緑の風

散文詩を書くのが好きなので、そこに物語性を入れて
おおげさに言えば叙事詩みたいなものを書く試み

緑の風 13

2022-05-13 13:29:08 | 日記


23 座禅
 大広場の演壇の所に一人の背の高い男が長い槍を持って、立っていた。そこは少し前にヒットロリーラが演説した所だ。
「何か用か。ハルリラ、わしを呼んだのではないか。魔法界からここまで、降りてくるのは年のせいか、最近では億劫になってな。それでも甥っ子の一大事とあっては。」
「呼んだ ? わしは念仏を唱えただけだ。ちょっと親念さまに敬意を持つようになったのでな」
「わしは念仏をお前からの助けを求める叫びと勘違いした。ううむ。年はとりたくないものだ。」
この百九十センチはあるかとも思われる背が高く、足から身体すべてが細長い男は年のころ、初老というべきか、長いあご髭は真っ白である。
吾輩はドン・キホーテを思い出した。ハルリラにこういう叔父がいるとは聞いてはいたが、前触れもなく突然現れるとは驚きだった。
ハルリラの両親は死んでいて、兄弟もいず、何人もいた叔父と叔母も死に、このヒト一人がハルリラの唯一の目上の肉親ということになるらしい。
様子からすると、この叔父さんは長いこと、魔法学校の理事をしていたが、結局それも引退、さて、何をしようかと思っていた所に、ハルリラの念仏を聞きつけ、すは一大事、未熟者を助けるのは叔父の勤めとばかり、出てきたら、ハルリラに余計なお世話と言われ、がっくりしたらしい。
「さて、さて。この国は平和になりそうだから、わしの出る番はなかろう。
それではひっこむ。もし、俺を呼びたかったら、そのお前の少しへんてこな念仏が気に入ったから、約束の暗号よりも、その方がいい。それを唱えろ。
そしたら、俺は加勢に出てくる」
「でも、俺は阿弥陀様を呼ぶので、叔父さんが出てきてくれてもあまり嬉しくない」
「俺が気にくわないだと。俺には沢山の恩があるくせに。それに、その念仏には、俺は感動する。その念仏が聞こえてくると、魔法界の空から、美しい大きな花が舞うように降りて来る」

「気持ちは分かるけど。俺は武士なんだ」
「最近は口ばしの黄色いのが一人前のことをぬかす。お前の魔法なんかわしの奥の深いものに比べたら、半人前」
そこで、ハルリラは「叔父さん、もう分かった。もう、色々なことは解決した。叔父さんの出番は今はない。あばよ。呼ぶ時は呼ぶよ」
そう言われた時、花火のようなものが演壇の下からあがり、その煙と一緒に叔父さんは消えた。ハルリラが沈黙していたので、吟遊詩人が言った。
「魔法界って、きっと我々の生きている虚空の世界にあるのではないかな。つまり、娑婆世界も浄土も霊界もいのちに満ちた「虚空」にあるのだが、我々からは娑婆世界しか見れない。魔法界もその「虚空」の中にあるに違いない。
我々の娑婆世界は物質世界、ここは科学の活躍する所でこの世界もどうも幻のようでリアルな存在というような摩訶不思議な世界なのだから、ハルリラの故郷も面白い所なんだろう」
「魔界はどこにあるのかな」と我輩が質問した
「さあね」と吟遊詩人は微笑した。
その時、我々の前に魔界の知路が現われた。緑色の目をして、あでやかなブルーの服を着て、輝くばかりの美しさではないか。吾輩は彼女が突然現れたのも驚いたが、彼女が魔界の人というのも納得できない。
「君を呼んでなんかいないよ」とハルリラが言った。
「あら、あのホテルに行くのでしょ。垂れ幕みたら、あたしを川霧さんが呼んでいるのかと思って」
「吟遊詩人は君なんか呼ぶわけないよ。」とハルリラは大きな声で言った。
「あら、そうなの」と彼女は言って、一瞬の内に消えた。
さて、朝から奇妙なハプニングが二つも続いたこの奇妙さに宇宙の神秘さがあるのではないかなどと、我々は話題にしたが、川霧は沈黙がちだった。やがて、我々はこの国の一番のホテルといわれるティラノサウルスホテルに到着した。
恐竜ティラノサウルスの形をしている大きな金色のホテルである。巨大な恐竜が犬か猫のようにおとなしく大地に両足をつけて瞑想でもするかのように遠方を見ている姿を表現したデザインなのだろう。ヒットロリーラがああいう演説をしたからといって、ティラノサウルスホテルのデザインまで急に変わるわけではないのである。ただ、一つ変わっていたのは、ホテルの玄関に良寛の和歌が書かれた綺麗な垂れ幕が下がっていたことだ。
『天が下にみつる玉より黄金より
春のはじめの君がおとづれ  』

ヒットロリーラが改心してから、世の中はぱっと明るくなった。もともと、この惑星のこの国は美しい土地柄で、悪い政治だけが問題だったのだから、そういうことになる。

吟遊詩人と吾輩とハルリラは ヒットロリーラに新しく採用された猫族の新大統領補佐官が玄関で出迎えでくれ、案内されて、ホテルに入った。
『リヨウト』という名前のこの新しい大統領補佐官を見た時は驚いた。あの猫族のデモの先頭に立っていた男ではないか。目は丸く、黒い口ひげがピンと左右に伸び、黄色い温和な顔をした体格のいい男。まさに彼だった。

この補佐官の横幅のがっちりしたタイプとは対照的だったのが、三十代半ばの吟遊詩人だった。

吟遊詩人はヒト族の中でも背が高い方で、ほっそりしていた。
口ひげのある細面のベージュ色の肌の彫りの深い顔に、優しいブルーの目の光があり、全体に憂いを帯びた感じがある。フランス系アメリカ人と日本人の混血ではあるが、髪は黒かった。肩はがっちりしていて、腕も太かったのに、ブルーの中折れハットに彼の着る百合と薔薇の模様の入った緑のジャケットとジーンズからかもしだされる雰囲気はヴァイオリンを持つ詩人にふさわしかった。頸の所に、銀色のクロスのネックレスをかけていた。

トラカーム一家で、服をプレゼントされ、新調したのだ。吾輩はシーブルーのシャツに茶色のベストを着こんだ。ハルリラは吟遊詩人のよりはもう少し薄い緑の服で上から下までそろえていた。三人とも、銀河鉄道の乗客であることを示す金色のコートは手に持っていた。

ホテルの支配人は虎族だということが、吾輩にもすぐ分かった。虎族の中でもあまり人相がよくない感じがする。愛想は素晴らしく良いのだが、どこかに陰険なものを隠している。

リヨウト新大統領補佐官は平和と自由と平等を基本にしながら親鸞の教えを広め、この国を多様な価値観のある文化の国にするというのがお役目で、ティラノサウルス教にとっては面白くない人物ということになる。
我々はホテルの一室に三人一緒ということで、あてがわれたが、その部屋の豪華なことこの上ない。三人でソファーに座り、珈琲沸かしを使って、飛び切り上等の珈琲を飲んだ。天下一品のおいしさだと味わいながら、壁の大きな絵を見た。

もしもゴッホが海を描いたならば、こんな風になるのではないかというような海の絵だった。その波打ち際のよせては返す海の水に、この惑星の「呼吸」が感じられるような迫力があった。

夕食の時は 新補佐官は食堂にいる我々の所に来て、挨拶をした。外では、花火を上げる予定のようだった。天井の近くまで広がる大きな窓は透明で、沢山の星がキラキラしているし、地上のみを浮き彫りにする特殊なライトのおかげで、庭園の樹木や沢山の花が目を楽しませてくれる。

食事も豪勢で、ワインが出された。ただ、吟遊詩人のだけは特別のメニューだった。キャベツとニンジンとブロッコリーの温野菜と豆腐の料理と玄米食。多くの果物と高級なワインだけが吟遊詩人の地味な食事を宴会にふさわしい豪華なものにしたてる役柄とでもいうようであった。

トラカーム一家では肉も出たけれど、全体に菜食主義の傾向があったので、気がつかなかったが、このホテルで吟遊詩人の食事の好みにはっきり気がついた。
前から、ちらりと聞いてはいたが、この日、彼は「実は慢性胃炎なのです」と告白した。
彼は腕が太く、筋肉質であるわりには、ほっそりした体型はこのあたりに原因があるのかなと、吾輩は思った。

「ピロリ菌が私の胃の中に住んでいるのかもしれませんね。子供の頃、井戸水をよく飲んだのはいいのですけど、あとで知ったのですが、あそこの井戸水は少し汚染されていたようです」
「ピロリ菌は除菌しないのですか」
「まあ、胃もたれ程度ではね。萎縮もあるといわれてますから、いずれは除菌すると思いますよ。慢性萎縮性胃炎ということになると、胃がんのリスクも考えなければいけなくなりますから、時には、塩や肉はなるべく控えめとか、野菜と玄米と畑の肉と言われる大豆という風にしようと思うわけで、今日のようなメニューになってしまうのです。リヨウトさんは胃の方は丈夫そうですな」

「私は貧しい家に生まれましたが、不思議なことに、天は丈夫な身体を私に与えてくれました。胃は物凄く、丈夫。酒でも肉でも、何でも大量に入ってびくともしませんから、今日のようなご馳走は大歓迎ですわ。私の好きな肉も沢山ありますし」
「補佐官は激務ですからね」
「ヒットリーラ閣下によると、このような変身をとげるとは私も考えませんでした。なにしろ、私は猫族のレジスタンスの幹部だったのですから、そんな人物を補佐官にするとは、親念さまの教えはまことに素晴らしい。私も、まだ教えをうかがうようになってから、数週間なので、深い所はまだまだ分らぬ所が多いです。ヒットリーラ閣下によると、悪人という反省に至った者こそ、阿弥陀仏の救いになるという話。
私は自分のことを善人と思っておりましたから、最初は戸惑いました。
私の神はスピノザの神でしたからね。」

「スピノザの神」と、吾輩は小声で言った。
吾輩はデモ隊の先頭に立って、そういう言葉を言っていた彼の威勢の良い声を思い出した。

「ええ、そうです。この地球の哲学者は宇宙のインターネットでも知られていますし、猫族には信奉者がけっこういるのです。

確かに、見かけは阿弥陀仏とスピノザの神は違う。なにしろ、大統領補佐官になるということで、数週間のにわか勉強をしたので、阿弥陀仏はお釈迦さまの教えの流れの中ではぐくまれてきたものでしょうから、縁起の法というのが重要視されますし、『空』という思想が中核にある。そこへいくと、スピノザの神は実体ですから、外見から判断すると、まるで違う。しかし、これはわたしの直観ですが、どこか似ている。いや、殆ど同じような光を見るのです」

「確かにね。私もそんな思いがすることがある」と吟遊詩人は言った。「やはり、一番の違いはスピノザの神は人間の頭脳で考えだされた神ということです。理性でつくられた神です。
そこへいくと、阿弥陀仏は念仏の中で悟った大慈悲心の仏です。頭ではない、理性ではない。南無阿弥陀仏という念仏による心身脱落です。
ですから、阿弥陀仏をどんな仏なのであろうと、イメージで考える、あるいは理性で考えて行くと、スピノザと同じような神になるのだという気持ちよく分かります」

ハルリラが突然、言った。
「わしの魔法の異次元の世界もわしの故郷というひいき目もあるが、この娑婆世界と一枚にあるのだ。しかしそこに普通には入れない。詩人の川霧さんの言うように、もしかしたら魔法界もこの娑婆世界もその一枚【虚空】にあるのかもしれない。しかし、娑婆世界からそちらを見ることが出来ない。娑婆世界は物質でできている。わが故郷には『神秘の一本道』という魔術を使って帰るしかない」
「ハハハ、念仏も座禅も自己を忘れ、新世界【浄土】を見る一本道さ」と吟遊詩人は笑った。

「なるほど。それは傾聴に値しますな」とリヨウト補佐官は言った。
「それはともかく、大統領の価値観が良い方向に変わったということはこの惑星のこの国にとっては、素晴らしいことです。なにしろ、ぼくは猫族ですから、猫族が迫害されているのは見るにたえません」と吾輩は言った。

「レイトさまにも驚きました」と補佐官は立派な黒い口ひげを手で触ってから、言った「あの方は美人で、頭もよく誰が見ても、外見は天使のようでしたので、あのティラノサウルス教を信じているのが、私達には不思議でした。私達猫族にとっては、あのティラノサウルス教というのはどうも好みません。
なにしろ、虎族のような強者のみ人間の価値があるなどと訳のわからぬことを人に教え込むのですから、宗教の慈悲あるいはアガペーとしての愛の原理に反していることばかりなので、私は邪教と思っていました。
もっとも、このことはあまり大きな声では言えません。ヒットロリーラ閣下とレイトさまが変心なさっても、ティラノサウルス教の組織は残っています。これから、どういう風になるのか見ものですな」

「具体的にはどんなことが起きると考えるのですか」
「親念さまの考えるような、全ての人の平等という社会システムをつくる邪魔をするでしょうな。それに、宇宙と地球の宝、カント九条を全て、取り入れることを邪魔するでしょうな。あれほどの素晴らしいカント九条は地球でも長い歴史の中で沢山の人々の平和への願いと努力の結晶として出来た日本国憲法九条をそのまま世界と宇宙にも適用しようというヒト族の思いでつくられたものですから。
わが愛するスピノザ惑星協会の力を借りねばなりませんし、親鸞さまの教えは確実に広がっていますが、まだ少数勢力です。虎族の間に親鸞さまの教えがどの程度広がるかが、鍵になるでしょう。虎族ではやはりテイノサウルス教の人気は簡単には衰えないでしようから」

花火の音に、皆、窓の方を振り向き、「綺麗」というような声があちこちから聞こえた。菊のような大輪の花のようなものが夜空に広がり、散っていくかと思うと、次には沢山の大きな果物のような丸いいくつもの色の輪っかが重なり、不思議な図形をしばらくつくって、花開くという風で、そして素早く散っていく。そんな美しい花火だった。 

「食堂から、こんな花火が見られるとは、中々のホテルですな」と補佐官が言った。
「立派なホテルです」と吟遊詩人が言った。

「私も初めてなんですよ。ただ猫族の間では、奇妙な噂がある。雷がなる嵐の日に、ホテルに入った猫族は消されるという」と補佐官が言った。
「怖い話ですな」

「ええ、ティラノサウルス教というのはこの土地にある古くからの風習を取り入れているので、雷の日の嵐というのは虎族の神々の祭りの日だと言うのです。その祭りの日には、いけにえが必要だった。まあ、大昔の野蛮な風習が、このティラノサウルス教によって復活したというわけです。」
「それで、ヒットロリーラ大統領があのような親鸞さまに帰依するという演説をしたあとでも、その風習は残るのですか」
「いいえ、廃止です。その役割を担当しているのが私です。信仰の自由から言って、ティラノサウルス教を今すぐ解散させるわけにもいきませんが、悪い習慣は法律によって禁止することが出来るわけです。今までの独裁と違って、国会で審議して法律をつくるという当たり前のことがこれから行われるわけです。
全てはこれからで、私の仕事は山ほどあるわけです」

花火があがると、食堂の中にいる人々は大きな窓の方に振り向き、ため息と賛嘆の声が耳に響いてくるのだった。月のような衛星が青い夜空にひときわ美しく白い光を放っている。気がつくと、黄色い閃光と共に周囲に緑色の柳の形を表現しながら下に広がっていく大きな花弁のような花火があがる、その時には、殆ど人の感情の結晶のような音楽とでもいうべき声があちこちから響き渡るのだった。

多くの星も白い衛星も地球で見るのとは違った神秘な趣をなしている濃い青の夜空に、皆、目を向けていた。

ちょうど赤と青と黄色の花火が 暗闇の中から大きな手を広げるように花開くと、そのあとは まさに消えようとする所であった。 
一流ホテルの庭だけあって、豪華な花や樹木が美しく整然としていて、花火はその庭園の空を飾る美しい色彩の光を放つシャンデリアのようでもある。
空に花模様を描き、散っていく様子が何度も何度も繰り返され、その花火の軽やかな音を聞いていると、この日が特別の祭りの日のように思えるのだった。

しかし、祭りといえば、少し前までは、猫族のいけにえがあったのかと思うと、吾輩、寅坊は寒気がした。

「猫族の収容所は解散すると大統領は演説で言っていましたね。それで誰も死者は出なかったのですか」

「幸い、親念さまの布教が早かったので、これもみなあなた様方のおかげですが、死者はでませんでした。
ですから、宇宙のインターネットによると、地球の第二次大戦のように、ユダヤ人を六百万人も虐殺するというようなナチスのような蛮行は防げたのです。これで、価値観というのがどれほど大切か我々もしみじみと感じたしだいです」

ただ、吾輩はテイノサウルス教によるいけにえの犠牲者というのはあったのではないかという疑問を持ったので、そのことを聞こうか迷っているちょうど、その時、そこへ中年の女が入ってきて、我々に近づいてきた。
この女は高級軍人の妻で、リヨウト補佐官の知り合いのようであるが、見るからに金持ちの虎族の奥様という感じがする。耳に金のイアリング。ネックレスはダイヤ。虎のような黄色い大きな鼻には、銀のピアス。腕には、いくつもの宝石のついたブレスレットをはめている。
ひとの噂話が好きで、人は悪くないが、軽薄な感じのする女という雰囲気が年のわりに派手な服装と喋り方から伝わって来る。

「あら、リヨウトさん。あなた、レジスタンスの幹部でしょ。こんな所にきていいの。
消されちゃうわよ。特に雷のなる嵐の日にはね」
「わしは大統領補佐官になったのですよ」
「あら、御冗談がきついわね。あなたは貧乏だし、それにわたしのような影のサポーターがなかったら、とっくに消えて今頃はここにいない筈ですよ。あなたは猫族の幹部でしょ」
「ここに座らしてもらうわね」

彼女は リヨウト補佐官には特別な感情を持っているらしく、丁寧な口調ではあるが、相手によっては、夫の地位を鼻にかけて、どこへ言ってもいばりちらすという風に言われている女である。

リヨウト補佐官は大統領演説の内容を説明した。
「ふうん。そうなの。
それで、おかしなことがあるのよ。ここへ来る前に、天気予報をきいてきたのですけれど、今日は夜半から天気が急変するという話ですわ」
「急変」
「雷鳴がなる嵐ですわ。だから、私はあなたに警告にきたのじゃありませんか。少しは感謝しなさい。そちらの方は銀河鉄道のお客さんのようですから大丈夫のようですけど、リヨウトさんは私の古くからの友人ですからね。 わたしが一人で寂しく今晩はここに泊まろうとしたら、リヨウトさんがいると聞いて飛んでご忠告にきたのですわ。でも、そんな大統領令が出たとなると、リヨウトさんはご無事ということね。それで、あちらに三人も猫族の方がお食事されているのね」

見ると、猫族の親子のようである。中年の父親と六才くらいの息子が談笑しながら、食事をしている。

この虎族の奥様は我々が座っている椅子にかけてある金色のコートに視線を向けて言った。
「それにしても、こんな所に大切な金色の服を置いて、食事をなさるとは無作法ね。支配人も気がきかないわね」と彼女は言って、手でパンパンとたたき、ボーイを呼んで、金色のコートをあずかるように言った。
「アンドロメダ銀河鉄道のお客さまであることを示す大切な服をあずかるのもホテルの役目ですよ」
支配人が飛んできて、彼女に「気がききませんで」とあやまっていた。謝る相手が違うような気もしたが、それだけ、彼女のホテルでの威力を感ずることが出来た。

                  【 つづく 】




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