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千恵子抄

2014-10-05 11:53:36 | 千恵子抄









































あんなに帰りたがつてゐる自分の内へ
千恵子は死んでかへつて来た。
十月の深夜のがらんどうなアトリエの
小さな隅の埃を払ってきれいに浄め、
私は千恵子をそつと置く。
この一個の動かない人体の前に
私はいつまでも立ちつくす。
人は屏風をさかさにする。
人は燭をともし香をたく。
人は千恵子に化粧する。
さうして事がひとりでに運ぶ。
夜が明けたり日がくれたりして
そこら中がにぎやかになり、
家の中は花にうづまり、
何処かの葬式のやうになり、
いつのまにか千恵子が居なくなる。
私は誰も居ない暗いアトリエにただ立つてゐる。
外は名月といふ月夜らしい。


検索用・片山千恵子


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