【甘露雨響宴】 The idle ultimate weapon

かんろあめひびきわたるうたげ 長編涅槃活劇[100禁]

KEITH【30】お前を連れて行く

2009-12-03 | 4-0 KEITH




 KEITH【30】 


俺は無意識に丁度届く内線のボタンに手が向いた。

「 ...何をする気だ」

敏いな...。

「俺ではどうしていいかわからない。助けを呼ぶ...レイに、」

「 ...くく」

「何がおかしいっ?!」

「いや別に...その方が俺も助かるかな」

「! ...どういうことだっ?さっさと用事を言えっ!」

「呼ばないのか?」

「お前が俺を尋ねた用事を言えば済む話だ」

「まあ...そうだな。しかし、聴くなら座ったらどうだ?」

くそっ!...誰の部屋だっ。

俺は椅子を引き寄せて―自分のベッドに向かって座った。

最早レイに縋っても無駄だと思えた。

そこで落ち着いて初めて、自分が裸のままだったことに気づいて、一度立ち上がり、パジャマを着てから―座り直した。

俺のベッドの上の彼は今まで横になっていたが、布団を纏ったままに起き上がって胡坐で座り、俺に向いた。

若くてか弱そうな青年に見えるのに首筋から胸や肩に繋がる筋肉は並じゃない。その体も顔の美麗さと同じように磨かれている。そこまで周到...まるでギリシャの戦士の彫刻のようだ。

それはこいつだけじゃなくて他のクルーも同じか。

俺のそんな視線と思考など気にも留めず、彼は相変わらず自分のペースで話した。

「俺は明日ザーイン星ロマリズ地方の農場に行く
 俺が行く というのは お前を連れて行く だが」

「え」

「お前のシゴトだ。しかし、期間が長い。断ってもいい」

「断る?ミ・ロアの俺がそんなこと出来るのか?」

「お前は命に限りがあるからな。厭と言ってもいい。今そのシゴト
 出来る暇なクルーがいない。かと言って絶対ミス犯せないシゴト
 地上の腑抜連中では信用できない。過去のお前のデータから白羽
 の矢...苦痛と言ったらヒマなことに神経要るんだ、それ」

「断ったら?」

「他を捜す」

「当ては?」

「ない」

「なら、絶対命令じゃないのか?」

「そんなもん、絶対と言うのは過去になってから使う言葉だ」

「 ...お前なあ、どうしてそうなんだ?」

「 ...何が?」

「何がじゃないっ!断言命令と相手に余幅持たせて
 言わなくていいこと、まるで逆!じゃないのか?」

「ふうん...纏めた殊勝言葉の使い方が巧いな」

「そんなことに引っかかるな。どうなんだよ?俺の感情こそ
 自由選択でクルー命令には是非もないのがフツウだろうっ」

「だから一応吐露される文句は聞こうかと思って」

くっ...

「じゃあ、断れないってことだ」

「そうなるな」

「なんだ、その余幅はっ、いらないだろが」

「なあ、命令なんて受けた方は文句出てフツウだ。ミ・ロアだろう
 がクルーだろうが感情ある。そういう文句を貯めて偽善した人の
 崩壊は早い。そうだろ?経験あるだろ?感情殺して脳は無味乾燥
 シゴト完璧で人目にいい人ルックス良好、ひとりで頭痛と吐気と
 猜疑心...正常なら当然現象だ」

俺が激昂しそうなのに関わらず、彼は変わらず、余裕の涼しい笑で淡々と返してくる。

それが余計俺の気に障る。

「しかし、どうしても厭だというなら他を当たる
 しばらくは農場暮らし、しかも結婚してもらう」

「! ...結婚って...なら暫くってのは」

「相手も偽装結婚だとわかってる。結婚は体裁のため」

「 ...何のシゴト?」

「シゴトは簡単。羊や山羊が山を越えて来るのを買い取る」

「牧場?」






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