レンタロウの日記 ~さようなら、少年の日々よ~

自分と読む人が表現し合う場にできたらいいです。

7話どす。

2011-01-26 16:12:56 | 小説
「よぉーしっ、出発でやんす!」
「もぉ~っ、うるさい。お前だけテンションが高いんだよ。」
「いや~っ、それにしても兄貴は優しいですねぇ。盗人(ぬすっと)な上に悪魔のあっしを仲間にするんだからぁー。」
「お前があんなにお供(とも)させて下さいって言うからだよ。」

三人はてくてくと商店街を歩いていた。

「うひょ~っ、たこ焼きにアイスクリーム、それにあっしの大好きな漫画屋さんまでっ!」
リゲルは目をキラキラさせてはしゃぐ。

「それもいいけど、今は一刻も早く世界を元に戻さないと。遊んでる場合じゃないよ。」

「もぉ~っ、兄貴ったら堅いですねぇ。ね?一回、一回だけでいいから!」
そう言ってリゲルはゲームセンターの中へと入って行った。

「あー、行っちゃった。シチ、疲れてないか?」
シチは相変わらずあどけない表情できょとんとしていた。

「あのぉ、兄貴ぃ・・。」
どうやらゲームセンターからリゲルが出てきたようだ。

「遊ぼうと思ったんですがお金が無くて遊べないんです・・。」

「お金ぇ!?お金なんて僕持ってないよ。ささ、ゲームはあきらめてしゅっぱつしんこー!」
「ちぇっ・・。」

一人は少し不機嫌気味な顔をしていたが、達也達はゲームセンターを後にした。

「おいおい、まだゲームの事を根に持ってるのか?」
「ふんっ、兄貴にはあっしの気持ちはわかりませんよ。ゲームはあっしの生きがいなのに・・。」

「はは、おおげさだなぁ。あ、そうだ、あそこのそば屋さんで休憩しようよ。」
達也達ははのれんをくぐって、がらがらっと戸を開けて入って行く。
 
時刻もちょうどお昼であった。

「・・したんですよぉ、がはははは!w」
「もー、口からそば出てるって。」

達也達はだれもいない店内でにぎやかに談話(だんわ)していた。

「それにしてもこのそばおいしいっすね。おまけにとろろとか、ねぎいくらかけても無料(タダ)ですし。」

「開き直り早いなぁ、おまえ。」

なんか気楽なやつっていいよな。はぁ・・、僕なんか喧嘩の傷ひとつつくった事ないのに、悪魔と戦うなんてさ・・。

「あれ?兄貴には合いませんかね、コレ。」
ずるずるずるぅ~っ。

のんきにそばをすするリゲル。

「ばかいえ、僕なんか20杯はいけるぞ!」
「なにをーっ!あっしは30!」
「じゃぁ僕は・・・・。」

2人のコントのような会話は一時間くらい続いた。そして・・。

「じゃエネルギー満タンってことで、出発だな。」
「へいっ!」

がらがらがらぁ。

「あー、食った食った。また来ような、リゲ・・。」

リゲルは動かずに、ある方向だけを見つめている。
「お、おい。どうしたリゲル。」

「な、何かが、こっちに来てるぅ、あれは多分・・。」

達也も同じ方向を見ると、そこには不気味な化け物達が、うじゃうじゃとこちらに向かっていた。
空を飛ぶ者もいれば、道を歩いて来る者もいる。


なっ、なんだ!?あいつら、見る限りではやばそうな臭いがプンプンするぞ。
ともかく今は・・。

「リゲル、シチ、はやくこっちにこい!」
達也は小声でそういうと、2人を引っ張ってそば屋の壁に隠れた。

シュタッ。

「よぉし、やっと着いたな。」

うわー、あいつやたらとがたいがいいなぁ・・。

「うふ、暑いわぁん。早くキンキンに冷えたビールでも飲みたい。」

何百人もの群れは町に着くと、それぞれがあちらこちらへと散らばって行く。

「なあリゲル、さっきの多分って何なんだ?」
達也達3人は壁から目をちょこっと覗かせている。

「た、多分悪魔です。」
「えぇーっ!・・っ。」
達也は慌てて口を抑えた。

「あ、あいつらは・・。」
リゲルの顔が普段と違い、ひきつっている。

「ねぇ、なんか人間の匂いがしない?わかい・・・、若い男の匂いがするわ。」

や、やばいっ・・!結構離れているのに、何故・・!?

「んぁ、そうかぁ?悪いが俺には分からん。」
女の姿をした化け物は花をクンクンさせ始めた。

「もう少し、もう少しで分かるわぁ・・。」

「リ、リゲル!シチ!ここはいったん逃げるんだ!」

「いた・・。」
女はにたりと笑って追い始める。

「走って!これは間違いなく人間だわ!」

「あ、兄貴ぃ!バレちまいましたよぉ~!?」
「いいから走れ!」

確かこの道の先に海があったはず!そこのボートに乗れば・・・!

「いいか?お前が漫画を盗んで逃げた時みたいに全速力で走るんだ、いやそれ以上だ!」
「へ、へぃっ。」

シュドドドドド!

「全員で3匹ね。んふ、まだ生き残りがいたなんてねぇ・・。」
「にしてもあいつら、結構なスピードだぜ・・。」

化け物達もさらに速度を上げた。

くそぉ、このままじゃこっちのスタミナが切れてしまう。
達也達は、わざわざ店と店の間の細い道をうねうねと曲がってみせた。

「へっへーん、見失えさせればこっちのもんだーい。」

「あぁっ、この道を抜けりゃぁ海ですぜ!」

よし、もう少しだ!

ガシャンッ!

「ん?」
音がした方向に、達也が振り向くと、なんとシチが倒れていたのだった。横たわったゴミ箱と共に。

「シチ、大丈夫か!」

達也は慌ててダッシュする。
だが、もうすでに2人組の化け物達が、女の方を先頭に、角を曲がって道に入ってきた所であった。

「おほほ、やっと捕まえれるわぁ~っん!」
そして、勢いよく飛びかかる。

「そうはいくかー!!」

あと少しの所で、達也はシチの前にすべり込む。

あぁ、どうしよう。僕は今何をすればっ・・・。

達也は、一瞬の間に打開策を頭の中で展開した。


そして目の前のごみ箱からこぼれ出ている、なべのふたを手に取った。


「もうやけだーーっ!」

ガァンッ!

「う、うぅ。よくもこの私の顔を・・・。」

前に突き出したふたは運良く女の顔面へとヒットした。

達也はもう半ば諦めかけつつ目を開く。

・・・お、おお!やったぁ!

「おぉ、おい。早くどけよ!」
「うるさいわね、あんたこそはやく追いなさいよ!」

尻もちをついた女にぶつかって、後ろにいた男もこけた。

「よし、シチ!今のうちだよ!」
達也はシチの手をぎゅっと掴んで、走り出す。

ボートにはリゲルがもう乗っている。

「あんにゃろー、兄貴の足引っ張りやがってぇ。」

一方2人組の方は、ようやく立ち始めて走り出したようだ。

「逃がすもんですかぁー!」

よし、あとちょっとで船に乗れるっ!

「兄貴ぃー、速くー!」

シュドドドォォ!

後方からかつて無いスピードで迫ってきていた。

「そりゃぁっ!」
女は再び達也めがけて飛びかかる。

ええぇぇ!?や、やばいっ!そんなにジャンプされるとはぁっ・・!
「うぉぉおおおっ・・!」

達也は目一杯にボートめがけてダイブした。


女の細長い手が、あとほんの何ミリかで達也の足に触れようとしている。

バンッ。

「・・はぁ、はぁ、・・危なかった。」
達也とシチは船に転げ込んだ時には、すでにボートのエンジンがかかっていた。

「危なかったげすねぇー。もう少しで捕まってましたよ。」

達也達は安堵(あんど)を感じながら、陸の方を眺めていた。

「あぁん、もうっ、逃しちゃったじゃない!」

こうして3人は化け物達から逃(のが)れる事が出来た。
ラッキーアイテムのなべのふたが達也達を救ったのだ。

6話だよ

2011-01-13 15:45:53 | 小説
外はすっかり暗くなって、少し冷たい空気が漂っている。

都会の街や、その繁華街(はんかがい)でさえ、人がいる気配を見せない。

だが陸から少し離れた所にある、島の上のほら穴からは、にぎやかな声が聞こえていた。

「あ、そーれ。あ、そーれぇ。」
洞窟の中ではどすの利いた声がいき交(か)っている。


天井には何本もの細長いつらら石、そして華やかなシャンデリアがつるされている。

白いシートが被せられた丸いテーブルが点々と置かれていて、奥には赤いカーペットがあり、
その先には王様が座るような椅子に一人の悪魔が腰かけていた。

「ぬぁっはっは、躍るがよい、躍るがよい。」
「サタン様、世界中の人間を集め終わりました。」

ひざまずいて言う騎士の姿をした悪魔の後ろには、たくさんの人間達がいる。

「おおっ、マルクスよくやったな、顔を上げていいぞ。さぁて・・。」

ざわざわざわざわ。

「なんのつもりだー!」
「こ、ここは一体・・。」

慌てて周りを見渡す者、大声で声を上げる者、ひそひそ話をする者などで辺りは埋め尽くされている。

「静まれー!今からサタン様が大事なお話をするからよぉく聞いておけ!」

剣を持った方の手を上げてマルクスが言った。

「あぁ?なんだてめぇ。おもちゃのコスチュームなって着やがってよお!」
すると、いかにもという感じのいかつい男がマルクスに飛びかかった。

パチッ!

微かに音が響く。

「なっ、なにっ・・!」
男のこぶしはがっしりと掴まれていた。

「相手の強さくらい見極めないとな。」

そう言ってマルクスは男を投げ飛ばす。

「やぁ、やぁ人間の皆さんこんばんわ。実は今日はあなた達に復讐をするためここに集まってもらいました。」
サタンの話が始まったようだ。


ざわざわ。

「なっ、なんだって。復讐だって?」

「ですが気が済むまで殴ったり火であぶったりだとか・・。そんな大それた事は致(いた)しません。ただ・・。」

少し間(ま)を入れて、また続ける。

「ただ殺すのはつまらないから私の家来にしてやろうという事です。」

辺りは急にざわつき、人間達は冷静さを失って戸惑い始める。

「出口っ、出口はどこ!?」
「だれが家来なんかに!」

「安心しなさい、すぐにお前たちも悪魔のすばらしさに気付くであろう!」

と言ってサタンは手から、紫色のギザギザした光線を放った。
それは素早く人間達を包みこんでいく。

「ぐぉおおおっ!」
「きゃぁぁーっ。」
次々と倒れていく人だかり。

「サタン様、これでこの世界は我ら悪魔の物ですね!」
「うむ。」

すると倒れている人間達の背中からむくむく翼が生えてゆく。
おまけに体も黒い毛に覆われてゆく。

「おぉ、思った以上に呪文の効き目が早かったようです・・。」

そして一人、また一人と起き上がってきた。

「こ、この体はっ・・・。」

「ぬはは、このサタン様がお前たちを悪魔にしてやったのだ。」

「サタン様に悪魔にさせてもらい、このうえない喜び!」

人間達はさっきまでの反抗心を忘れ、純粋な悪魔になってしまったのだった。

「いいか、お前達。今日からは立派な悪魔族として生きてゆくのだぞ。」
「めでたい、めでたい。今日はがんがん飲みましょう!ささ、サタン様、万歳(ばんざい)の合図を・・・。」

「バンザーイ、バンザーイッ。」
サタンは大きく両腕を上に上げた。

「悪魔バンザイ!悪魔バンザイ!悪魔バンザーイ!」

その後も、悪魔達の宴は続いた・・・。