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大人のブログのアーカイブ(抄)

世田谷のタクシー

2011-04-27 | 日記
そんなかたちでニッポンを応援するの、あまり感心しないな・・・というのは東日本大震災後、復興資金を公的に捻出するために交通違反の取り締まりが強化されて、狙い撃ちに遭ってるタクシー業界が戦々恐々としているらしい。世田谷で乗ったタクシーの運転手さんは静岡の出身で、2年前に東京でタクシー乗務を始めた頃は規制緩和でタクシー増えすぎてタイミング最悪・・・といった身の上話は聞き流しても、強引な罰金の徴収の話は聞き捨てならなかったので耳を傾けることにした。

なぜか一般車両じゃなくてタクシーが目の仇にされている、と運転手さんは憤った。左折車線で乗車したお客さんが「まっすぐ!」って言ったら断れないのを熟知していて、曲がり角で違反を切ろうと警察が手ぐすね引いて待っている。世田谷公園はタクシーの休憩場所なのに、警察のタクシーいじめがひどいから休憩場所を変えなくちゃいけない。会社からも、そのへんで休憩すると危ないから面倒でも営業所にいちど戻って休むことが公式に推奨されている。

どんなにひどいかというとですね、トイレにいってる間に駐禁切られちゃうんですよ。時間を計っていてね、タバコ吸う人なんかトイレついでに一服するじゃないですか。それで5分超えると容赦なく切符切られますからね。そこまでしなくてもいいと思うけど、東北の復興のためにお金がいるから、タクシーから強引に罰金を徴収しようとしているんだって会社も考えて警戒してますよ。営業所で休めなんて、普通じゃ言わないことを指示するのは緊急事態だからです。どうしてタクシー会社が東京電力の事故の犠牲にならなくちゃいけないんですか?

「ひとつになってがんばろう」って言われても納得できないですよ。こっちは少しのことで大きなペナルティ課せられて、あっちは大きな事故を起こしておいて年収が何千万とか、トップは何億とかでしょ? 事故を起こした会社の社員がボーナスを世間より多く受け取って、事故を起こしていない私達ばかり罰金を取られなきゃいけない理由が、全然わかりませんよ。・・・あまり道を知らない運転手さんなので、ときどきコースの説明をしながら、目的地に着くまで大体こんなような話を聞いた。

エンゼル街の老婆

2011-04-11 | 日記
エンゼル街を知ってるかい? それは山手線の田町駅前にある、森永製菓の本社ビルお膝元の飲食店街さ。ある日ぼくは森永製菓が経営してる、やる気をあまり感じないベーカリー&カフェで本を読んでいた。桜庭一樹の『GOSICKs Ⅲ』・・・ふと、気がつくと目の前に足の不自由そうな老婆がいる。歩行器で体を支えた状態からテーブルに両手をついて、小刻みに震えながら隣の席に滑り込んだ。「今日はポイント5倍だって!」と、実の息子らしいサングラスの中年が、トレーに菓子パンを3つと、水か何か入った紙コップを乗せて席に運んでくる。「じゃあ、ラーメン食べたら戻ってくるから!」って言い残して、サングラスはどこかへ消えた。



残された老婆は藤色の上着に白いブラウス、辛子色のズボンに黒い靴で、髪の毛は真っ白だけど眉毛は黒くて太い。年齢は70代くらいだろうか? 1人で菓子パンを3つ食べるようには見えないけど、人は見かけによらないもの。放っておいて本の続きを読んでいると、隣で悲鳴が上がった。「アア~~!」どうやら水の入った紙コップをトレーの中で倒してしまったようで、震える両手で頭を抱えて困り果てている。「ごめんなさい、ごめんなさい。すみません、すみません。咄嗟にどうしたらいいかわからなくて、頭が真っ白になっちゃって」・・・あわてなくても、水はトレーの外にこぼれないから大丈夫。幸い、パンも皿に乗ってるから濡れない。「手が痺れるもんですからね、本当はお店になんか出てきちゃいけないんだけど、食べたくて」・・・誰にともなく大声で謝罪するから、気の毒になってくる。



そのとき、やや感動的な出来事は起こった。お婆さんをはさんだ向こう側の席で通販雑誌を読んでいた、グリーンのアイラインが印象的な丸顔の社会人一年生(あとの会話で上京したばかりと判明)が、「大丈夫ですか?」と声をかけたのだ。「すみません、すみません。足も不自由だから自分では何もできなくて、手が痺れるから水こぼしちゃって、息子がラーメン食べたら帰ってくるんですけど」・・・社会人一年生は老婆の話に耳を傾けて、「新しいトレーを持ってきます」と立ち上がり、パンが3つ乗った皿をテーブルに残してトレーを持ち去り、新しいトレーと新しい水を運んできた。「ありがとうございます、ありがとうございます」・・・老婆は仏様を拝むように、グリーンのアイラインが印象的な丸顔に手を合わせて、百万遍も祈祷を繰り返す。



老婆「耳がよく聞こえなくて、目もよく見えないんですけど、口だけはよく回るもんですから、お使い立てしてごめんなさい」グリーン「口が回るってことは頭も回るってことですから、口だけで十分ですよ。うちの祖母も足が不自由で耳が遠くて目もよく見えないけど、口だけは達者です」老婆「あなたのお婆さん、おいくつ?」・・・いつまでもサングラスが戻ってこないから、どんどん話が弾んでいく。満州から九州に引き上げてきたこと。九州の友達に誘われても足が不自由で行けないから、実家の金沢に九州の友達を招いて花見をすること。人生は一念発起、夢は努力すれば叶うから若いあなたは頑張らなくちゃいけないこと。最終的になぜか説教になったのも、グリーンのアイラインは両親が共働きで根っからのお婆ちゃん子みたいだから、お互いに相性ピッタリでよかった、よかった。