判決のあと、妻の真菜さんと娘の莉子ちゃんを亡くした松永拓也さんは記者会見を開き「きょうの判決は、私たち遺族が少しでも前を向いて生きていくきっかけとなり得ると思います」と話しました。
おととし4月、東京 池袋で車が暴走し、松永真菜さん(31)と長女の莉子ちゃん(3)が死亡したほか、9人が重軽傷を負った事故では、旧通産省の幹部だった飯塚幸三被告(90)が過失運転致死傷の罪に問われました。
裁判では運転にミスがあったかどうかが争点になり、被告側は「アクセルとブレーキを踏み間違えた記憶は全くない。車両に何らかの異常があった」と無罪を主張していました。
判決で東京地方裁判所の下津健司裁判長は、当時の車の状況や警察の鑑定結果などをもとに「ブレーキとの踏み間違いに気付かないまま、アクセルを最大限踏み続けて加速させ、事故を起こした。車の速度は最終的には時速96キロに達していた。車に異常は認められず、故障をうかがわせる事情も一切ない」と認め、過失は重大だと指摘しました。
そのうえで「松永真菜さんと莉子さんは突如として将来への希望や期待を絶たれ、愛する家族と永遠に別れなければならず、その無念は察するに余りある。遺族の悲しみは非常に深く、喪失感はいまだに全く埋められていない」として、禁錮5年の実刑を言い渡しました。
判決を言い渡したあと裁判長は被告に向かって「あなたの過失は明白だと判断しました。納得できるのなら、責任を認め、過失を認め、真摯(しんし)に謝ってほしい。それを実践してもらいたい」とことばをかけました。
法廷では妻と幼い娘を亡くした松永拓也さんも言い渡しを聞き、目を閉じて裁判長のことばに耳を傾けていました。
■暴走の状況は
2人が死亡、9人が重軽傷を負った事故の状況について、判決は次のように認定しました。
事故は平成31年4月19日の午後0時20分すぎ、都心の池袋で起きました。
判決によりますと、飯塚被告はレストランに向かって乗用車を運転していて、現場付近の交差点を左折しようとした際、ブレーキと間違えてアクセルを踏み込み、踏み間違いに気がつかないままアクセルを踏み続けたということです。
その後、前を走る車とぶつからないよう車線変更を繰り返しながら加速し続け、縁石に衝突してもそのまま走り続けて赤信号の交差点に進入し、男性が乗っていた自転車に衝突したとしています。
さらに、アクセルを最大限踏み続けて、横断歩道を渡っていた松永真菜さんと莉子ちゃんが乗った自転車を跳ねたと指摘しました。
衝突する直前の被告の車の速度は時速96キロに達していたということです。
そのあとも車は直進し、ごみ収集車に衝突すると、その弾みで横断歩道を歩いていた自転車や歩行者を次々とはねて、最終的に貨物自動車にぶつかって停車しました。
被告が最初にブレーキとアクセルを踏み間違えてからおよそ10秒間のできごとで、判決は「めまぐるしく展開する想定外の事態にあわてたとしても、踏み間違いに気づかず加速を続けた過失は重い」と指摘しました。
■事故から2年5か月 遺族の思い
自宅はいまも家族3人で暮らしていた当時のままです。3歳の莉子ちゃんが大好きだったおままごとセットや、紙いっぱいに描かれた3人の似顔絵などが残されています。
妻と幼い娘を失ったことによる葛藤は消えることがないという松永さん。
「この手で触れられたら、抱きしめられたら、愛してるってこの口で直接言えたら、それだけ言えたらどれだけいいだろうかと思う自分もいれば、過去に縛られていたら2人は逆に心配してしまうのではないかと思う自分もいて、そのせめぎ合いです。僕の人生は、これとずっと付き合っていくと思います」と胸の内を明かします。
そして、裁判ではおよそ1年にわたって審理に参加。
意見陳述では涙を流しながら書いたという文章を読み上げ「仕事から帰ると必ず莉子が玄関で待っていてくれて『おかえりなさい』とお辞儀をしてくれるのがかわいくて、うれしくて幸せでした。真菜と莉子の命は戻りません。私たち遺族が前を向いて生きていくためにも、裁判所には重い判決を下していただきたい」と訴えました。
先月27日、松永さんは自身の誕生日の翌日にブログを更新しました。
「家族を愛すること」と題した記事には、4年前の松永さんの誕生日に真菜さんと莉子ちゃんから贈られた動画を掲載。
「生きていた時の写真や動画を見て、多くの人に交通事故の現実を感じて欲しい。そして巡り巡って事故がひとつでも防げたなら、自分が命尽きた時に胸を張って2人に会える気がしてしまうのです」とつづりました。
■「判決は前を向いて生きていくきっかけに」
判決のあと、松永さんは記者会見を開きました。
松永さんは「2人の命が戻ってくれたらとむなしさも感じますが、きょうの判決は、私たち遺族が少しでも前を向いて生きていくきっかけとなり得ると思います。裁判長が遺族の苦悩や悲痛に寄り添うことばをかけてくれて、やれることをやってよかったと思いました」と話しました。
そのうえで「被告には、判決という客観的な形で事実が認められたことを受け止め、もう一度自分自身に問いかけてほしいです。被告が控訴するかどうか、この先どうなるかはわかりませんが、これからも2人の命をむだにしないために、裁判も、交通事故の撲滅に向けた取り組みも、私にできることはすべてやっていきたい」と話しました。
また、真菜さんの父親の上原義教さん(64)は「被告には心からの謝罪をしてほしい。人は間違いがある、この判決で自分が間違っていたという思いになってほしい。私たちの心を惨めにし苦しめる、控訴だけはしてほしくないと思います」と話していました。
■高齢の被告の今後は
過失運転致死傷罪の刑の重さは、7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金と定められていて、検察の求刑は上限にあたる禁錮7年でした。
禁錮の場合も刑が確定すれば刑務所に入りますが、懲役とは異なり、定められた刑務作業を行う必要はありません。
法律では禁錮より懲役のほうが重い位置づけで、飲酒運転や意図的にスピードを出して事故を起こしたなどの事実がない場合は、禁錮が相当とされています。
判決は、事故の原因がアクセルとブレーキを踏み間違えた過失によるものと判断したうえで「被告の過失は悪質だが、酒気帯び運転などの悪質な運転行為に伴うものではない」として、禁錮5年がふさわしいと結論づけました。
飯塚被告は刑が確定すれば刑務所に入ることになりますが、刑事訴訟法では、健康に著しい影響がある場合や70歳以上などの理由がある場合には、検察官の判断で刑の執行を停止できるとされています。
■高齢ドライバーの問題 今も課題が
この事故は高齢ドライバーの問題が改めて注目されるきっかけとなりました。
高齢ドライバーをめぐっては、事故防止を目的に平成10年に運転免許の自主返納制度が始まりましたが、警察庁によりますと、事故が起きたおととし、自主的に免許を返納した人は、高齢者を中心に全国で60万1022人と、前の年より40%余り増えて過去最多となりました。
去年も、それに続いて55万2381人に上っていて、このうちの半数余りが75歳以上です。
背景には、池袋の事故などを受けてドライバーが運転に不安を感じたり、家族などが返納を勧めたりするケースが増えたことがあるとみられています。
また、去年6月には高齢ドライバーの事故防止に向け道路交通法が改正されました。
一定の違反歴がある75歳以上のドライバーが免許を更新する際に、実際に車を運転する技能検査が義務づけられるほか、自動ブレーキなどの安全機能を備えた「サポートカー」に運転を限定する新たな免許が設けられることになり、いずれも来年6月までに導入される予定です。
一方で、75歳以上のドライバーによる死亡事故は毎年およそ400件起きています。
去年は333件と前の年に比べておよそ20%減少しましたが、背景にはコロナ禍による外出自粛などもあるとみられ、警察庁はこの10年余り、大きな傾向は変わっていないとしています。
新たに導入される技能検査などの対策や、安全機能を高めた車の開発、さらに高齢者が免許を返納しやすいよう、車を運転しなくても買い物や通院などができる環境整備などが、引き続き課題になっています。
■「判決が今後の事故防止に役立てば」慰霊碑訪れた人
事故があった東京 池袋の交差点付近は、2日も多くの人や車が行き交っていました。
現場近くの公園に設けられた慰霊碑のもとには、判決が言い渡された午後2時ごろ、近くに住む人などが訪れ、花束を手向けたり手を合わせたりしていました。
判決に合わせて訪れたという、近くに住む50代の男性は「ここを通るたびに、この事故のような悲しい出来事を繰り返してほしくないと感じます。風化させてはいけないし、二度と事故が起きないようにしなければいけないと思います」と話していました。
また、通るたびに手を合わせているという76歳の男性は「このような事故はなくさないといけない。きょうの判決が今後の事故防止に役立てばいいと思います」と話していました。
これ「池袋暴走母子死亡事故 90歳被告に禁錮5年の実刑判決 東京地裁」と題した2021年9月2日 19時12分のNHKのニュースである。
2019年に東京・池袋で母子2人が死亡するなどした乗用車の暴走事故で、90歳の被告に言い渡されたのは「禁錮5年の実刑判決」だった。無罪を主張した被告への批判が法廷内外で続いたなか、専門家は量刑の妥当性をどうみたのか。
2日の東京地裁判決は、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院元院長・飯塚幸三被告(90)に対し、「アクセルとブレーキを踏み間違えた。過失は重大だ」と認定。法定刑の上限にあたる禁錮7年という検察側の求刑もふまえ、禁錮5年とした。
■元検事「社会の関心で求刑も重く」 判決に影響か
元横浜地検交通部長で交通事故に詳しい鈴木敏彦弁護士は、今回の判決を同じ罪の事故と比べて「やや重い」と受け止めた。
鈴木弁護士によると、検察は一般的に、飲酒運転や信号無視など悪質性が高ければ懲役刑、それ以外の過失は禁錮刑を選び、「結果の重さ」と「過失の大きさ」をふまえて刑期を決めて求刑する。「社会の関心が高い事件では求刑が重くなることもある」という。
そのうえで鈴木弁護士は、飯塚被告への判決は検察による重い求刑が主に影響したとみている。過失運転致死傷罪の法定刑の上限(7年)は、電車や航空機の事故で適用される業務上過失致死傷罪の法定刑の上限(5年)よりも重い。今回の判決が「車以外の事故と比べても重い」と語る鈴木弁護士は、「プロの運転者よりも一般の人の過失が厳しく罰せられ、整合性がとれていない」と法定刑の違いを問題視する。
事故で妻子を亡くした松永拓也さん(35)は会見で「被告に罪と命に向き合ってほしかった」と訴え、飯塚被告が「車の異常」と主張して過失を認めなかったことを非難した。
無罪主張を繰り返した被告の姿勢は、判決で不利に働いたのか。
こっちは『「禁錮5年の実刑」重いか軽いか 池袋暴走事故、判決を専門家が分析』と題した朝日デジタル2021年9月16日 15時58分の配信記事である。
日本の法律の良さも悪さも加害者にも人権を考える事にある。
確かに法は公正にと言う事の証と見る事が出来るが、今回の量刑には私的には不服である。なにか公務員が裁く上級公務員への忖度が感じられるからである。
朝日の記事には量刑が重いとの記事であるが、この事故を交通法で見るからである。私的に例えれば民法でと考えてほしかった、何故ならこの加害者は事故の要因を自らの不注意を認めず、自動車の欠陥に転嫁したからである。これは意識的な捏造に近いからである。それとこの加害者考え方が上級公務員にありがちな上から目線そのものである。そして今もって自らの過失を認めていないと見えるからである。二人も殺しててである。こんな人間に禁錮刑は軽すぎる! もう一つ不満なのは、隣に乗っていた加害者の妻の存在である。普通の妻は自らの夫の過失を認めさせ、妻として夫の行動を戒め諭させるべきをしないばかりか、やはり上級公務員の妻と見え、似たもの夫婦の典型と言える。本当に一国民として不満であり、この裁判長の名が知りたい!
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