こうした「補助金方式」のたんなるばらまき政策は、適正に運用されるかどうかも怪しい。これまでにもNPO法人POSSE（ポッセ）には雇用調整助成金を受給しながら、実際には休業させていないといった類の相談は多数寄せられている。雇用調整助成金とは、日本の雇用政策の中軸を担う「内部労働市場政策」である。
雇用調整助成金とは、不況時に企業が労働者を休業させる場合、その休業手当の半分から3分の2を国家が助成するというものである。これは失業者への手当など再就職の斡旋ではなく、現在の正社員の解雇を回避するための補助金を企業へ行なうという点に特徴がある。
ところが、この間NPO法人POSSE（ポッセ）にはこの雇用調整助成金の不正受給に関係する労働相談が後を絶たないのだ。企業が休業に対する手当を国家に支給している一方で、実は休業はさせておらず、タイムカードに虚偽の記載をしつつ就労させるといった事例である。こうした不正受給については実際に監督し、防ぐ手立てが用意されていない。トライアル雇用については就労の際に学ぶ事柄についての報告義務があるが、これも適切な履行は監督されていないのである。
今回の「インターンシップ」においても企業が手当を需給しながら、「職場体験」にはならないとか、雑用ばかりをやらせるといった不正な利用に歯止めをかけることは難しいだろう。すでに述べたような、職務資格制度などより厳格に公的な訓練の一環に位置づけることができなければ、効果は期待できない。一言で言えば、政策効果について責任を持たなければならないのに、この部分はおざなりなのである。ただ「やりました」という実績が掛け声のように響くだけだ。内閣のパフォーマンスのために税金が湯水のように投入されてよいものだろうか。
・実際に与える「効果」はスティグマの付与と「解雇解禁」
さらにいえば、こうした政策は二つの本来予定されていない負の効果をもたらすだろう。
第一に、トライアルに失敗した若者に「宿命論」的な絶望を与えるということだ。就職に失敗したというだけではなく、トライアルしても不合格。補助金でインターンシップを受けてみたが、不合格。これでは問題は前に進まない。
本当の問題は、こうしたトライアルやインターンシップ後の不合格に対して適切に理由が開示されたり、今後の就労に向けて必要な事柄が指導されたりするわけではないということなのだ。ただ「お前はだめだ」という烙印だけが押される結果となり、本人は就労意欲をそがれてしまうかもしれない。だからこそ、大きなレベルでの職務評価の枠組みと連動させなければ意味が無いし、また政策目的の履行についても監督が必要になるのである。
また、トライアルやインターンといった雇用が新卒相手に普及してくることによって、使用者の雇用に対するモラルも一段と低下してくるものと思われる。サブプライム危機で「雇用整理やむなし」という掛け声の最中、実は経営がまだ健全な企業もこぞって「将来」に備えた先行的整理解雇を行なっていたといわれている。つまり、社会的な言説や政策は雇用のモラルに大きな影響を与える。
しかるに、日本における「新卒」の位置は非常に高い位置にあった。長期雇用が前提とされる中、一度採用したらそうそうひどい扱いをしてはならないというモラルである。しかし、この間の労働相談ではまさに「新卒切り」が横行している。大量採用・大量解雇による選別や、超長時間残業による使い捨て。こうした相談が日々鳴り止まない。
これまでのように「就職したら大丈夫」といえるほど、企業は新卒を大切に思っていない。新卒はすでに市場に溢れ、「社会的な価値」が低いものとなった。悪質な企業にとってはいくらでも替えがきく部品くらいにしか思われていない。そこに競って就職活動をしに行く様はとても残酷な光景である。
新卒インターンシップは、人余りの中で「おまえを雇ってやっているんだ」という企業の意識をいやがうえにも高めることになるだろう。ますます新卒の価値は低下し、企業のモラルも低下する。そうなると、これまで長期雇用を前提に技能育成を図ることでイノベーションを実現してきた日本企業・日本社会の力はさらに底割れしていくことになってしまう。
こうした「政策効果」まで踏まえて今回の対策が採られているとは思えない。
人余り時代で必要なことは、いかに雇用に「ルール」を作り産業と能力育成の方向へ導いていくかである。人が余れば、安売りで利益を上げようという機運は必然的に市場に生まれる。だからこそ、イノベーションと人材育成によって利益が上がる仕組みに官は誘導していく責任があるのではないだろうか。
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「新卒インターンシップ助成」は有効か？ ①二つの前提の欠如
は、こちらよりご覧になれます。
「新卒インターンシップ助成」は有効か？ ②「新しい公共」＝民営化の危険
は、こちらよりご覧になれます。
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