次回の例会は 2月20日1時開場、1時25分 開演。
演目はベルリオーズ作曲 『劇的物語 ファウストの劫罰 』です。
会場は、東急・東横線「元住吉」駅から徒歩12分の「川崎市国際交流センター」大ホールです。
毎月1回(年12回)の鑑賞ができる年会費6000円の会員を随時募集しています。1回のみの鑑賞は、1200円です。どちらも、当日、会場入り口で受け付けます。お気軽にご来場ください。
以下、当日の解説も担当する音楽評論家、竹内貴久雄さんによる演目紹介です。
§ 「劇場」という空間に入りきれなかったオペラ だった!
ドイツの大文豪ゲーテの叙事詩『ファウスト』のフランス語訳を手に入れたベルリオーズが、その世界にすっかり魅せられて、自身のイメージでそれをさらに膨らませて作曲した作品が『ファウストの劫罰』です。タイトルの前に「劇的物語」と冠せられているというオペラのようでオペラではない不思議な音楽で、原則として、演奏会形式でそれぞれの役をもらった歌手や合唱が、オーケストラと共に舞台で歌う作品です。時折、オペラとして舞台で演技しながらという公演も試みられてきましたが、あまり成功していないようです。というのは、ベルリオーズのイメージが豊か過ぎて、たくさんの場面があふれかえり、現実の舞台に乗せると、どうもうまく行かないのです。想像を絶すると言ってよいほどの「情景」の多様さが、物理的な制約を受け入れにくい内容にしてしまっていたのです。
ベルリオーズ自身が言っているという言葉、「音楽は、劇場の壁の中には広げきれないほど大きな翼を持っているのだ」が、とても象徴的です。ベルリオーズが広げた音楽の巨大な翼は、劇場の舞台には乗り切れず、それは、音楽という空想の世界の中で、自由に羽ばたいていたということです。
§オペラ演出の〈技術的進歩〉が〈不可能〉を乗り越えた?
『ファウストの劫罰』の音楽の多面性を「言葉」で説明するのは、それこそ無意味なことです。統一とか、相似、均衡、あるいは対比、といった整合性とはまったく無縁の音楽です。
では、散漫で場当たり的かというと、そうではないのです。もちろん混乱もありません。音楽のイメージの豊かさが、全体を大きく包んでいる様は、この全四場とエピローグから成り立つ二時間を越える作品を、少なくとも各場ごとには通して聴かなくては伝わってこないものにしています。オーケストラ、大勢の独唱者(登場人物)、混声六部の合唱に、二部の児童合唱まで加わった『ファウストの劫罰』の壮大な音楽は、それこそ「コックテール」のように虹色に輝いて、聴く者を別世界へと誘い、場面も千変万化してゆきます。
じっと目をつぶれば、ファウスト博士の瞑想のように想像の翼は広がり、はるか遠くを通り過ぎていくものの気配さえもが聴こえてくるようです。眼前に迫り来るものと、遠くに見えているものとの多様な距離感を、音楽だけで感じさせるのも、このベルリオーズの音楽の特質なのですが、それを、「劇場」という空間の中で味わいたい、という願いは、作曲当初からあったに違いありません。近年のオペラ演出の技術的進歩には、目覚ましいものがあります。そこで、100年以上も昔にベルリオーズが夢見ていたはずの「オペラとしての『ファウストの劫罰』上演」が試みられるようになったのです。その成果を、ぜひお楽しみに!