「大正・乙女デザイン研究所」のページ

大正期を中心とした「乙女デザイン」の鑑賞と研究を目的としています。

加藤まさをの乙女デザイン展

2014年06月22日 | 加藤まさを

加藤まさをの乙女デザイン展

 加藤まさをは、竹久夢二の後を受け、ポスト・夢二を担った画家だ。大正末から昭和にかけて、まさをの描く抒情画は巷にあふれ、そして、まさをが作詞したロマンチックでエキゾチックな「月の沙漠」の歌も、皆に歌われた。そんなまさをだったが、没後しばらくは、その存在が人びとの記憶から消え去ったかのように、わすれられていた。
 もちろん、ぽつんぽつんと、まさをを偲ぶ出版や小展示はあった。だか、それがどれだけの新しい愛好者をつくりだしただろうか。沈黙の時間が続いた。
 昨年、国書刊行会から『加藤まさをの乙女デザイン』という本が、永山多貴子さんと、当時大学院生だった竹内唯さんによって編まれた。まさをと言えば抒情画ということで、今まではあまり注目を浴びてこなかった最初期に焦点を当てての編集だった。その視点を受け、京都のミュージアム【えき】では、「加藤まさをの乙女デザイン展」が開催された。まさをを巡る状況は、この二つの出来事でがらりと変わる。驚くことに、今まで愛好された抒情画に変わり、最初期の妖精画や、水彩やパステルを使用した深い色彩世界、そして小さく愛らしい子ども画に、若い人たちの注視が始まったのである。
 ハートと薔薇の画家としても認知された。ノスタルジックなリバイバルではない。新しい若い眼によって、まさをがあらためて「発見」されたのだ。
 この数年、美術界には、次の時代を支える若者たちのファイン・アート離れがある。油絵や日本画という大芸術から、「イマジュリィ」と呼ばれる絵葉書や雑誌挿絵などの複製品、つまり小芸術に若者たちの嗜好が移っている。まさをの発見にはこうした時代状況もあった。
 まさをは静岡県の藤枝市で生まれている。京都の展覧会は今、静岡県菊川市の常葉美術館で開催中だ(5月24日から7月6日)。その後に東京展が、吉祥寺市立美術館(8月2日から9月15日)で開かれる。この展示の核となるのは、藤枝市の郷土文学博物館のものである。まさをを愛する人びとによって、長い時間をかけて収蔵されたものだ。その人びとの思いが、今、ようやく次の世代に受け継がれようとしている。これはまことにうれしいことではないか。
(山田俊幸)

これは、静岡新聞の寄稿文を改稿したものです。

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