【甘露雨響宴】 The idle ultimate weapon

かんろあめひびきわたるうたげ 長編涅槃活劇[100禁]

EMA【76】提案MBA

2009-09-05 | 3-2 EMA



 EMA【76】 


「おお、そうだ、社長、MBAはどうだ?」

イーギンとジュンは驚いて―陽気に笑って言ったレオルドを見た。

「社長はルナに、最後まで自分の口から言わせようとして言わな
 かったが、ルナにMBAを取らせるならセラムも取らせたら?」

イーギンは嬉しそうに噴出し、隣に居た龍香に身を預けて笑う。

「あははっ、あの社員に?」

初めて知ったジュンがレオルドとイーギンの顔を交互に見た。

「どういうことですか?そんな話を知らず、私は、」

「それはルナと『アルメイダ』の件だから営業の俺がする」

「するとは... 」

「ルナのモデル素養や卒大とかではなくMBA取得なら社員として
 採用にした。その話は後日、彼女にする。今夜は社長がルナと
 実際に会ってそれに頷くかどうかだけで。それが決まったよう
 だから俺が『アルメイダ』からルナを貰う営業」

「MBAなんて...ロセッティアでも...それに時間と費用が莫大に」

「取得まで最低でも3年かかるだろうな...だから、期限3年とする
 会社がひとり約1千万イー負担 MBA取らせる社員は成績優秀
 中から更に選抜だが、その枠にルナを特別入れてしまう。しかし
 会社負担ではなく、出世払貸与。コネでも賄賂でもない。他にも
 したいヤツが申出るなら受けてやる。との社長の意向」

「大卒、期限3年、奨学金が条件...?」

「そうだな。誰も彼もと言うわけには行かない。可能性見ても」

イーギンが言って笑い、ジュンは無謀過ぎる話に顔を歪めた。

笑い続けるイーギンの横から龍香が、どうして?と訊いた。

「ね、それって甘やかし?甘やかしていい社員?!」

「甘やかし?甘くは無い。嫌がって断るもある」

「えっ、断られそうなのに提案?」

「本気かどうかを知りたいだけだ」

快活に笑ってただ賑やかしているだけのイーギンとレオルド。

若いジュンにはふたりの意図するところが意味不明で腹を素手で抉られような鈍い感覚が突き刺さってくる。

容姿美麗でロセッティア卒だが単なる女子、ロセッティア卒だが自分の元で再研修となった南店の使えない社員、そのふたりが世界的巨位にある偉大なふたりに可愛がられる事実の単純な嫉妬。

ジュンに辛辣な話―優秀自負する自分すらMBAは難易度高い。

「それは...確定なのですか」

訊いたジュンにレオルドがにこりと笑った。

「何でも起こったことに即、単純に、是非の決定ではなく、そんな
 事象を鍵に何がどう変転か人の誰にもわからない。だから、事実
 推移に対して人の感情で恣意工作をするもなく意欲を出すもなく
 どう転ぶかの顛末を ただ観よう だ」

では、と訊き返そうとしたジュンの言葉を受ける前にレオルドはイーギンに向いた。

「な、社長、本気でセラムにMBAはいいかもしれん。元々優秀、
 経済学部上位卒だから経済学士の勉強なんて得意。本人は広報
 希望だが、ショップやチーム現場での人の顔色声色読まず仕事
 読まずで臨機応変と順応に遅れを取って機転の利かないあの手
 の人間はデスクの方に居てくれて成績を上げるかもだ」

「ハハ、南店の店長も広報もずっと後の話か。まあ適材適所だが
 そこまで自分の柄を自分で見極めない人間が有能採用だしなあ
 そうだな。ルナもセラムもMBA達成したら望みを叶えようか」

「えっ、MBA取得後は直で俺の部下...じゃなくて?ハハ
 それでセラムが広報デザイナーを願ったら叶えるのか?」

「人間はひとつ何かに秀でるなら何でもこなす。もし そうで
 なかったら、ひとつ優秀と思われるそれも見せ掛け虚。今は
 本人も霧の中だが、本当かどうかはMBA達成後に見えるだろ」

「そうか...社長は太いなあ」

「それは、それがセラムの欲しいものを満たす鍵となると?
 だから、その後は満たされて厄介な社員ではなくなると、」

発したジュンに、高い確率でそうなるよ。とレオルドが言った。

「でしたら私もMBAを取得させて頂けませんか?同じ条件で」

予想もしてなかった申出、ジュンの発言に―イーギンとレオルドが驚いてジュンの顔を見た。

レオルドは、流石俺の弟子だっ!と褒め千切ってイーギンに推す。

「だったら、ジュンとセラムとルナと肩並べて仕事後講習!」

勝手に話を進めるレオルドに否のないイーギンはただ笑った。

「セラムが意欲的になるよう、ジュン、お前が説得しないと
 セラムのクビは社長の意の譬、お前に掛かる。で望みは?」

単刀直入に訊かれてジュンは戸惑ったが、イーギンに向いた。

「私の望みは執務室です」

出た―そうか。あはは...よく言い切った。

イーギンはくと笑って、外堀固められて遣られた―と降参した。

横に居たレオルドは満足の顔。

レオルドとジュンは龍香の部屋に泊まればいいのに。とイーギンに言われるも、そんな余り金なんかあるか。と言って帰った。






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