背後で私が
何を思っていて、
背後から私が
何をしようと
しているのかなんて…
そんな事は何も知らずに
大家さんは無防備な後ろ姿を晒したまま、奥の部屋へとつづくドアノブに手を掛けた
…いや、真後ろからじゃ、ちょっとよく見えなかったけれど、もしかしたら手を掛けようとした、その一瞬手前だったかもしれない
とにかく、ドアを開けるその直前に突然…
ゴホッ
という咳をする声が部屋の中から、小さくだけど確かにわたしたちふたりの耳に聞こえてきた
もしかしたら
私以外の誰かが家の中にいるのを察知したあいつが、最後の力を振り絞って、その「誰か」に助けを呼ぼうとしたのかもしれない
それが一体誰であろうと、今の自分の悲惨な姿を見せさえすれば、か弱い女の子…ではなく、それ以上にか弱い中年男性の味方に…
絶対に自分の味方になってくれる。
助けてくれる。
などと考えたのかもしれない…。
今となっちゃ事の真意なんて到底分からないけれど…
とにかくその瞬間、部屋の中から音がするのを聞いた大家さんが、突然私の方を振り返ったから
私は体の前に構えていたナイフを急いで背中に隠した
大家さんは部屋の中から突然聞こえた音に、少し驚きながら
「どなたか…いらっしゃるの?」
と私に質問してきた
だから私は正直に
「あー…。あの…お母さんの彼…ていうか、あの…何て言うのかな…。あ、新しいお父さんが、今中で寝てるんです。あの…風邪をこじらせて…あ、でも、いいですよ。中…見てください。どうぞ。」
大家さんを安心させるためとはいえ、嘘でもあいつの事を
「お父さん」と呼んだ事に内心、反吐が出そうだった。
胸が一瞬ズキンと痛んだ
そうやって私が心の中で軽い葛藤をしていたら
大家さんの口から思いもしなかった言葉が出てきた
「そう…。じゃあ悪いから、ここはいいわね…。」
内心「へ?」と思った。
私が緊張感なく、あっけらかんとしゃべってしまったからだろうか…大家さんは部屋の中を見なかった。
見ようとしなかった。
挙動不振のさっきとは一変、落ち着き払った私の様子に、急にその言葉を信じる気になったのだろうか?
とにかくドアは開けずに、
大家さんは他の場所を軽く見ると、すぐに玄関に向かって歩き始めた
もしも私の推測通り、あいつが助けを呼びたい一心で咳をしたのだとしたら、それは完全に裏目に出てしまった事になる
あいつが最後の力を振り絞った結果が、最大にして最後のチャンスを棒に振るという結末を導いたのだとしたら、これ以上の傑作はない。
まぁ、とは言うものの、大家さんがドアを開けた所で結果は同じだったんだけど…ね。
あ、死体はひとつ増えてしまったかもしれないけれど…(笑)
とにかく大家さんはもう
二度と奥の部屋を振り返る事はなく、スタスタと玄関へと歩いていった
正直、なんか気が抜けた。
玄関に着くと、大家さんはあいつの靴を見て
「あぁ…これ」
と言った。だから私も
「えぇ…」
と答えた。
何か少しだけ急いでるみたいにさえ見えた
なんでだろう?
気のせいかな?
大家さんは玄関に置いてある自分のサンダルに、慣れた感じでスッ、スッと足を入れると、あまりキチンと挨拶もせずに、すぐに家から出ていってしまった。
出てったあと、ドアが完全に閉まりきるまでを
私はボーッと眺めながら
少しホッとしたけれど
でも本当は少し……。
……いや、いいや
やめとこう。
でも突然の大家さんの来客のおかげで、また少しハラハラドキドキ出来て嬉しかった。
いいことないかなぁ?
なんて思ってたけど、ちょっといいこと…あった、
…かな?(笑)
と言っても、肩透かしをくらったので、軽い興奮状態のまま
高ぶった気持ちはおさまらず。
だから少し、気を落ち着かせるために洗面所に行こうと思った
今度はちゃんと玄関の鍵を閉めてから、洗面所に入った(笑)
ビックリした。
鏡を見た瞬間ビックリした。
固まって黒くなっていて
わかりづらくなっていたとはいえ、私の顔や体には血の固まりが結構ついていたから。
その跡は黒くて赤かった。
こんな姿を見ても大家さんは本当に何も思わなかったのだろうか?
確かに泥遊びで汚れただけ…とか、絵の具を使って遊んだだけ…とか
血ではない他のものにも
見えなくもないけれど…。
でも、見えないから帰ったんだろうし…う~ん。ちょっとよくわからなかった
ただ改めて血でカピカピの自分の髪や体を見たら途端に気持ち悪くなり、どうしても洗い流したくなってシャワーを浴びる事にした。スカートを脱ぐと自分がまだパンツをはいてる事に
ビックリした。
てっきりあいつに脱がされたものとばかり思っていたけれど、めくれ上がったりはしているものの、ちゃんと…でもないけど、でも
はいてた。
「あいつ変態だから…あえて脱がさずに、横にずらして入れたのかな?」
そんな事を考えながら何となくパンツを脱ぐと、パンツの内側の、あそこに当たってた場所あたりにドローッとあいつの黄色がかった白濁の精液が垂れて、そしてその場所にかなりの量が溜まってて、まるで水溜まりみたくなっていた
物凄い量だった。
そこからプーン…と精液特有の独特な…漂白剤のハイターみたいな臭いがした
「中にずっと…こんなにたくさん入ってたのかな…?大丈夫かな?赤ちゃん出来たりしないかな…」
と、少し不安になった。
そういうのもあって
色んな意味で体をキレイにしたくって…
やっぱり急いでシャワーを浴びた
血で固まってたのかな?
最初に髪を洗う時、指が髪に引っ掛かって通らなくて痛くて苦労した。
シャンプーや石鹸の泡が血を溶かして混ざってピンク色だった。
ちょっとキレイだった。
髪を洗ってる時にシャワーのザーッて音とは別にボタボタッて音とあそこから何か垂れる感触がしたから、足元を見ると量は少しだったけれど、またあそこから
あいつの精子とそして赤黒い血の固まりみたいなのが落ちていた
それは水には溶けずに水の流れに乗って軽くクルクル回ると排水溝の中に吸い込まれていった
シャンプーの途中だったから私は髪に両手を入れたままの体勢で
それがクルクルと吸い込まれる様を見ながら
私はボーッとしていた、まるでその時だけ、時間が止まったみたいだった。
その止まった時間の中で私は
「単純に…信じてくれたって事…かな?」
と、突然帰った大家さんの事を、また考えていた
けど考えても考えても、帰ったものはもう仕方がないし、今更そんな事をやってても、もうキリがないので私は、その事について考えるのを止めてしまった
考えるのを止めて少し冷静になった私は
そのあと、あそこの中に指を突っ込んで中にあるものを全部掻き出そうとした。
掻き出そうとするうちにさっきの冷静さはすぐに消え失せてしまい
気付いたら狂ったように何度も指を奥まで突っ込んではグリグリ掻き回して、
あいつの汚れた精液を掻き出そうと夢中になっていた
しばらく掻き回し続けて、さすがにもう何もないだろう…って納得出来たから
今度は石鹸を泡立てて、その泡を使って外側をキレイにした
そのまま体の他の場所も全部キレイに洗って、流して、サッパリしたところで
浴室を出て、バスタオルを探して体を拭こうと思ったら
体を拭けるようなものが近くに全然なかった。
急に入ろうと思ったもんだから
私は事前にバスタオルを準備するのをすっかり忘れちゃってて
髪も体も、びちゃびちゃに濡れたまま、しばらく立ち尽くし、そうやってちょっと困った挙げ句、しょうがないから洗面所の横のタオルハンガーにかかってる手を拭く用の小さいタオルを使って体を拭く事にした。
「ん?アレ?さっき使った…っけ?」
拭こうと思って手に取った時、タオルに若干、見覚えのない赤いシミみたいなのがついてたけれど、
けどその時は大して気に留めなかった。
それから新しい服に着替えようと体を拭きながら
軽~い気持ちで奥の部屋へ戻ろうと思ったら
そしたら、なんだか急に
嫌な予感がした。
何て言うんだろう…
こういうのを胸騒ぎって言うのかな?
とにかく、とっても嫌な予感だった。
でも、いつまでも服を着ないワケにもいかないので、小さい手拭いで体を軽く覆いながら足音を立てないように
ゆっくり…ゆっくりと
奥の部屋へと近付いた
今お風呂に入ったばかりだってのに、私は背中や手足にびっしょりと汗をかいてしまっていた
それは爽やかじゃない種類の、ジトーッとした汗だった
…でもダメだった。
…どうしてもダメだった。
どうしても怖くって、踏ん切りがつかなくて
奥の部屋へと私は近付く事さえ出来ず
本当は、そのまま玄関から家の外へと出たいくらいだったけれど、裸のままではそれもかなわず
私は洗面所の方にまた戻ると、洗面台の横に置いた
さっきのナイフを握り締め
洗面所の横のトイレの中に入ると
直ぐに鍵を閉めて弁座の上に座りこんでしまった。
その時、鍵を閉める時に、自分でもビックリするくらい指先が震えてて、一回ではうまく閉められなかった。
寒さではなく…あきらかに何かに対して脅えてたんだと思う。
「あいつを最後まで殺さなくちゃ…早く止めを刺さなくちゃ…ウーさんの仇を取らなくちゃ…」
頭ではそう思うんだけど、どうしても踏ん切りがつかなくて、ナイフを両手で握り締め弁座に座ったまま
ドアにある換気の為の細長い穴からトイレの外を見つめながら
私はただ、ガタガタと震えていた。
……そのままどれくらいが経ったんだろう?
何時間も経ったようにも感じるし、ほんの数秒だったようにも感じる…
ここから先はもう、見たワケでも体験したワケでもないから音を聞いての私の想像でしかないんだけれど…
とにかく私がトイレに閉じこもってる間に、家の中では、一気に色々な事が起きた
まずは、ちゃんと鍵を閉めたハズの玄関の扉を開けて、何人かの…正確な人数まではわからないけれど、多分たくさんの人間が、部屋の中に入ってきた、それからその足音は足早に奥の部屋へと向かってって、その後すぐ誰かの大声や叫び声とかが聞こえてきて、大きな音で争ってる音が聞こえた
それからしばらくするとパトカーの音か救急車の音か、どっちかはよくわからなかったけれど家の外からサイレンの音が聞こえてきた。
奥の部屋では、どうやってやったのかはわからないけれど、床に張り付けられてたハズのあいつが、それを解いて立ち上がり、凶器を持ち、私を殺そうと奥の部屋のドアの前で待ち構えていたらしい
それを聞いてから今思うと、きっと私が自分の近くから離れる機会を、ずっとあいつは待っていたんだと思う。
弱りきって、無抵抗なフリをして…伺っていたんだと思う…
復讐する…好機を。
そこに多分シャワーを浴びる音みたいなのが聞こえてきたんじゃないかな?
それを聞いて「今だ」と思い、どうにかして固定してた包丁を抜いて動ける状態にまで復活し、私の帰りを今か今かと部屋の中で待っていたんじゃないだろうか…?
奥の部屋に突入した警察官の何人かが突然切り付けられて怪我を負わされたと、あとから聞いた時、そう思った。
騒がしかった家の中が静まり返ってしばらくしてから、私の名を呼び、私を探す女の人の声がした…
それは聞き覚えのある懐かしい声った…
「…そんな、まさか」
私は自分の耳を疑った
その声の主がもしも外にいるのなら…私は…私は…
驚きと困惑と喜びに背中を押され
恐る恐る鍵を開け
私はトイレのドアをゆっくりと開いた…。
あの人の笑顔を期待して…
お母さんがそこにいてくれる事だけを期待して…
つづく
何を思っていて、
背後から私が
何をしようと
しているのかなんて…
そんな事は何も知らずに
大家さんは無防備な後ろ姿を晒したまま、奥の部屋へとつづくドアノブに手を掛けた
…いや、真後ろからじゃ、ちょっとよく見えなかったけれど、もしかしたら手を掛けようとした、その一瞬手前だったかもしれない
とにかく、ドアを開けるその直前に突然…
ゴホッ
という咳をする声が部屋の中から、小さくだけど確かにわたしたちふたりの耳に聞こえてきた
もしかしたら
私以外の誰かが家の中にいるのを察知したあいつが、最後の力を振り絞って、その「誰か」に助けを呼ぼうとしたのかもしれない
それが一体誰であろうと、今の自分の悲惨な姿を見せさえすれば、か弱い女の子…ではなく、それ以上にか弱い中年男性の味方に…
絶対に自分の味方になってくれる。
助けてくれる。
などと考えたのかもしれない…。
今となっちゃ事の真意なんて到底分からないけれど…
とにかくその瞬間、部屋の中から音がするのを聞いた大家さんが、突然私の方を振り返ったから
私は体の前に構えていたナイフを急いで背中に隠した
大家さんは部屋の中から突然聞こえた音に、少し驚きながら
「どなたか…いらっしゃるの?」
と私に質問してきた
だから私は正直に
「あー…。あの…お母さんの彼…ていうか、あの…何て言うのかな…。あ、新しいお父さんが、今中で寝てるんです。あの…風邪をこじらせて…あ、でも、いいですよ。中…見てください。どうぞ。」
大家さんを安心させるためとはいえ、嘘でもあいつの事を
「お父さん」と呼んだ事に内心、反吐が出そうだった。
胸が一瞬ズキンと痛んだ
そうやって私が心の中で軽い葛藤をしていたら
大家さんの口から思いもしなかった言葉が出てきた
「そう…。じゃあ悪いから、ここはいいわね…。」
内心「へ?」と思った。
私が緊張感なく、あっけらかんとしゃべってしまったからだろうか…大家さんは部屋の中を見なかった。
見ようとしなかった。
挙動不振のさっきとは一変、落ち着き払った私の様子に、急にその言葉を信じる気になったのだろうか?
とにかくドアは開けずに、
大家さんは他の場所を軽く見ると、すぐに玄関に向かって歩き始めた
もしも私の推測通り、あいつが助けを呼びたい一心で咳をしたのだとしたら、それは完全に裏目に出てしまった事になる
あいつが最後の力を振り絞った結果が、最大にして最後のチャンスを棒に振るという結末を導いたのだとしたら、これ以上の傑作はない。
まぁ、とは言うものの、大家さんがドアを開けた所で結果は同じだったんだけど…ね。
あ、死体はひとつ増えてしまったかもしれないけれど…(笑)
とにかく大家さんはもう
二度と奥の部屋を振り返る事はなく、スタスタと玄関へと歩いていった
正直、なんか気が抜けた。
玄関に着くと、大家さんはあいつの靴を見て
「あぁ…これ」
と言った。だから私も
「えぇ…」
と答えた。
何か少しだけ急いでるみたいにさえ見えた
なんでだろう?
気のせいかな?
大家さんは玄関に置いてある自分のサンダルに、慣れた感じでスッ、スッと足を入れると、あまりキチンと挨拶もせずに、すぐに家から出ていってしまった。
出てったあと、ドアが完全に閉まりきるまでを
私はボーッと眺めながら
少しホッとしたけれど
でも本当は少し……。
……いや、いいや
やめとこう。
でも突然の大家さんの来客のおかげで、また少しハラハラドキドキ出来て嬉しかった。
いいことないかなぁ?
なんて思ってたけど、ちょっといいこと…あった、
…かな?(笑)
と言っても、肩透かしをくらったので、軽い興奮状態のまま
高ぶった気持ちはおさまらず。
だから少し、気を落ち着かせるために洗面所に行こうと思った
今度はちゃんと玄関の鍵を閉めてから、洗面所に入った(笑)
ビックリした。
鏡を見た瞬間ビックリした。
固まって黒くなっていて
わかりづらくなっていたとはいえ、私の顔や体には血の固まりが結構ついていたから。
その跡は黒くて赤かった。
こんな姿を見ても大家さんは本当に何も思わなかったのだろうか?
確かに泥遊びで汚れただけ…とか、絵の具を使って遊んだだけ…とか
血ではない他のものにも
見えなくもないけれど…。
でも、見えないから帰ったんだろうし…う~ん。ちょっとよくわからなかった
ただ改めて血でカピカピの自分の髪や体を見たら途端に気持ち悪くなり、どうしても洗い流したくなってシャワーを浴びる事にした。スカートを脱ぐと自分がまだパンツをはいてる事に
ビックリした。
てっきりあいつに脱がされたものとばかり思っていたけれど、めくれ上がったりはしているものの、ちゃんと…でもないけど、でも
はいてた。
「あいつ変態だから…あえて脱がさずに、横にずらして入れたのかな?」
そんな事を考えながら何となくパンツを脱ぐと、パンツの内側の、あそこに当たってた場所あたりにドローッとあいつの黄色がかった白濁の精液が垂れて、そしてその場所にかなりの量が溜まってて、まるで水溜まりみたくなっていた
物凄い量だった。
そこからプーン…と精液特有の独特な…漂白剤のハイターみたいな臭いがした
「中にずっと…こんなにたくさん入ってたのかな…?大丈夫かな?赤ちゃん出来たりしないかな…」
と、少し不安になった。
そういうのもあって
色んな意味で体をキレイにしたくって…
やっぱり急いでシャワーを浴びた
血で固まってたのかな?
最初に髪を洗う時、指が髪に引っ掛かって通らなくて痛くて苦労した。
シャンプーや石鹸の泡が血を溶かして混ざってピンク色だった。
ちょっとキレイだった。
髪を洗ってる時にシャワーのザーッて音とは別にボタボタッて音とあそこから何か垂れる感触がしたから、足元を見ると量は少しだったけれど、またあそこから
あいつの精子とそして赤黒い血の固まりみたいなのが落ちていた
それは水には溶けずに水の流れに乗って軽くクルクル回ると排水溝の中に吸い込まれていった
シャンプーの途中だったから私は髪に両手を入れたままの体勢で
それがクルクルと吸い込まれる様を見ながら
私はボーッとしていた、まるでその時だけ、時間が止まったみたいだった。
その止まった時間の中で私は
「単純に…信じてくれたって事…かな?」
と、突然帰った大家さんの事を、また考えていた
けど考えても考えても、帰ったものはもう仕方がないし、今更そんな事をやってても、もうキリがないので私は、その事について考えるのを止めてしまった
考えるのを止めて少し冷静になった私は
そのあと、あそこの中に指を突っ込んで中にあるものを全部掻き出そうとした。
掻き出そうとするうちにさっきの冷静さはすぐに消え失せてしまい
気付いたら狂ったように何度も指を奥まで突っ込んではグリグリ掻き回して、
あいつの汚れた精液を掻き出そうと夢中になっていた
しばらく掻き回し続けて、さすがにもう何もないだろう…って納得出来たから
今度は石鹸を泡立てて、その泡を使って外側をキレイにした
そのまま体の他の場所も全部キレイに洗って、流して、サッパリしたところで
浴室を出て、バスタオルを探して体を拭こうと思ったら
体を拭けるようなものが近くに全然なかった。
急に入ろうと思ったもんだから
私は事前にバスタオルを準備するのをすっかり忘れちゃってて
髪も体も、びちゃびちゃに濡れたまま、しばらく立ち尽くし、そうやってちょっと困った挙げ句、しょうがないから洗面所の横のタオルハンガーにかかってる手を拭く用の小さいタオルを使って体を拭く事にした。
「ん?アレ?さっき使った…っけ?」
拭こうと思って手に取った時、タオルに若干、見覚えのない赤いシミみたいなのがついてたけれど、
けどその時は大して気に留めなかった。
それから新しい服に着替えようと体を拭きながら
軽~い気持ちで奥の部屋へ戻ろうと思ったら
そしたら、なんだか急に
嫌な予感がした。
何て言うんだろう…
こういうのを胸騒ぎって言うのかな?
とにかく、とっても嫌な予感だった。
でも、いつまでも服を着ないワケにもいかないので、小さい手拭いで体を軽く覆いながら足音を立てないように
ゆっくり…ゆっくりと
奥の部屋へと近付いた
今お風呂に入ったばかりだってのに、私は背中や手足にびっしょりと汗をかいてしまっていた
それは爽やかじゃない種類の、ジトーッとした汗だった
…でもダメだった。
…どうしてもダメだった。
どうしても怖くって、踏ん切りがつかなくて
奥の部屋へと私は近付く事さえ出来ず
本当は、そのまま玄関から家の外へと出たいくらいだったけれど、裸のままではそれもかなわず
私は洗面所の方にまた戻ると、洗面台の横に置いた
さっきのナイフを握り締め
洗面所の横のトイレの中に入ると
直ぐに鍵を閉めて弁座の上に座りこんでしまった。
その時、鍵を閉める時に、自分でもビックリするくらい指先が震えてて、一回ではうまく閉められなかった。
寒さではなく…あきらかに何かに対して脅えてたんだと思う。
「あいつを最後まで殺さなくちゃ…早く止めを刺さなくちゃ…ウーさんの仇を取らなくちゃ…」
頭ではそう思うんだけど、どうしても踏ん切りがつかなくて、ナイフを両手で握り締め弁座に座ったまま
ドアにある換気の為の細長い穴からトイレの外を見つめながら
私はただ、ガタガタと震えていた。
……そのままどれくらいが経ったんだろう?
何時間も経ったようにも感じるし、ほんの数秒だったようにも感じる…
ここから先はもう、見たワケでも体験したワケでもないから音を聞いての私の想像でしかないんだけれど…
とにかく私がトイレに閉じこもってる間に、家の中では、一気に色々な事が起きた
まずは、ちゃんと鍵を閉めたハズの玄関の扉を開けて、何人かの…正確な人数まではわからないけれど、多分たくさんの人間が、部屋の中に入ってきた、それからその足音は足早に奥の部屋へと向かってって、その後すぐ誰かの大声や叫び声とかが聞こえてきて、大きな音で争ってる音が聞こえた
それからしばらくするとパトカーの音か救急車の音か、どっちかはよくわからなかったけれど家の外からサイレンの音が聞こえてきた。
奥の部屋では、どうやってやったのかはわからないけれど、床に張り付けられてたハズのあいつが、それを解いて立ち上がり、凶器を持ち、私を殺そうと奥の部屋のドアの前で待ち構えていたらしい
それを聞いてから今思うと、きっと私が自分の近くから離れる機会を、ずっとあいつは待っていたんだと思う。
弱りきって、無抵抗なフリをして…伺っていたんだと思う…
復讐する…好機を。
そこに多分シャワーを浴びる音みたいなのが聞こえてきたんじゃないかな?
それを聞いて「今だ」と思い、どうにかして固定してた包丁を抜いて動ける状態にまで復活し、私の帰りを今か今かと部屋の中で待っていたんじゃないだろうか…?
奥の部屋に突入した警察官の何人かが突然切り付けられて怪我を負わされたと、あとから聞いた時、そう思った。
騒がしかった家の中が静まり返ってしばらくしてから、私の名を呼び、私を探す女の人の声がした…
それは聞き覚えのある懐かしい声った…
「…そんな、まさか」
私は自分の耳を疑った
その声の主がもしも外にいるのなら…私は…私は…
驚きと困惑と喜びに背中を押され
恐る恐る鍵を開け
私はトイレのドアをゆっくりと開いた…。
あの人の笑顔を期待して…
お母さんがそこにいてくれる事だけを期待して…
つづく