EMA【434】
2119年―8月14日
夏真っ盛りの中、サギロン街と同じように不可視シールドで覆われて空調されたキシャン城の中庭。
ナール『リーベ・フロッス』主宰パーティー『フレハーウェグ』。
ラキス増える見込みよりナールのスノビズムとウェディング産業が盛り上がりを見せる程度だが、ラキス窓口として気軽に門叩ける―ゆっくり構えて続けるなら人口8%に達する一役は買う。
いずれにせよ陰鬱支配の崩壊危機は二度と来ない―時あっていい。
魂まで完璧な、誰ひとり置き去りにされることなく人の心潤う世の興る―そこに向かう。
平和続けば、人は戦争や飢えのあった時代の、何故そうだった?の原因すら忘れてしまう。忘れてしまうと同じ繰り返しをするのではないか?と思われがちだが、それは忘れていい。
世に争いも飢えもないなら平和にいるなら自分が身も心も安心
―豊かなら隣の他人に優しい声と絵図を描ける余裕が出るから。
そうではない人も多い―人の願う戦争や飢え、虐待や殺人、強盗や強姦を陰から指示する悪鬼のいなくなった現代なのに、それを遣りたがる人は未だいる。
しかし風が変われば、向日葵が太陽に向けて顔の向きを変えるように人も変わる―世界中の人がいっぺんに。
初回のこの『フレハーウェグ』にギーガは出なかった。
ディーライに言えばイーギン次第と言われ―イーギンに土下座してお願いした内容は、彼女が出るから。
「あの後よく考えた。リュディアとは違う。ディノウヴォウの后は
一度だけだ。一度目の后亡くなったら次の后ではない。紆余曲折
なく純粋に出会った縁の女性を后にと考えていた。彼女に夢中に
なるまま頭が他所に走った。その辺の恋愛沙汰ではない。障害が
あって時間が掛かってそれでも二人の愛は。などやってられない
自分だけの事情ではない、その上、初めにスムーズに進まず は
最後まで円滑ではない」
「最初に...そうか...何か苦労して楽しそうな人だものな」
「そうだ、お前も経験沢山だ?彼女は好きだが后には幻想だ」
「 ...それはわかる」
「で彼女が出るなら俺は遣り難い。彼女がラキス志願では失恋の上
彼女が別の男を捜している中、俺は別の...や、兎角 彼女忘れる
ことに専念したい...本気で」
「また本気で重症か...そこまで言うなんて」
「とんだ計算違いだった、彼女とずっとホ・ナールのユリウス
のまま会える縁にしていたかった...まあ、楔打たれたわけだ」
「天のイカヅチ。あはは。いやスマン...ラキスがひとり増えるのは
恋愛成果ってことで...しかしそれ執着?では『フレハーウェグ』
も最初から躓きか」
「フフ。バカを言え。わかっているぞ?『フレハーウェグ』は王の
ためラキスのためではなくお前の収益のため...ひいては船、地上
だが、実は王の俺は元々問題ではなかった。冠が要っただけ」
「 ...まあ、そうだな」
「だがディーライにちゃんと約束した。2月から出る。后と
出会うまで...真当に出会う后は『フレハーウェグ』に依る」
「そうか!」
「だが、それでも王の姿では出ない...今回もそんな風にしろ。王が
会場の中にどんな姿でいるかわからない。初回から王はきちんと
参加している。のだ」
「成程...あ、では俺は2月までには解放される?」
「つかぬことを訊くな...ぜんぜんかんけいない」
「あれ、船長のお願い了承に俺の喜ぶ餌を持って来たかと」
「そ、れは........今後のマフィア統一次第」
「是非」
そうして開催された『フレハーウェグ』。
華やかに彩られたキシャン城の中庭。
会場にはオットーとジュン、セラムを含む『リーベ・フロッス』の広報数人がカメラを携え、限定されたナールの取材陣が通されて―抽選で参加できた女性がラキスの男性とひと時を過ごす。
その夜、イーギンとエマは『ゾッテ』に来ていた。
今夜はシャンソンショウ―ふたりはステージを見下ろす2階席。
隣席とはビロードとシフォンの二重カーテンで仕切られた個室。
1階テーブル席や2階席に客が賑わっていても ステージの歌 を観ながら静かに会話の出来る空間。
ステージだけがスポットで明るく、食事のフロアは天井に小さいビーム球が星の瞬くように光るだけで薄暗い。
テーブルの灯は燭台に蝋燭3本―仄かな光がときおり揺れる。
壁は淡色の薔薇地模様、燭台装飾以外に装飾が見当たらない簡素印象だが、暗い中に赤く軽く揺れるシフォンと赤い蝋燭が映えて料理に美しい色を添える―空間全てに気持ちいい演出。
テーブルを囲む椅子は弧を描いた長椅子。
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