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サカタ類の酒場放浪記

2012-02-11 | 日記
「吉田類の酒場放浪記」という番組がありますね。そこで(どこで?)「サカタ類の酒場放浪記」と題して、今回もヨタ話をお届けします。酒場、酒場で思い出すのは……ある海辺の盛り場でぶらりと立ち寄った、立派な構えのお寿司屋さん。どこか居酒屋のように気楽に入れる雰囲気があったので、「よしよし地魚をつまみに土地のお酒でのどを湿らせて、最後はにぎりを……」と妄想をふくらませカウンターに座ったら、奥から「いらっしゃい! ちょっとだけ待ってくださいね」と威勢よく出てきたのは、マクドナルドのTシャツを着た長髪のお兄さん。まったく気取らないところが素敵。だけど、どうしても赤と黄色のMのロゴが気になって、うまく酔えませんでした。いいネタをそろえているし、おいしい地酒も出してくれるのに、まだまだ自分が未熟でした。東日本大震災のとき被災している可能性が高いエリアなので、その後お兄さんがどうしているか気がかりです。

もっとも、マクドナルドのお兄さんが握るふしぎな寿司を口にしたのは、いまから20年ほど昔のこと。ちょうど同じころ、中央線の沿線にある居酒屋で、めずらしいお酒が冷蔵庫にあるのを目ざとく見つけて「それください」とお願いしたら、バイトのかわいいお姉さんが愛想よく「こちらでよろしいですか?」と冷蔵庫から出してきて、枡に入った冷酒用のグラスに注いでくれます。薄く色づいた液体は、言葉では形容できない枯れた美しさ。薄緑と薄茶と薄黄が混ざったような、見たことのない色合い。「いい色ですね」とお姉さんに話しかけると、「たくさん注いでおきますね~」とグラスから枡にたっぷり盛りこぼしてくれます。いろいろな期待が胸の内に高まるのを押し殺し、グラスに口をつけると、日本酒とは思えない香り高さ。木の香り、魚の香り、区別つかない多様な風味が口いっぱいに広がります。感銘を受けながら飲んでいると、お姉さんが勢いよく翔け寄ってきて「すみません! それお酒じゃなくてダシ汁でした」と、料理の味付けに使うお店のダシ汁を一升瓶で冷やしてたこと、詫びながら話してくれました。いえいえ、いけないのは未熟な自分のほうです。

あれから、ほぼ20年。バイトのお姉さんも、いいお母さんになっている頃でしょうか。中央線の沿線も様変わりして、あの店があるかどうか確かめようにも場所がうまく思い出せません。だいたい、あのへんなんですけどね……。そこから3つぐらい離れた駅の界隈は、思わず放浪したくなる酒場がどこまでも軒を連ねる夢の盛り場です。近くに住んでた頃はよく飲み歩いたけど、先日ひさびさに通りかかったら、どこもかしこも居抜きで違う店に変わってて、生まれて初めてリバースした店も、生まれて初めて意識なくした店も消えてなくなってます。リバースした事実も、意識なくした事実もすっかり消えてなくなったみたいで淋しい。どこにも居場所がなくなって放浪してる設定で酒場をさまよい歩いてみるのも、安上がりな夜の楽しみ方です。そのうち適当な店にひっかかって、すぐ酔っ払っちゃうんですけどね~! いっさい飲まずに酒場放浪するようになったら本物、まだまだ自分など未熟もいいところです。

壁に貼ってある酒場のメニューも、席に置いてある酒場のメニューも同じようなこと書いてあるものながら、どっちかっていうと壁のメニュー眺めて注文するほうが性に合ってます。初めて壁のメニューみて頼んだのは……メンチカツとしか思えません。詳しい経緯は覚えてないものの、中1のとき父親が駅前の小さな酒場につれてってくれて、(いまにして思えば不自然な流れだったから父と母がつまらないケンカでもしてたんじゃないかと思いますが)好きなものを食べていいことになりました。それでメンチを頼んだらキツネ色の大きな丸いのが皿に2コ乗ってきて、うれしかったです。中1だからお酒は飲まず、ごはんをどんぶりで食べて帰ったと思うけど、カウンター数席とテーブルが2つぐらいの小さな店で、いちばん放浪感があったのは人生であの酒場がピークだったかもしれません。テレビばかり見ていて、隣で父が何を食べて何を飲んだか記憶に一切ない。足の届かないスツールでカウンターに座ったことは覚えています。こんなこと書くつもりじゃなかったけど、書いてしまったものは仕方ないから「サカタ類の酒場放浪記」……ぽちっと更新します。