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管理職のための組合運動

一般に管理職は労働組合員にはなれない。辛い目にあっている管理職の人々のために役立つ労働運動について考えて行きたい。

鉄鋼のいま(その5)転籍拒否はうそ

2008-09-12 20:37:06 | Weblog
まだまだ遠い将来のことではありますが、君たちもやがて満55歳を迎えるときがきます。
また君たちのご両親がそういう年齢に達しています。

企業において、出向社員は殆どのケースで満55歳のときに出向先企業へ転籍する手続きを踏みます。

一般的に鉄鋼会社の社員たちは、「転籍は半ば自動的に行われるものである」という錯覚を持っており、また会社もそういうものであると社員が受け取りかねない言い回しをしているようで、多くの人々が転籍したあとに初めて「合意前提の解雇であった」ことに気づいているようです。

ネットで「転籍」と検索すれば知識はすぐ学べるのですが、一般に鉄鋼会社は会社規模があまりにも大きいので、殆どの従業員は会社人事の薦めることが自分にとって最善の道であると信じて疑うことをしないようです。

「素直」であることは大抵の場合は良い性質ですが、自分の身分処遇を決定したり、賃金や退職金を計算したりする場合に、相手に言われたことを素直に受けるだけで自分の権利を守ることができるかどうか、私は疑問に思っています。

昔はそれでよかったと思いますが、現在は会社の体質が大きく変化してきています。
リストラの美名のもとに、悪質な行為も行われていると私は感じています。

会社はいくつかの選択肢の中で、サンプルを示すだけであって、それ以外の手法があるのかどうかなど、本人が選択肢の幅を広げる道は示しません。
自分の努力以外に頼るものはないのです。

どうか、人の意見を鵜呑みすることなく、自分で考え判断するくせを若いうちからつけておくようにしてください。

さて、ネット検索してみれば、転籍は「合意解雇」であることがすぐわかります。

つまり、鉄鋼会社A社の正社員で、子会社B社に出向中のY氏を、3者合意のもとでA社を解雇して、新たにB社とY氏とで雇用契約を結ぶという行為です。

既に関連会社B社へ出向しているY氏が、そのままB社へ転籍するという場合は、転籍してもA社の社宅にはそのまま年満まで居住しても良いとか、転籍先企業との賃金格差については年満(60歳)までの5年間分は賃金減額を補償するなど、仮にA社を合意解雇されてもY氏の処遇に変化を生じない手当てを用意しているという説明を会社はすることがあります。

出向継続しても、転籍合意しても、それほど差がないのならば、転籍しても良いだろうと、素直に応じる人が圧倒的に多いのが実態です。

「差がない」ことが転籍の同意理由であるのに、「差がない」ことを数字で確認する人は殆どいないでしょう。

転籍後に「差」がなかったことを確認できたという人を私は知りません。
なんとなく、そう信じているだけです。
相手が善意の人の場合はそれでも問題はありませんが、リストラ時代に突入してしまった鉄鋼会社の人事部門に完全な善意を求めるのは無理でしょう。

計算式やそれに使う係数は、企業秘密扱いだと言うことで、本人にも知らせないケースが多いように見受けられます。

さて、転籍は合意の上の「解雇」ですから、A社からY氏へ退職金が支払われます。
それは子供の大学進学費用や住宅ローンを抱えるサラリーマン(満55歳)に取ってはありありがたいものですので、その魅力もあって「転籍は当然なもの」という受け止め方が浸透していっているようです。

ローン返済の重荷から開放されている人であれば、退職金は満60歳の定年で受け取ればいいと先延ばしして考えることもできるでしょう。

でも55歳でもらえる退職金を60歳までもらわないと、目減りしたり、あるいはもらえなくなったりするのではないかと、不安になることもあるでしょう。

転籍に同意しない場合は、Y氏は満60歳までB社への出向を継続することになりますが、満60歳時点で受け取る退職金の額は、Y氏が満55歳時点でのA社における役職・資格を元にした年収を計算基礎として求めるということですので、転籍に同意しようがすまいが、退職金の額に変化はないという理解を私はしています。

各社微妙な違いがあるかと思いますので、賃金や退職金の計算については、個別に質問して聞いたことをその場でメモに残しておくようにしてください。
言った言わないというトラブルになることは間違いないでしょうから、言ったという証を自分の手にしていくべきです。

もし、5年以内に倒産する可能性がある企業であれば、退職金を早めに受け取ってY氏の個人銀行口座に入れておくなり、住宅ローン返済に充てるなりしておくほうが安全でしょう。

M&Aで5年以内に外国企業に買収された場合でも、社員就業規則などは新経営者単独の判断で勝手に変えられるものではありませんので、退職金制度はしばらくは継承されるものと思われます。

一般的にはM&A直後に退職金が消滅するなどということにはならないでしょう。
外資であっても、従業員は重要なステークフォルダー(利害関係者)の一つと考えていますので、会社と労働組合が話合いをしながら、合意を得つつ条件を変更していくことになるでしょう。

M&Aによって最も大きく素早い変化は経営陣の入れ替えに現れます。
恐怖を抱くのは現在の経営者であって、従業員は株主構成が変わったとしても、通常は継続して雇用されます。
従業員の信頼を急速に失うような施策を、株主が容認するはずはないと思っています。

新しい経営者が買収元企業(外資など)から送り込まれてきて、従業員組合と合法的に協議を重ねながら海外の常識を盛り込んだ社員就業規則に変化していくようであれば、退職金計算根拠も変化していくことは考えられますので、M&Aによるリスクが全くないとは言い切れません。

M&Aによって、退職金制度がすぐなくなったり、すぐ変わるものではないという理解です。

退職金は、年満まで働いたからそのご褒美という主旨で考えている人が多いようですが、既に働いた賃金の中から一定のルールに基づいて企業が預かって蓄積しているものですので、その貯蓄した金額は本人の所有するものであるといえます。

但し、懲戒解雇などのペナルティを受けて退職する場合や、自己都合退職する場合などは算定根拠が変わりますので、大きく目減りしたり、或いは支払われないこともあるでしょう。

そういうリスクを抱えている社員であれば、早めに転籍して退職金を自分のものにしておく方がいいかもしれません。

万一、会社が倒産した場合であっても、預けていた退職金の返済を求める権利は本人にありますので、簡単にあきらめることなく取り返す方法について弁護士に相談にいくべきでしょう。

そういう事実を55歳以前にしっかり学んでおけば、転籍に同意しなかったら退職金を減らされるのではないかなどと言う、ありもしない妄想に悩む必要もありません。

「学ぶ」ということは、自分の行動に自信を与えてくれるのです。
「学ばない」ということは、架空の恐れを抱いて自分の判断や行為をひるませることになります。

もしあなたが関連会社B社で働くことに喜びを覚え、鉄鋼会社A社社員という身分を失うことによる損失を我慢できる場合は、本当の「転籍合意」であり何も問題は生じません。

しかし、そういうことに不安を覚えながらも、やむを得ず社会慣例だと思い込み、転籍に同意しようとしているなら、同意する必要はまったくありません。
実際は、不安を感じつつ仕方なく同意している社員が意外に多いことに気付かされます。

Z氏が転籍年齢の満55歳になったときのことです。
Z氏は、周囲の同僚と同じように親会社Aから呼び出しを受けて転籍の内容を説明されるものと思っていましたが、なかなか連絡がないので自分からすすんで親会社Aの人事労政部へ赴きました。

「私は55歳で転籍する意志はありません。」と伝えると、「出向元と出向先と本人の3者合意を前提としての転籍ですので、そのうちの一人でも合意しなければ転籍する必要はありません。」という説明でした。

そのときZ氏は「なぜそういう重要な説明を入社の時点で教えてくれないのか」と不満を持ちましたが、それを知らないからこそ続々と転籍同意する従業員がいるのですから、人事労政上はそのまま放置しておくほうが便利だろうと思います。

教えた時点で社員は転籍不同意を言い出すからです。

「転籍は同意しなくてもいいものだ」と敢えて明文化したり、口頭で指導したりはしていないようです。
だから自分で学ぶ必要があるのです。

先ほども言いましたように、今ではネットで「転籍」と検索すれば簡単に知識が得られる時代になっていますので、会社が教えないことを恨むよりも、自ら進んで学ぶようにしてください。

会社は敢えて教えようとはしません。

より深く転籍問題を理解したい場合は、「転籍 判例」と検索すれば、いろいろな職場で行われてきた人事労働問題に関する裁判判決と解説などが出てきます。
それを読むことで法律的な知識を身につけることができるようになります。

最終的な法的判断というのは弁護士以外にはできないと考えるべきですが、弁護士に相談する以前の軽い問題であるならば、自習で知識を身につけることが可能です。

「出向 判例」の検索も同様に利用できるものです。

そうして転籍に同意しなかったZ氏は、55歳を過ぎても同じ子会社Bに今でも出向を継続しています。
身分は鉄鋼会社Aの社員です。
A社では55歳で役職勇退しますので、○○役というあまり役に立たない資格をいただいているようです。

しかし、先にB社に転籍して行った先輩たちは、Z氏が転籍不同意したことを知りません。当然Z氏も皆と同じように55歳で出向先企業に転籍しているのだろうと信じています。

あるときZ氏が先輩に向かって「私はB社に転籍していませんよ」と話すと、その先輩がこういいました。

「そんな手があったのか!知らなかった。」

つまり先輩は転籍が半ば強制的なものであり、拒否できないものと理解していたのです。

ちなみに「出向拒否」は言葉として正しいですが、「転籍拒否」は誤りです。
出向には場合によって強制を伴うことがありますが、転籍に強制はありえません。

出向命令は先にも書いたように、内容に合理性がある場合は拒否すれば解雇になるリスクを伴いますが、転籍にはそういうペナルティはありません。

3者のうちの誰か一人でも合意しなければ成立しないだけなのです。
このことからZ氏の先輩が「出向」と「転籍(合意解雇)」を混同していたことがわかります。

そういう先輩のみならず、後輩にもそういう知識を知らないケースがとても多いので、鉄鋼会社のみならず日本企業全体が敢えて転籍が合意解雇であることを社員に周知徹底させていないように思われます。

これから鉄鋼会社へ就職を考えている君たちも、若い頃から自ら学ぶ姿勢を是非身に付けておくようにしてください。

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