植物状態の患者とコミュニケートできる医療システム、「SCインターフェース」が開発された。
少女漫画家の敦美は、そのシステムを利用して飛び降り自殺未遂で意識不明の弟・浩市と対話を続けるが、
自殺の理由を問う敦美に浩市は答えないまま、月日が過ぎて行った。しかし、植物状態の浩市と“センシング”と呼ばれる
コミュニケーションを続けているうちに、敦美の日常に不可解な出来事が起きるようになり…
※ここから先はがっつりネタバレがあります。ご注意ください。
この「完全なる首長竜の日」は、2011年の「このミステリーがすごい!」の大賞受賞作で、6月に佐藤健・綾瀬はるかの
W主演で映画が公開されるそうです。映画の公式サイトを見たら、映画は小説と設定を変えて、佐藤健と綾瀬はるかは
きょうだいではなく恋人同士という設定みたいですが、監督が黒沢清だからぬるい恋愛ものにはならないでしょう。
ミステリー小説のはずなのに、中盤まで読み進めても特に事件も起きず、夢と現実が入り混じっている敦美の日常が
淡々と描写されるだけなので「おいおいどうなってるの~?ほんとにこれが大賞?」と「このミス」に不信感を
抱きそうになりました。しかし、謎が解けるクライマックスとラストでパズルのピースがかちっとはまったので、
悲しい結末だけどすっきりした気分にもなりました。いやマジで悲しいけど。
何が悲しいって、主人公の敦美。アラフォー独身、子供なし。15年も続けた連載が打ち切りになって、さしあたっての
仕事もない。母親はがんでなくなり、父親とは幼いころに離別。そして弟は…という、同じくアラフォーの私にとっては
他人事とは思えない境遇に、涙を誘われました。
いや、私の両親は健在だけど。敦美みたいに、打ち切りになったとはいえ大ヒットした連載漫画もないけど。
SCインターフェースのように、植物状態になっている人とバーチャルでコミュニケーションできるという設定は他の映画や
小説ですでに使われていますが、そういったものはたいてい未来が舞台で、現代の日本で行われているという設定は
新鮮でした。「現代の医学・科学でそれは無理だろ~」と突っ込みたくなるけれど、敦美とアシスタントの真希ちゃんとの
やりとりとか(漫画家より絵の上手いアシスタントって普通にいそう)、敦美が馴れないホームパーティをしようとして
悪戦苦闘する姿とか、独身でそこそこお金を持ってるはずなのに、浮いた話のない敦美の干物ぶりとかにリアリティが
あるから、「これくらいありかも」と容認する気になりました。あくまでフィクションの話としてですが。
でも、そんな風にリアリティがあっても、夢と現実の区別がつかなくなる話はたくさんあります。
最近では「インセプション」とか。で、そういう話の結末は大抵が
「現実だと思ってたのに、実は夢だった」
というもの。まあ、その逆だとめでたしめでたし過ぎてひねりがありませんもんね。なので、この小説もきっと
そうだろうと思って読んでました。断片的に綴られる敦美の日常の中に、矛盾点を探して作者の隠したヒントを
探したりして。ちなみに、私は首長竜の置物が砂の中から見つかったところで「!」と思いましたが、それよりも
早くに重要なヒントが出てました。それが何かというのは…ここまでネタバレをしていて言うのもなんですが、
本を読んでのお楽しみということで。それは、ここまでぶっ飛んだ設定のミステリーの割には、古典的なヒントでした。
「相棒」でよく杉下さんが見破るやつです。今年のお正月スペシャルにも出てきました。
で、この小説の結末は、ある意味予定通りだったのですが、ラストシーンまでの持って行き方に驚きました。
ラスト3ページ前まで読んだときは、「一応どんでん返しもあったし、これで終わるのかな」と思っていたのですが、
まさかのあの人再登場。敦美はこの人との再会で絶望的な気分になってましたが、それはこちらも同じです。
けれど、一番絶望的なのはラストシーンのその後でしょう。何度同じことをしても敦美はきっと…でしょうから。
砂浜に埋めた首長竜を拾うのは誰か、想像しただけで胸が痛くなります。
小説の仕掛けにSF要素やオカルト要素に頼るところがあったので、正直ミステリー小説としてはちょっとくせがありますが、
最後に語られる主人公の孤独感が、読後に余韻をもたらしてくれました。もう一度最初から読めば、見落としていた
ことが見つかって、また違う解釈、深い解釈ができるようになりそうです。
ところで、登場人物の中で数少ない不快キャラとして出てくる、武本看護師。彼女はいわゆるマンガオタの腐女子という
設定でしたが、彼女のせいでマンガオタや腐に対して悪いイメージを持つ読者が出ないことを祈ります。
皆が皆、あんな失礼な奴じゃないからね!真面目で礼儀正しい人もいっぱいいるんだからね!
こんにちは。コメントありがとうございます。
>高村薫はお好きですか?
高村薫は、「マークスの山」しか読んだことがありません。
他の作品もいつかじっくり読もうと思ってはいるのですが、なかなか時間が…。
「冷血」、どんな話なのか気になります。ぜひ読んでみたいです。
高村薫はお好きですか?
合田雄一郎が出るということで読み始めたのですが、「冷血」とはなんだったんでしょうか。
初めて冷血の文字が出るのは医師の発言に対してだと思いますが、犯人が冷血なのか、司法が冷血なのか、被害者遺族が冷血なのか、そもそも冷血とはなんなんだろうと読み終えて思いました。
機会がありましたら感想をお願いします。
こんばんは。コメントありがとうございます。
この小説は、現実の場面と夢の場面の境界があいまいで混乱しますよね。
>あの世界も現実ではない…という解釈で合っていますか???
読み方によってはどんな風にもとれる小説ですが、あの人が再登場した場面はきっとそうだろう、と私は解釈してます。
これが正解、っていう絶対的な解釈を探すよりも、いろいろなパターンを考えてみるのも面白いと思いますよ。
例えば、この物語すべてが主人公の妄想だった、とか…。
「完全なる首長竜の日」をキーワードに検索してて、こちらにたどり着きました。
昨日読了しました。
自分なりに解釈したものの、どうもしっくりこないので他の方々の解釈が気になります…
未読の方にネタバレにならないように配慮をしてコメントを致しますと…
“まさかのあの人再登場”したということは…
つまり…
あの世界も現実ではない…という解釈で合っていますか???