弄るのは楽しいが、されると腹が立つ。
それはラウルもイーギンも双方で。そして、クルーは皆同じに。
「ラウル、厨房行くだろ?これ、あの新人君に持ってってくれ」
「お前は?」
「少し外の空気吸いに行く。や、あの新人君、今日は
朝から何かと俺に当たる。理由は知らねえけどよう」
「まあ、前々からお前にべったりだけどな」
「べったり?」
「ハハ、わからんか。観てるとヤツはお前に付いて回ってる」
「流石にガキだな」
「あれだ、新人同士で仲良くしたいのだ」
ラウルはスライスされた玉葱の山積みになった籠を抱き上げて厨房に入って行った。
イーギンは野菜倉庫から皿洗いシンクの通路を通って裏出入口から外に出て『光明』の何か色々と収納してある倉庫前に来て、馬車用空地の夜の外灯の下、敷石の段に座って煙草を吸った。
暫くしてイーギンが洗い場に戻ると少し外しただけで洗いもの沢山溜まることこの上ナシ。
ケントのようにクリア機を使わず、背後は厨房スタッフがバタバタ動いている空気を感じながら関知せず仕事をしていると、リオン。とニキの声。
こいつ、本当に俺が好きだなあ?
イーギン元々の朴念仁そのまま素直に、何だ?と言った。
「いいよね?先輩たちと仲良く出来る性格で。サボるも自由
けど、洗い場はリオンしかいないんだから、困るよ、滞る」
何か哀しいことでもあったか?それ以上八当り続けたら泣くぞ。
「 ...だったら、お前も上手く立ち回れ」
言って笑ったイーギンにニキは一瞬だが憤怒の顔をした。
仕方ねえよ、済みませんとか言ったらサボれなくなる。
ごめんって。怒んなよ。
やっぱりニキが自分に苛立つ理由を問質して紐解いて機嫌治させた方がいい?と思ったとき、アダが飛ぶように慌て来て、リオン!と小声で叫んだかと思ったら体ごと捕んで野菜倉庫まで連れ去った。
「なっ、何だよっ?!」
息せき切ってアダが、デイジーだ!と言った。
「! ...なっ...何?!」
「今外にいる。お前が復帰したと多分あいつ『ナーガン』の」
「ロイドルか?いや、だからって俺目的だと限らないだろ」
「俺、今、外に出てばったり会って訊かれた。リオンは?って」
なんでまた...もう何ヶ月経ってるんだよ...。
「お前がどう出るかわからないから帰ったかも?見て
来る。そこで待ってろって言って惚けて入って来た」
イーギンは無意識に目がアダから外れて泳いで―瞼を閉じた。
「どうするよ?もう帰ったって言うか?」
「返したらまた来るだろ。会う」
「会うなら叫ぶなよ。お前は冷静に振舞うほど見境無く怒鳴る」
「 ...努めます」
何だよ、結局対峙して決着つけないと手放して貰えないのか。
ガキの恋愛かよ、呼び出しなんて...。
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