現在、国内外で多くの治療薬候補が臨床試験を受けています。総額で数千億円以上の費用が投じられているはずです。研究開発に用いた資金を出来るだけ早く回収したいのでしょう。臨床試験の結果は結論が出るまで公表されませんから、今後どのような展開になるかについては正確に予測することは不可能です。製薬企業にとっても死活問題であり、臨床試験の失敗が報告されて株価が10分の1に下がったケースもあります。
あくまで私の個人的な予測ですが、劇的に効果のあるアルツハイマー病治療薬が見出だされることは当面ないように思います。病態が神経変性まで進んだ状態では、Aβ蓄積を抑制するだけで認知症が回復するとは考えにくいのではないでしょうか。軽度認知障害の段階で神経変性ははじまっているのです。Aβが蓄積しはじめて30年以上が経っていることを思い出してください。30年を簡単にリセットできるはずがありません。したがって、現時点では、臨床試験の結果に過剰な期待は抱かず、次節で述べる未解決課題に進むべきだと私は思います。