KEITH【19】
ある日、また別のクルーと倉庫に行った。
その日は日曜日ではない平日の昼間。
何を作るのかは相変わらず聴かされないが、明日の料理の下準備のために向かった。
一緒に行ったクルーは初めて会ったヤツで身長190超える巨躯男、線は細いが、切れのキツい眼差しを持つカサブランカのような華印象。具体的にはプラチナ色に光る金髪と翡翠色の瞳のパール。
タチも言葉遣いも上品で丁寧親切、物腰も仕草も品があるので、この男が 不老不死で長生き を信じるとすれば、金満で遊び呆けていた貴族か王族か?を思わせる。
逆に言うと、優雅過ぎて、シゴト出切るのか?と不安だ。
いや、...クルーだから、出切るんだよな?
しかし、横にいたら宮廷音楽の室内管弦楽でも聞こえてきそうな、一気に気の抜けた間延びした空気に包まれる気がしないでもない。
どういう神経で、この容貌と雰囲気を纏いながらこの恐々たる厨房当番をしているのだろう?
この後ここを終わって厨房に戻ったら、こいつを観察してみたいと思う興味を抱かせる。
そんなムードを携えるパールに話し掛けるには軽く行かず、どこから突けばいいものか思案して―下に降りて倉庫の中に足が届いたとき、パールの方から話し掛けられた。
「お前はいつ来た?ここに」
振り返られて微笑まれ、見詰められた。
なんと言うか...男なのにそのムードも相成ってかなり眩しく美しく輝く笑に見えてしまう...何だソレは。
「 ...1ヶ月ほど前」
「ふうん、事情は聴いたが、ここに居ると決めた?」
「同じことを何度も言われるなあ、」
「フフ、だって、今までヒトリだったのにこんな大所帯従属
出来ないだろう?クルーは皆、キースのそれが不思議だよ」
「組織に居たのだから、独り営業やってたわけじゃ」
「そうだが、判断も行動もヒトリだったろ?」
パールはとても柔らかに優しい言葉を甘く織り成すように話す。
それについ惹かれ...なんだ?妖魔のようだ。
「 ...何か関係あるのか?」
「フフ、ヒトリはエゴ強い、そんなヤツはここでは憤慨しか
起こらなくてそのうちストレス溜まって鬱爆発かなあっと」
「 ...そうなるのか?」
「俺が訊いた」
「そんなこと俺がわかるか」
「張り詰めた糸は切れやすい。気にしたよ」
「 ...ありがとう。だが、俺にここを出た方がいいとでも?」
「あはは、いやまさか。ふふ」
パールが花のように笑うので、俺は今思ったことも忘れた。
何だ、こいつ...!
フイに、パールが目の前から消えた。
かと思うと、樽棚が奥に真っ直ぐ8列続く一番奥から、あ―っ!とパールの叫び声が聴こえた。
....今更消えたことは驚かないが、パールでも奇声...は安堵した。
「どうしたんだ?人参に何か?!」
俺は緩んだ顔をなんとか締めながら、奥に行った。
そして、3段目の樽の上に屈んでいるパールを見上げた。
3段目と行っても5mほど上で、けっこう遠い。
「いや、人参はもう上に移動した、大量だからな」
あ...そう...なのか。大量なのに?...いやまあ、いい...。
「序にチョコレートを準備しておけと言われたが」
「ないのか?」
その棚はチョコレートが保管してあるのか?
ここに?...ここの温度程度では溶けないのか。
「ライ麦粉がない」
「 ...。」
突っ込んでいいのだろうか...。
パールのタチが掴めないので何も返せない。
パールは黙って見上げている俺を他所に―樽の中に誰かが居るかのように話し掛けていた。
何だ?独り言か?...あの中に人がいるわけじゃ。
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