Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

宮部みゆき「魔術はささやく」再読

2011-08-02 20:20:23 | 読書感想文(国内ミステリー)




それは、社会面のありふれた記事だった。
一人はマンションの屋上から飛び降り、もう一人は地下鉄に飛び込んだ。
そしてまたもう一人はタクシーの前に飛び出していった。まるで何かに追われているかのように。
それらの新聞記事を読んで、三つの死に関連があると想像する者はいなかった。
死んだ女たちの過去を知る、ある人物を除いては。

三人目の女をはねたタクシーの運転手には、事情があって一緒に暮らしている高校生の甥がいた。
つらい過去を持つ少年もまた、知らず知らずのうちに事件に巻き込まれてしまい…


木村佳乃主演でドラマ化すると聞いたので、本棚から文庫本を引っ張り出して読み返してみました。
読み始める前はあらすじや登場人物の設定を忘れていたのですが、読んでるうちにどんどん記憶が
蘇ったので、あっという間に読み終えてしまいました。ま、何度も読んだことのある本だから
当たり前なのですが。それでも最後まで面白く読むことができたので、やっぱり宮部みゆきって
すごいんですね。最近の著作はあまり読んでないけど…(興味がないというより予算の都合で)

ドラマで木村佳乃が演じるのは、人には言えない後ろ暗い過去を持ち、自分を追う“何か”に怯えながら
暮らす高木和子の役でした。小説の高木和子は20代半ばだったので、ちょっと設定に無理があるかなと
思ったのですが、ドラマの設定はそんな細かいこと気にしてたらやってられないくらい原作とかけ離れた
ものだったので、気にしないことにします。

ドラマの主演は木村佳乃ということになってますが、原作の小説の主人公は、タクシー運転手の甥の
守でした。この守君は例によって例のごとく
「つらい生い立ちなのに、ひねくれずに育った正義感の強い良い子」
という、宮部ファンにはお腹イパーイの宮部作品お約束のキャラでございますので、まあなんか主人公に
するにはいい子ちゃんすぎていまひとつですね。

ドラマでは和子と守が生き別れの姉と弟という設定になっているそうですが、原作では全然そんなことありません。
なんでドラマでは姉と弟なんて設定にしたのかわけがわかりませんが、まあなんかいろいろ事情があるんで
しょうね。でもそうなるとこの小説のもうひとつの柱である、守の父親の事件の話がどう扱われるのか全然
見えてきません。もしや完全スルーなんでしょうか。だとしたらもうこの小説の魅力は半分以上なくなって
しまうと思うんですけど。

個人的には、守の父親の事件にかかわる人物で、守のために嘘の証言までした吉武浩一のセリフ
「不公平だ」
には、頭をガーンと揺さぶられるほど衝撃を受けました。
こんなに努力してるのに報われない、なぜ自分がこんな目に、自分は悪くない、自分は―
吉武浩一の半生は同情するところもあるけれど、それにしたって彼の犯した罪は許されません。
守の伯父が事件に巻き込まれたことについて、吉武が何度も「不公平だ」と口にするたびに、それが
吉武の自分自身への言い訳に思えて違和感がありました。でも、それと同時にまた、「不公平だ」と怒る
吉武の気持ちに同調する自分にも気づいて、またちょっと自己嫌悪に陥ったりもして。
他人と自分を比べて不公平だと不満に思うところは、自分の中にもあるので…。
そんなんじゃいけませんね、反省反省。

この小説に出てくる殺人のトリックについては、最初に読んだ時も今も「こんなのできるの?」という
疑問があります。犯人は完全犯罪を謳っているけど、どうもこのトリックには現実味が感じられない…。
いっそ超能力とかのほうが納得がいったかもしれません。


守と同級生の「あねご」や、守のバイト先の店長と守の従姉のちょっとした恋バナも出てきますが、
書いてるのが宮部さんなので、いつも通りの不完全燃焼でまあ結構どうでもいい感じ。
人間の内面のえげつない部分も描ける人なのに、どうして男女の心理描写がこうも残念なのでしょうね。
まあ、そこが魅力といえなくもないけど。

ドラマは連ドラではなく単発の2時間ドラマらしいので、守が主人公じゃなくなったのはそのへんも
理由の一つなんでしょうね。守の背景を詳しく描いてると尺が絶対足りないから。
どんなドラマになるのか楽しみではありますが、この前の3夜連続東野圭吾みたいな残念なドラマに
なるんじゃないかという不安も捨てきれない…どきどき。



2 コメント

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原作を読んでいませんが (doremi)
2011-10-16 19:29:35
私、原作は読んでいないのですよ~
以前もテレビドラマ化された事があって、それを再放送で見たことがあるのです。
確か、山口智子と吉岡秀隆が演じていました。
こちらの方が登場人物に魅力を感じました。

そのイメージがあったせいか、今回のドラマは面白くなかった。
ドラマとしてダメです。
でも、小池栄子には魅力を感じました。
血が通ってるというか、一番リアルな感じがしました。
原作を読んでみようと思っているところです。
そうしたら、感想も違ってくる事でしょう。
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こんばんは (もちきち)
2011-10-16 23:11:50
>doremiさん
こんばんは。コメントありがとうございます。

>以前もテレビドラマ化された事があって、それを再放送で見たことがあるのです。
>確か、山口智子と吉岡秀隆が演じていました。
そうなんですか~
調べてみたら、火曜サスペンスで放送されたんですね。
吉岡秀隆が高校生の役をやってた、というところに時代を感じます。
こちらのドラマのほうが設定が原作に近そうなので、私も見てみたいです。

>でも、小池栄子には魅力を感じました。
>血が通ってるというか、一番リアルな感じがしました。
小池栄子の役の設定はほぼドラマオリジナルなので、
そこは脚本の勝利かもしれませんね。

原作は書かれたのがだいぶ前なので少し古く感じるかもしれませんが、
吉武浩一の過去や守の苦悩など、ドラマには出てこなかった部分が詳しく
描かれているので、ぜひ読んでみてください。
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